「祭り?」
「夏だからな。国立公園での夏祭りだ」
翌日、重治は一枚のチラシを見せてくれた。
チラシには漆黒の夜空を彩る色鮮やかな大輪の花火と、やわらかな光を灯すたくさんの提灯が描かれている。
「戦争終結日だっけ?確か総督府のお偉いさんも来るとか何とかで……」
桃李がチラシの端に小さく印字された『戦争終結記念式典 午後五時より開催』という文字を指差し、身を乗り出す。
「軍の警備も厳しいだろう。運が良ければ上官に会えるかもな」
重治がそう付け加えると、部屋の中の空気がわずかに緊張を帯びた。
「上官……」
私がポツリと呟くと、重治は静かに頷く。
「もし連絡が取れれば、今のこの宙ぶらりんな状況を打破する手がかりになるかもしれない。……平八に感づかれずに動く必要があるがな」
「そういう計画は俺がいないとこでやれ」
同じくソファに座りながら本を読んでいた平八が、冷ややかな声を割り込ませた。
「言っておくが、祭りに行くだけなら目をつぶってやる。だが、余計な動きを見せたら速攻で連れ戻すからな」
「逃げて良い?」
「鎖に繋がれてぇか」
「こえー」
桃李は心底恐ろしいものを見たかのように、大袈裟に両手を上げて後退りし、平八からすっと距離を取る。
「物騒な冗談はやめろ、平八」
重治が呆れたようにため息をつき、深くソファに腰掛ける。
「……戦争が終わって、もう何年だっけ?」
窓の外、夏の強い日差しを見つめながら桃李がぽつりと呟く。
「今年でちょうど三年だ」
「三年……」
数字だけ聞けば長いような、短いような。
✳✳✳
(おぉ〜……!)
祭囃子に耳を傾けながら夜の町を歩く。
軒先には提灯が吊るされ、屋台の前はたくさんの人で賑わっていた。
焼きそば。
たこ焼き。
焼きとうもろこし。
かき氷。
りんご飴。
綿菓子。
香ばしい匂いと甘い匂いが混ざり合い、どこからともなく聞こえてくる笑い声が祭囃子に重なる。
可愛らしいキャラクターの袋に入った綿菓子もあるが、私は棒に巻き付いた綿菓子の方がなんとなく好きなので、それを購入して屋台を冷やかして歩く。
「なぁ重治。奢って〜」
「何を馬鹿なことを言っているんだ。自分の金で買え」
「じゃあ紫乃……食い物買いすぎじゃね?」
桃李が呆れたように私を見た。
言われてみれば、ひと通り買った食べ物で両手が塞がっている。
右手には綿菓子とりんご飴。
左手にはたこ焼きと焼きとうもろこし。
他にも、ビニール袋の中には焼きそばとお好み焼きが入っている。これは平八へのお土産にしようと思う。
「……祭りを食い倒れ大会か何かと勘違いしてない?」
「桃李にだけは言われたくないよ」
「これは祭りの嗜み!紫乃みたいに両手塞がるまで買い込むのとは訳が違うねー」
抗議するように胸を張る桃李の頭には、キツネのお面が乗っている。
さらにその手元を見れば、色とりどりの水風船が数個と、ケチャップとマスタードがたっぷり塗られたフランクフルトが握られていた。
「まぁまぁ、二人ともそのくらいにしておけ」
呆れ顔の重治が割り込み、私の左手からたこ焼きのパックとビニール袋をすっと取り上げてくれた。
「ありがと」
「全く。財布の中身がすっからかんになっても知らないぞ」
「俺としては紫乃の気持ち分かるけどなー。祭りって普段食べないものがいっぱいあるじゃん?買うしかないでしょ!」
桃李が横から口を挟みながら、フランクフルトを一口かじる。
そんなやり取りをしながら歩いていると、「おい」と背後から声をかけられた。
そこに立っていたのは、軍服姿の上官。
「お久しぶりです!上官」
