先輩たちが引退した日。
体育館は、やけに広く見えた。
いつもは当たり前にいた背中がいない。
声もない。
空気だけが残っている。
「じゃあ、次はお前らの代だな」
顧問の先生の声が、やけに軽く聞こえた。
でも、その意味の重さは誰も分かっていた。
キャプテンはしょうへいになった。
その瞬間から、このチームは“別物”になった。
最初の練習。
ボールの音が、少しバラバラだった。
誰も悪くない。
でも、揃っていない。
しょうへいは声を出す。
「切り替え早く!」
その声は確かに届いている。
でも、動きが一拍遅れる。
るきはベンチから見ていた。
まだ完全には怪我が治っていない。
でも、外れる気はなかった。
「ズレてるな」
小さく言う。
誰に届くわけでもない声。
でも、ゆなはそれを聞いていた。
女バスの練習が終わったあとも、私は男子バスのコートを見ていた。
前みたいな“まとまり”がない。
りゅうとは点は取る。
でも、前ほど流れが安定しない。
りょうは安定している。
でも、その安定が逆に浮いて見える。
らいは守っている。
でも、守る場所が少しずれている。
たけるは必死に走っている。
でも、タイミングが合わない。
全部が“間に合っていない”。
しょうへいだけが、全部を埋めようとしていた。
「俺がやる」
その空気が、少しずつ濃くなる。
練習試合の日。
最初に崩れたのは、些細なプレーだった。
パスが通らない。
一歩遅れる。
声が重なる。
それだけ。
でも、それだけで全部が崩れる。
試合後。
しょうへいは一人で体育館に残っていた。
ボールを拾っては、ドリブルする。
また拾う。
また打つ。
誰かがやらなきゃいけない。
その思いが、しょうへいを動かしていた。
そこに、るきが来る。
「また全部やってる」
しょうへいは止まらない。
「やらなきゃ勝てねぇ」
るきは少し黙る。
そして言う。
「お前が壊れるぞ」
その言葉に、しょうへいは一瞬止まる。
でもすぐに笑う。
「壊れねぇよ」
その“根拠のない強さ”が、逆に怖かった。
ゆなは、そのやり取りを見ていた。
このとき初めて思った。
あ、このチームはまだ“完成してない”んだって。
春の大会。
結果は悪くなかった。
でも、良くもなかった。
勝てる試合を落とす。
接戦で噛み合わない。
最後の一本が決まらない。
誰も責めない。
でも、誰も納得していない。
帰りのバス。
誰もあまり喋らなかった。
窓の外だけが流れていく。
しょうへいは前を見ている。
るきは目を閉じている。
りゅうとはイヤホンをしている。
りょうは黙っている。
らいは手を握っている。
たけるは寝ているふりをしている。
ゆなはノートを見ていた。
書いているのは記録じゃない。
“違和感”だった。
「全部ズレてるのに、誰も止められてない」
その一文だけが、ずっと消えなかった。
その夜。
るきがしょうへいに言う。
「全部やるな」
しょうへいは答えない。
るきは続ける。
「お前が全部やるチームは、長くもたない」
静かな言葉だった。
でも、その言葉は重かった。
しょうへいはやっと言う。
「じゃあ、どうすればいい」
るきは少しだけ笑う。
「信じろよ」
その言葉が、このチームにとって一番難しいものだった。
体育館は、やけに広く見えた。
いつもは当たり前にいた背中がいない。
声もない。
空気だけが残っている。
「じゃあ、次はお前らの代だな」
顧問の先生の声が、やけに軽く聞こえた。
でも、その意味の重さは誰も分かっていた。
キャプテンはしょうへいになった。
その瞬間から、このチームは“別物”になった。
最初の練習。
ボールの音が、少しバラバラだった。
誰も悪くない。
でも、揃っていない。
しょうへいは声を出す。
「切り替え早く!」
その声は確かに届いている。
でも、動きが一拍遅れる。
るきはベンチから見ていた。
まだ完全には怪我が治っていない。
でも、外れる気はなかった。
「ズレてるな」
小さく言う。
誰に届くわけでもない声。
でも、ゆなはそれを聞いていた。
女バスの練習が終わったあとも、私は男子バスのコートを見ていた。
前みたいな“まとまり”がない。
りゅうとは点は取る。
でも、前ほど流れが安定しない。
りょうは安定している。
でも、その安定が逆に浮いて見える。
らいは守っている。
でも、守る場所が少しずれている。
たけるは必死に走っている。
でも、タイミングが合わない。
全部が“間に合っていない”。
しょうへいだけが、全部を埋めようとしていた。
「俺がやる」
その空気が、少しずつ濃くなる。
練習試合の日。
最初に崩れたのは、些細なプレーだった。
パスが通らない。
一歩遅れる。
声が重なる。
それだけ。
でも、それだけで全部が崩れる。
試合後。
しょうへいは一人で体育館に残っていた。
ボールを拾っては、ドリブルする。
また拾う。
また打つ。
誰かがやらなきゃいけない。
その思いが、しょうへいを動かしていた。
そこに、るきが来る。
「また全部やってる」
しょうへいは止まらない。
「やらなきゃ勝てねぇ」
るきは少し黙る。
そして言う。
「お前が壊れるぞ」
その言葉に、しょうへいは一瞬止まる。
でもすぐに笑う。
「壊れねぇよ」
その“根拠のない強さ”が、逆に怖かった。
ゆなは、そのやり取りを見ていた。
このとき初めて思った。
あ、このチームはまだ“完成してない”んだって。
春の大会。
結果は悪くなかった。
でも、良くもなかった。
勝てる試合を落とす。
接戦で噛み合わない。
最後の一本が決まらない。
誰も責めない。
でも、誰も納得していない。
帰りのバス。
誰もあまり喋らなかった。
窓の外だけが流れていく。
しょうへいは前を見ている。
るきは目を閉じている。
りゅうとはイヤホンをしている。
りょうは黙っている。
らいは手を握っている。
たけるは寝ているふりをしている。
ゆなはノートを見ていた。
書いているのは記録じゃない。
“違和感”だった。
「全部ズレてるのに、誰も止められてない」
その一文だけが、ずっと消えなかった。
その夜。
るきがしょうへいに言う。
「全部やるな」
しょうへいは答えない。
るきは続ける。
「お前が全部やるチームは、長くもたない」
静かな言葉だった。
でも、その言葉は重かった。
しょうへいはやっと言う。
「じゃあ、どうすればいい」
るきは少しだけ笑う。
「信じろよ」
その言葉が、このチームにとって一番難しいものだった。


