糸紡ぎの聖女を代々輩出するユーリホキラス家。
その血を引く者は生まれながらに糸を操る不思議な力を持つ。指先から光る糸を紡ぎ、布を織れば病を癒し、結べば縁を結び、解けば呪いを断ち切る。
だがリディアの指先には、何も宿らなかった。
何も。
十歳のとき初めての糸紡ぎの儀式に臨んだリディアは、同い年の従姉妹たちが銀色の光を指から溢れさせるなか、ただ紡ぎ棒を握りしめたまま立ち尽くしていた。
「……リディア様。もう一度」
儀式を取り仕切る神官の声は穏やかだったが、三度目の試みの後、その目に諦めの色が滲んだことをリディアは見逃さなかった。
それ以来七年。リディアは聖女の力こそ持たないが、家の名誉のためにと礼儀作法、外国語、音楽、刺繍、そして何より普通の糸紡ぎと機織りを叩き込まれた。
聖なる力のない糸でも、熟練の技で織り上げた絹布は美しい。それがせめてもの、とリディアは思っていた。
そんな春の朝だった。