「上官もお祭りですか?」
「いや、僕は警備だ」
「確か総督府の偉いさんが来てるんでしたっけ?」
「ああ、そうだな。……軍も人手不足だから駆り出されてしまったよ」
苦笑しながら上官は頭を掻く。
「最近の行方不明事件で、軍部は大きく二つの派閥に分かれている。現状維持の保守派と一度古い体制を壊そうとする革新派だ」
「さ、さっきから話が難しいですよ……」
「つまり、『このまま総督府の言いなりになっていこ』っていうのが保守派で、『総督府をなくして再興する』のが革新派ってことでしょ」
「……まぁ、大体はそんな感じだ。今の軍部には圧倒的に保守派が多い。しかし、やはり総督府に押さえつけられていたことに不満を持つ革新派もいてな……今回の行方不明事件をきっかけに動こうとしている連中もいる状態だ」
「つまり、今の軍はバラバラ状態ってことですか?」
「ああ。ま、お前らは余計な心配をせず祭りを楽しめよ」
自嘲気味な苦笑いを浮かべると、上官はひらひらと手を振り、人ごみの中へと消えていった。
「……なんか、思ってたよりきな臭いことになってきたね」
桃李がフランクフルトの串をくるくると回しながら呟く。
「そうだな。政治とはそういうものだ」
「むずー」
その時、ふと遠くの方からヒュ〜〜〜……と、夜空に向かって高い音が伸びていく。
一瞬の静寂のあと、ドーンというお腹に響く重低音とともに、漆黒の空に鮮やかな朱色と金の光が弾けた。
「綺麗……」
夜空いっぱいに広がった花火を見上げながら、私は思わず呟いた。
赤、青、金、緑。
次々と色を変えながら咲いては消えていく大輪の花に、周囲からも歓声が上がる。
「いやー、やっぱ夏祭りと言えば花火だよな!」
「平八も来れば良いものを」
「まぁまぁ、今日は大事な用があるって言ってたし、良いんじゃないか?」
✳✳✳
翌日、ダラダラとテレビを見ていたら、速報が流れる。
『昨夜未明、総督府の役人数名が殺害される事件が―――』
「「「!?」」」
テレビ画面には、昨夜の祭りで打ち上げられた花火の映像が流れている。その下に、赤い帯で速報の文字が表示されていた。
「…………」
テレビから流れるニュースキャスターの声だけが、やけに大きく聞こえる。
さっきまでソファに寝転がっていた桃李も、口に運びかけていたお菓子を止めたまま画面を見つめていた。
テレビのニュースキャスターが、淡々と殺害事件の続報を読み上げていく。
『発見されたのは、総督府の役人が三名。発見場所は式典会場からほど近い料亭で……』
画面には、鈴木屋と書かれた料亭が映し出されていた。黄色いバリケードテープが張られている。
「料亭『鈴木屋』って……昨日の会場のすぐ近くだろ?」
桃李がぽつりと呟く。手に持っていたスナック菓子は、テーブルの上に力なく置かれた。
「昨夜の式典の裏で、こんなことが起きていたとはな」
重治が深く腕を組み、険しい表情で画面を見つめた。
昨夜、人混みの中で出会った上官の言葉が頭をよぎった。
軍部の中にある過激な革新派の存在。古い体制を壊そうと企む者たちの影。
私達が打ち上がる花火に見惚れ、歓声を上げていたまさにその時間、暗がりで刃が振るわれていたのだと思うと、背筋に冷たいものが走る。
「……革新派の仕業、なのかな」
私が不安を口にすると、重治は慎重に言葉を選びながら頷いた。
「断定はできないが、タイミングが良すぎる。総督府の力を削ぎ、軍内部の対立を決定的なものにするための見せしめだとしたら」
「なぁ、平八は?」
桃李が不意に周りを見回した。
