「おはようございます、天音さん」
「おはよう、桜花ちゃん。来てたんだ」
「はい」
桜花ちゃんは皐月の一個下の妹で、中学一年生だ。
一年生が堂々と二年生の教室に来るなんて、普通だったら少し緊張してしまいそうな気もするけれど、この兄にこの妹あり、って感じで、桜花ちゃんもなかなかに気の強い女の子だった。
「どうにかしろ、天音」
「どうにかって……、そもそもこの紙はなんなの?」
僕の言葉に、皐月はますます声を荒らげる。
「なんなのもなにも、見たらわかるだろ! 嫌がらせの手紙だ! 俺の桜花に嫌がらせの手紙を送ってきたやつがいるんだ!!」
俺の桜花、って……。
桜花ちゃんもぼそりと、「兄さんのではありませんけど」とつぶやいている。
皐月はいわゆるシスコンで、妹の桜花ちゃんを溺愛している。
桜花ちゃんのことになると、周りが見えなくなることもしばしばだ。
今回もきっとそうなのだろう。
「嫌がらせの手紙だなんて、大げさだなぁ」
「こんな訳のわからない手紙、嫌がらせ以外のなにものでもないだろ!」
皐月に訊いてもらちが明かないと思った僕は、桜花ちゃんに尋ねてみる。
「桜花ちゃん」
「はい」
「この手紙が入っていたときのこと、聞かせてくれないかな」
「はい」
桜花ちゃんは頷くと、今朝のことを思い出すようにあごに手を当てた。
「今朝私がいつものように登校して、そして靴箱を開けると、この三枚の紙が入っていたのです。宛名は私、藤波 桜花。差出人は書いていませんでした」
紙をよく見ると一枚目の赤い花のイラストの上に、『藤波 桜花さまへ』と書かれている。
つまり、この紙、手紙は、桜花ちゃん宛てで間違いないようだ。
「桜花ちゃん、クラスで変わったことはない? なにか、いじめられていたりとか……」
いじめ、という言葉を聞いて皐月が僕を睨む。
この人はどうしていちいち威圧的なんだろうか。
「いじめなんてあるわけないだろ。桜花をいじめるようなやつがいたら、俺がとっくにしめてる」
「そうですね、こんな兄さんがいますから、私をいじめようなんて思う人は、あまりいないのではないかと思います。実際クラスで無視されたり、物がなくなったりということはまったくないです」
「そっか」
皐月は学校でも有名な不良だ。
不良と言うと少し聞こえが悪いけど、勉強は学年一位、運動神経も抜群で、良くない点は態度くらいのものだ。
けれどたしかに皐月に関わろうとする人はあまりいないような気がする。……僕を除いて。



