あれは僕と皐月が小学五年生、桜花ちゃんが小学四年生のときのことだった。
三人で遊んでいた僕たちは、日が暮れる前に公園を出た。
僕と皐月がなにか話しに夢中になっていて、そのすぐ後ろを桜花ちゃんが歩いていた。
すると近くに止まっていたワゴン車の扉が急に開いて、中から出てきた男の人が、桜花ちゃんを連れ去ろうと腕を引っ張ったのだ。
その時の僕はすでにミステリ好きで、よくこういう黒いワゴン車がミステリの物語にも出て来るなぁ、なんてなんとなく意識を向けていた。
だから桜花ちゃんの悲鳴が聞こえてすぐに、僕は男の人に体当たりをすることができた。
そのおかげで、男の人は桜花ちゃんを離し、慌てて車に乗り込んで逃げて行ったのだ。
桜花ちゃんに怪我はなく、怖かったからか少し震えていたけれど、それもすぐに落ち着いた。
強い子だなぁ、と感心したのも束の間、皐月の方が取り乱していた。
皐月は桜花ちゃんを強く抱きしめると、震える唇で桜花ちゃんに謝り続けた。
もし僕が体当たりを決めることができなかったら、もしかしたらそのまま桜花ちゃんは連れ去られていたのかもしれないのだ。
きっと皐月はそんな最悪の想像をして、怖くなったんだと思う。
目の前で大事な妹がいなくなるなんて、きっと誰にとっても怖い。
それからだった。
皐月が桜花ちゃんに対してひどく過保護になってしまったのは。