朝からその姿が見当たらない。昨夜の祭りにも「用事がある」と言って来なかった。
「あいつ、昨日の夜も出かけてたろ?今朝だって俺たちが起きる前にいなくなってたし……」
「よせ、桃李。根拠のない疑いをかけるな」
重治が制するが、その声にも微妙な緊張が混じっている。
廊下を歩く足音が近づき、ドアが開く。入ってきたのは、いつもと変わらない無表情な平八だった。部屋の雰囲気が凍りついていることにも気づかない振りで、歩いてくる。
「……なんだよ。揃って暗い顔して」
平八はちらりとテレビ画面に視線を送った。事件現場の料亭の映像を見ても、その瞳には敵意や動揺は感じられなかった。
「平八、お前どこに行ってたんだ?」
桃李がソファから立ち上がり、真っ直ぐに問いただす。
「散歩だ。……それより紫乃、昨日の残りの焼きそばとお好み焼きは?」
「冷蔵庫だけど……」
私が言葉を重ねると、平八は「そうか」とだけ呟き、何事もなかったかのように台所へ向かった。電子レンジのドアを開け、買ってきたパックを取り出して温め始める。
「平八、とぼけるなよ」
桃李が台所との仕切りまで歩み寄り、背中に強い視線を浴びせた。
「お前、昨日の夜も『大事な用がある』って出かけてただろ。今朝も早くからいなくなって……本当にただの散歩なのか?」
「……質問が多いな、桃李」
電子レンジの駆動音が静かに部屋に響く中、平八は振り返りもせずに答えた。
「俺がどこで何をしようが、お前達に関係あるか?くだらない勘ぐりをする暇があるなら、自分の心配でもしてろ」
「関係あるに決まってんだろ!ニュース見たろ? 総督府の役人が殺されたんだぞ!昨日の夜、すぐ近くで―――」
「だからどうした」
「……っ!」
平八の射抜くような一言に、桃李は息を詰まらせて言葉を失った。舌打ちを残し、荒々しい足音を立てて二階への階段を駆け上がっていく。
ドアがバタンと閉まる音が響いた後、台所からはチンという虚ろな電子音が鳴り響いていた。
「夏だからな。国立公園での夏祭りだ」
翌日、重治は一枚のチラシを見せてくれた。
チラシには漆黒の夜空を彩る色鮮やかな大輪の花火と、やわらかな光を灯すたくさんの提灯が描かれている。
「戦争終結日だっけ?確か総督府のお偉いさんも来るとか何とかで……」
桃李がチラシの端に小さく印字された『戦争終結記念式典 午後五時より開催』という文字を指差し、身を乗り出す。
「軍の警備も厳しいだろう。運が良ければ上官に会えるかもな」
重治がそう付け加えると、部屋の中の空気がわずかに緊張を帯びた。
「上官……」
私がポツリと呟くと、重治は静かに頷く。
「もし連絡が取れれば、今のこの宙ぶらりんな状況を打破する手がかりになるかもしれない。……平八に感づかれずに動く必要があるがな」
「そういう計画は俺がいないとこでやれ」
同じくソファに座りながら本を読んでいた平八が、冷ややかな声を割り込ませた。
「言っておくが、祭りに行くだけなら目をつぶってやる。だが、余計な動きを見せたら速攻で連れ戻すからな」
「逃げて良い?」
「鎖に繋がれてぇか」
「こえー」
桃李は心底恐ろしいものを見たかのように、大袈裟に両手を上げて後退りし、平八からすっと距離を取る。
「物騒な冗談はやめろ、平八」
重治が呆れたようにため息をつき、深くソファに腰掛ける。
「……戦争が終わって、もう何年だっけ?」
窓の外、夏の強い日差しを見つめながら桃李がぽつりと呟く。
「今年でちょうど三年だ」
「三年……」
数字だけ聞けば長いような、短いような。
✳✳✳
(おぉ〜……!)
