聖女の力のない令嬢の織った布に、冷徹公爵は恋をした。





 三日後の午後、リディアはネティヤ公爵邸の門をくぐった。

 夜会の夜とは全く異なる邸の顔がそこにあった。昼間の光の中で見るネティヤ邸は、華やかさよりも重厚さが勝っていた。石造りの壁は苔むした部分もあり、手入れされた庭園には季節の花よりも薬草や見慣れない植物が多く植えられている。豊穣の聖女の家らしい、と思った。美しさのためではなく、実用のために整えられた庭だ。

 案内の使用人に連れられて邸の中へ入り、長い廊下をいくつか曲がった先に、工房はあった。

 扉を開けた瞬間、リディアは思わず足を止めた。

 広い。天井が高く、大きな窓から午後の光が惜しみなく差し込んでいる。壁際には棚が並び、土の入った鉢や小瓶、見たことのない器具が整然と置かれていた。部屋の中央には大きな作業台があり、その上に土のサンプルらしきものが並んでいる。土の匂いと、青草の匂いと、何か薬品に似た鋭い香りが混じり合っていた。

 そしてアルシェが、作業台の前に立っていた。

 夜会の夜の礼服ではなく、シンプルな白いシャツに作業用の上着を羽織っている。袖が肘まで捲り上げられていて、リディアは少し面食らった。公爵がそんな格好をしているとは思っていなかった。