それだけ、と彼は言う。強制はしない。見返りを先に示すわけでもない。ただ、あなたなら、と言う。
リディアは布の切れ端を、そっと作業台に置いた。
警戒する理由を、頭の中で並べた。初対面に近い相手だ。目的がまだわからない。公爵家の思惑に巻き込まれる可能性もある。母は縁談のことを考えている。
それでも。
「……一つ、聞かせてください」
「何だ」
「閣下は」
リディアはアルシェを見上げた。
「聖女の力を、どう思っていますか」
アルシェは少し間を置いた。窓から差し込む光が、その琥珀色の目に当たって金色に揺れた。
「……あれば便利だ」
彼は静かに言った。
「俺自身も豊穣の聖女の能力を受け継いだ一人であるが、それだけだ。ただ便利な力だとしか思ったことがない」