祭囃子に耳を傾けながら夜の町を歩く。
軒先には提灯が吊るされ、屋台の前はたくさんの人で賑わっていた。
焼きそば。
たこ焼き。
焼きとうもろこし。
かき氷。
りんご飴。
綿菓子。
香ばしい匂いと甘い匂いが混ざり合い、どこからともなく聞こえてくる笑い声が祭囃子に重なる。
可愛らしいキャラクターの袋に入った綿菓子もあるが、私は棒に巻き付いた綿菓子の方がなんとなく好きなので、それを購入して屋台を冷やかして歩く。
「なぁ重治。奢って〜」
「何を馬鹿なことを言っているんだ。自分の金で買え」
「じゃあ紫乃……食い物買いすぎじゃね?」
桃李が呆れたように私を見た。
言われてみれば、ひと通り買った食べ物で両手が塞がっている。
右手には綿菓子とりんご飴。
左手にはたこ焼きと焼きとうもろこし。
他にも、ビニール袋の中には焼きそばとお好み焼きが入っている。これは平八へのお土産にしようと思う。
「……祭りを食い倒れ大会か何かと勘違いしてない?」
「桃李にだけは言われたくないよ」
「これは祭りの嗜み!紫乃みたいに両手塞がるまで買い込むのとは訳が違うねー」
抗議するように胸を張る桃李の頭には、キツネのお面が乗っている。
さらにその手元を見れば、色とりどりの水風船が数個と、ケチャップとマスタードがたっぷり塗られたフランクフルトが握られていた。
「まぁまぁ、二人ともそのくらいにしておけ」
呆れ顔の重治が割り込み、私の左手からたこ焼きのパックとビニール袋をすっと取り上げてくれた。
「ありがと」
「全く。財布の中身がすっからかんになっても知らないぞ」
「俺としては紫乃の気持ち分かるけどなー。祭りって普段食べないものがいっぱいあるじゃん?買うしかないでしょ!」
桃李が横から口を挟みながら、フランクフルトを一口かじる。
そんなやり取りをしながら歩いていると、「おい」と背後から声をかけられた。
そこに立っていたのは、軍服姿の上官。
「お久しぶりです!上官」
「上官もお祭りですか?」
「いや、僕は警備だ」
「確か総督府の偉いさんが来てるんでしたっけ?」
「ああ、そうだな。……軍も人手不足だから駆り出されてしまったよ」
苦笑しながら上官は頭を掻く。
「最近の行方不明事件で、軍部は大きく二つの派閥に分かれている。現状維持の保守派と一度古い体制を壊そうとする革新派だ」
「さ、さっきから話が難しいですよ……」
「つまり、『このまま総督府の言いなりになっていこ』っていうのが保守派で、『総督府をなくして再興する』のが革新派ってことでしょ」
「……まぁ、大体はそんな感じだ。今の軍部には圧倒的に保守派が多い。しかし、やはり総督府に押さえつけられていたことに不満を持つ革新派もいてな……今回の行方不明事件をきっかけに動こうとしている連中もいる状態だ」
「つまり、今の軍はバラバラ状態ってことですか?」
「ああ。ま、お前らは余計な心配をせず祭りを楽しめよ」
自嘲気味な苦笑いを浮かべると、上官はひらひらと手を振り、人ごみの中へと消えていった。
「……なんか、思ってたよりきな臭いことになってきたね」
桃李がフランクフルトの串をくるくると回しながら呟く。
「そうだな。政治とはそういうものだ」
「むずー」
その時、ふと遠くの方からヒュ〜〜〜……と、夜空に向かって高い音が伸びていく。
一瞬の静寂のあと、ドーンというお腹に響く重低音とともに、漆黒の空に鮮やかな朱色と金の光が弾けた。
「綺麗……」
夜空いっぱいに広がった花火を見上げながら、私は思わず呟いた。
赤、青、金、緑。
次々と色を変えながら咲いては消えていく大輪の花に、周囲からも歓声が上がる。
「いやー、やっぱ夏祭りと言えば花火だよな!」
「平八も来れば良いものを」
