「よ、天音」
「よ、皐月」
それは皐月で、その手に抱えられているスケッチブックは閉じられていた。
「もう描き終わったの?」
「ああ、適当にな」
「見せてよ」
「は? 嫌味か?」
「まだ見せてもらってもないのに、どうして嫌味だと思うんだよ」
「俺が絵が下手なの知ってるだろ」
僕は苦笑をもらす。
たしかに皐月の絵は、ちょっと、なんていうか、少し個性的で味があると思う。
もちろん嫌味を言うつもりなんてまったくなかった。
ただ皐月が、どんなものを選んで、どんなふうに絵を描いたのか気になっただけだった。
不快そうに顔を歪めていた皐月は、真っ青な空を見上げる。
僕も絵を描くのに戻ろうとしていると、皐月がぽつりと話し出した。
「天音、ありがとな」
「え?」
僕がきょとんと皐月の顔を見ると、皐月は照れたようにそっぽを向いた。
「桜花のこと」
「ああ、今朝の手紙の」
と僕が言うと、皐月は首を横に振った。
「そのことだけじゃなくて、あのとき、桜花を助けてくれたことだ」
「ああ、……そのことか」
皐月が言っているのは、むかし、桜花ちゃんが攫われそうになったときのことだった。



