不吉を呼ぶ姫は愛されないはずだった


夕食の時間になると、アリスたちは王宮の食卓へ向かった。

ほどなくして、仕事を終えたエドワードとウィルも加わり、六人で食卓を囲む。

テーブルには、昼間に作ったシチューが湯気を立てて並べられていた。

エドワードは目の前の皿へ視線を落とす。

「美味しそうだ。これを、皆で作ったのだね」

「うん。アリス様に習ったんだよ。ねえ?」

ルーカスがそう言って、隣のエドワードを見たあと、向かいのエレナへ顔を向ける。

「うん。お料理、楽しかった!」

エレナも勢いよく頷いた。

エドワードは二人の様子を少し眺めてから、今度はアリスへ視線を向けた。

「アリス様、世話になったね。ありがとう」

「私も、とても楽しかったです。ナタリア様や、こちらの料理人の方にもお手伝いいただきました」

すると、ナタリアも微笑む。

「私も久しぶりにお料理ができて、良かったわ」

「そうか。それは良かったな。王宮へ入ると、なかなかそんな機会もなくなるからね」

「ええ。本当に」

それぞれがシチューへ手をつける。

エドワードは一口食べると、口元を綻ばせた。

「すごく美味しくできているな」

「本当だ、美味しい」

ルーカスはそう言ってから、待ちきれないように続けた。

「父上、僕、野菜を切ったんだよ」

「そうなのか」

「同じ大きさに切れたんだよ」

得意そうに話すルーカスに、エドワードは頷いた。

「それはすごいな」

その言葉を聞くと、エレナもすぐに続く。

「私は、お鍋に野菜を入れたの!」

「エレナも頑張ったね」

競うように話す二人を、ナタリアは柔らかな表情で見つめている。

アリスはそのやり取りを微笑ましく見てから、シチューを黙々と口へ運ぶウィルへそっと話しかける。

「どうでしょうか?」

「美味しい」

ウィルのつぶやきに、アリスはほっとした。

しばらくして、隣のエレナがアリスを見る。

「アリス姉さま、お肉、柔らかいね」

「長く煮込みましたからね」

「三時間だよね」

「覚えていたんですね」

「うん!」

エレナは頷くと、もう一口シチューを口へ運んだ。

その向かいでは、ルーカスが今度はウィルへ顔を向ける。

「おじさま、僕が切った野菜、どれか分かる?」

ウィルは皿の中へ視線を落とした。

「……これか?」

「うん。たぶん、それ」

ルーカスが指さす。

ウィルはその野菜を見てから、ルーカスへ視線を戻した。

「上手く切れてるな」

「本当?」

「ああ」

ルーカスは満足そうに胸を張った。

やがて、話題は料理そのものへと移っていく。

「父上は、お料理したことある?」

不意にルーカスが尋ねる。

「残念ながら、料理をする機会はなくてね」

「そうなんだ」

ルーカスはそのまま隣のウィルを見る。

「おじさまは?」

「オレもないな」

「じゃあさ、今度やろうよ。父上も、おじさまも」

無邪気にそう言うルーカスに、エドワードは面白そうに眉を上げた。

「それは楽しそうだな」

「そうだな」

ウィルも短く答える。

そのやり取りを聞いていたアリスは、思わず正面のウィルを見た。

視線に気づいたウィルが、アリスへ顔を向ける。

「何だ?」

「いえ……ウィル様とお料理してみたいなと思ってしまいました」

ウィルは何でもないことのように言った。

「では、今度教えてくれ」

アリスは目を丸くする。

「……はい」

それから、ふふと小さく笑った。

食事が進み、やがて皿が下げられる。

代わりに運ばれてきたのは、クッキーだった。

花や星、月、犬や猫。

様々な形のクッキーが、大きな皿いっぱいに並べられている。

「わあ!」

エレナが身を乗り出すように皿を覗き込んだ。

「お父さま、このクッキーも作ったの!」

「これはずいぶん賑やかだな」

エドワードは大皿いっぱいに並んだクッキーを見て、目を細めた。

「私が小麦粉とお砂糖を量ったの」

「ちゃんと量れたのかい?」

「うん!」

「それは大役だったな」

エレナは得意そうにしてから、すぐに皿の中を探し始める。

「あ、これ、私の星」

その隣で、ルーカスも皿を覗き込んだ。

「僕の犬もある。ちゃんと焼けてる」

一つ手に取ると、嬉しそうに眺める。

「ふふ、綺麗にできてるわね」

ナタリアも花のクッキーを手に取る。

「母上はお花だったよね」

「ええ」

「アリス姉さまは月!」

エレナの声に、アリスも皿へ目を向けた。

「そうですね」

アリスが頷く。

「どれから食べようかな……」

エレナは真剣な顔で皿を見つめる。

その隣では、ルーカスが犬の形のクッキーを一口かじった。

「エレナ、おいしいよ」

「本当?」

エレナも慌てて星形のクッキーを一つ手に取る。

食堂には、子どもたちの楽しそうな声が響いていた。

エドワードとナタリアはそんな二人の話を聞きながら、時折相槌を打つ。

ウィルとアリスも会話に加わりながら、賑やかな食卓を楽しんだ。