「まぁまぁ、今日は大事な用があるって言ってたし、良いんじゃないか?」
✳✳✳
翌日、ダラダラとテレビを見ていたら、速報が流れる。
『昨夜未明、総督府の役人数名が殺害される事件が―――』
「「「!?」」」
テレビ画面には、昨夜の祭りで打ち上げられた花火の映像が流れている。その下に、赤い帯で速報の文字が表示されていた。
「…………」
テレビから流れるニュースキャスターの声だけが、やけに大きく聞こえる。
さっきまでソファに寝転がっていた桃李も、口に運びかけていたお菓子を止めたまま画面を見つめていた。
テレビのニュースキャスターが、淡々と殺害事件の続報を読み上げていく。
『発見されたのは、総督府の役人が三名。発見場所は式典会場からほど近い料亭で……』
画面には、鈴木屋と書かれた料亭が映し出されていた。黄色いバリケードテープが張られている。
「料亭『鈴木屋』って……昨日の会場のすぐ近くだろ?」
桃李がぽつりと呟く。手に持っていたスナック菓子は、テーブルの上に力なく置かれた。
「昨夜の式典の裏で、こんなことが起きていたとはな」
重治が深く腕を組み、険しい表情で画面を見つめた。
昨夜、人混みの中で出会った上官の言葉が頭をよぎった。
軍部の中にある過激な革新派の存在。古い体制を壊そうと企む者たちの影。
私達が打ち上がる花火に見惚れ、歓声を上げていたまさにその時間、暗がりで刃が振るわれていたのだと思うと、背筋に冷たいものが走る。
「……革新派の仕業、なのかな」
私が不安を口にすると、重治は慎重に言葉を選びながら頷いた。
「断定はできないが、タイミングが良すぎる。総督府の力を削ぎ、軍内部の対立を決定的なものにするための見せしめだとしたら」
「なぁ、平八は?」
桃李が不意に周りを見回した。
朝からその姿が見当たらない。昨夜の祭りにも「用事がある」と言って来なかった。
「あいつ、昨日の夜も出かけてたろ?今朝だって俺たちが起きる前にいなくなってたし……」
「よせ、桃李。根拠のない疑いをかけるな」
重治が制するが、その声にも微妙な緊張が混じっている。
廊下を歩く足音が近づき、ドアが開く。入ってきたのは、いつもと変わらない無表情な平八だった。部屋の雰囲気が凍りついていることにも気づかない振りで、歩いてくる。
「……なんだよ。揃って暗い顔して」
平八はちらりとテレビ画面に視線を送った。事件現場の料亭の映像を見ても、その瞳には敵意や動揺は感じられなかった。
「平八、お前どこに行ってたんだ?」
桃李がソファから立ち上がり、真っ直ぐに問いただす。
「散歩だ。……それより紫乃、昨日の残りの焼きそばとお好み焼きは?」
「冷蔵庫だけど……」
私が言葉を重ねると、平八は「そうか」とだけ呟き、何事もなかったかのように台所へ向かった。電子レンジのドアを開け、買ってきたパックを取り出して温め始める。
「平八、とぼけるなよ」
桃李が台所との仕切りまで歩み寄り、背中に強い視線を浴びせた。
「お前、昨日の夜も『大事な用がある』って出かけてただろ。今朝も早くからいなくなって……本当にただの散歩なのか?」
「……質問が多いな、桃李」
電子レンジの駆動音が静かに部屋に響く中、平八は振り返りもせずに答えた。
「俺がどこで何をしようが、お前達に関係あるか?くだらない勘ぐりをする暇があるなら、自分の心配でもしてろ」
「関係あるに決まってんだろ!ニュース見たろ? 総督府の役人が殺されたんだぞ!昨日の夜、すぐ近くで―――」
「だからどうした」
「……っ!」
平八の射抜くような一言に、桃李は息を詰まらせて言葉を失った。舌打ちを残し、荒々しい足音を立てて二階への階段を駆け上がっていく。
ドアがバタンと閉まる音が響いた後、台所からはチンという虚ろな電子音が鳴り響いていた。



