いい飼い主を探す犬

天気……今日は二十四節気のなかの『小雪』。北風が一段と強くなってきて、朝から冷たい雨が降っていた。気温も零度近くまで下がってきた。

ぼくは昨夜もシャオパイをうちに泊めた。シャオパイはますます元気を回復してきて、ご飯もしっかり食べるようになった。でもぼくのうちにはドッグフードはないので、一日も早くよい飼い主を見つけてあげなければならないと、ぼくは思っていた。
今朝早く地包天が、ぼくのうちへやってきた。シャオパイの顔色がよくなってきているのを見て、
「元気になってよかった」
と言って、安堵の色を浮かべていた。地包天は綿の入った厚い服を着ていた。それを見てぼくは地包天に
「あったかそうな服を着ているな」
と言った。すると地包天が
「だって今日は『小雪』でしょう?」
と、逆に聞き返してきた。
「確かにそうだけど、まだ雪は降っていないから、そこまで厚着をしなくてもいいのではないか」
ぼくはそう答えた。
「わたしが望んだのではなくて、わたしの飼い主さんが着せてくれたのよ。わたしが風邪を引かないようにと思って」
地包天がそう答えた。
「いい飼い主さんだな。シャオパイにも早く、いい飼い主さんが見つかってくれたらいいなと、ぼくは思っている」
ぼくは地包天にそう言った。
「そうですね、今度はいい人と出会ってくれることを、わたしも望んでいるわ」
地包天がそう答えた。地包天はそのあとシャオパイに
「おまえはどんな食べ物が好き?」
と聞いていた。
「食べ物ですか?」
急に、食べ物のことを聞かれて、シャオパイは、どう答えてよいか分からないでいた。
「わたしはニンニクをよく食べるけど、シャオパイはニンニクが好き?」
地包天がシャオパイに聞いていた。
「ニンニク?」
シャオパイが地包天に聞き返していた。
「そう、ニンニク。わたしの飼い主さんはニンニクが大好きだから、いつもよく食べるし、わたしにもニンニクをよくくれるの」
地包天がそう答えていた。
「ニンニクはあまり好きではない。食べたあとのにおいが残るから」
シャオパイがそう答えていた。
「そうですか。だったら、わたしのうちに来ることはできないわよね」
地包天がそう言った。それを聞いてシャオパイが
「もし行ったら、いっしょに飼ってくれるの?」
と聞き返していた。
「わたしの飼い主さんは犬がとても好きな人だから、チン犬のわたしと、プードル犬のおまえを、いっしょに飼ってくれるかもしれない」
地包天がそう答えていた。
「そうか、それなら行ってもいいけど……でもニンニクはちょっと……」
シャオパイが決断できないで、ぐずぐずしていた。
それからまもなくフェイナがやってきた。
「シャオパイ、おはよう。元気?」
と、シャオパイに声をかけていた。シャオパイの近くに地包天がいるのに気がついて
「あら、あなたも来ていたの?」
と、地包天にも声をかけていた。
「来ていたわ。シャオパイを、うちに連れて行って、わたしの飼い主さんに会わせようかなと思っていたの。でもシャオパイはニンニクが嫌いなようだから、行くか行かないか迷っているみたい」
地包天がそう答えたていた。
「そうだったの。わたしも、これから、シャオパイを、わたしが住んでいる桜木横丁に連れていって、今度こそ、いい飼い主さんを見つけてあげなければと思っているの」
フェイナがそう言った。
「そうだったの。それで心当たりはあるの?」
地包天がフェイナに聞いていた。
「わたしのうちのすぐ隣に、お金持ちの家があって、そこで以前、ダックスフント犬が飼われていたけど、最近、その犬が死んで、ペットロスに陥っているので、その犬の代わりにどうかなあと思っているの」
フェイナがそう答えていた。
「そうだったの。それはいいかもしれないなあ」
地包天がそう答えていた。フェイナの話を聞いてシャオパイも興味を感じているようだった。
「その家でぼくを飼ってくれるかどうか分からないけど、行ってみるだけの価値はあると思う。フェイナのうちのすぐ隣の家だったら、フェイナといつでも会うことができるから便利だし」
シャオパイがそう答えた。それを聞いてフェイナが
「だったら、これからすぐ桜木横丁に来ませんか」
と言ってシャオパイに誘いかけていた。シャオパイが、にっこりとうなずいた。
「わたしもいっしょに行くわ」
地包天がそう言った。
「いいでしょう。いっしょに行きましょう」
フェイナがそう答えた。
それからまもなく、ぼくとシャオパイと地包天はフェイナのあとについて桜木横丁に出かけていった。
「ここよ。このうちよ」
フェイナの家の前を通り過ぎて、すぐ隣の家の前まで来た時に、フェイナが足を止めて、そう教えてくれた。立派な門構えのうちだった。
「お金持ちの家のように見えるわ」
地包天がそう言った。
「こんなうちに住んだら、おまえはきっと、おいしいものをたくさん食べさせてもらえるぞ」
ぼくはシャオパイにそう言った。シャオパイはうなずいた。庭の中に犬小屋があるのが見えた。
「二週間ほど前に、このうちで大切に飼われていたダックスフント犬が死んだので、あの犬小屋は今は空き家になっています」
フェイナがそう説明した。
「そうですか。かわいそう……」
シャオパイがそう答えた。
「このうちの人は、おまえのことを、その犬の代わりに大切に飼ってくれるかもしれない」
ぼくはシャオパイにそう言った。ぼくの話をシャオパイは、しんみりと聞いていた。
「そうだといいなあ……」
シャオパイがそう答えた。
「このうちには、どんな人が住んでいるのか」
ぼくはフェイナに聞いた。
「男の人と女の人が二人で住んでいます」
フェイナがそう答えた。
「どんな仕事をしている人ですか」
ぼくはさらに聞いた。
「分かりません」
フェイナがそう答えた。
「どうしてなのだ。おまえは、この桜木横丁に住んでいる人のことはよく知っていると、以前話していたではないか。ましてや、すぐ隣のうちだろう?」
ぼくは、けげんに思って、そう聞いた。
「だって、男の人も女の人も一日中、うちにいるから」
フェイナがそう答えた。
「年はいくつぐらいの人か」
ぼくは聞いた。
「どちらも三十歳前後の人です」
フェイナがそう答えた。
(だったらまだ働きに行けるのに、どうして、うちにいるのだろう)
ぼくには合点がいかなかった。
在宅ワークというものがあることを、ぼくは知っていたから
「もしかしたら二人とも、家の中でコンピューターを使って仕事をしている人かもしれない」
と、ぼくはフェイナに言った。するとフェイナが
「そうかもしれませんね。でもわたしがうちの中に入っていった時は、二人ともソファーに座って、お菓子をつまみながら、テレビのドラマを見ていました」
フェイナがそう答えた。それを聞いて、ぼくはびっくりして、フェイナに
「おまえはうちの中に入ったことがあるのか」
と聞いた。
「あるわ」
フェイナが、そう答えた。
「いつだ?」
ぼくは間髪を入れずに聞き返した。
「この家に住んでいた犬が死んでから、その犬の代わりに、わたしをよく、うちの中に入れてくれたから」
フェイナがそう答えた。
「そうだったのか」
ぼくはそう答えた。
「二人ともとても優しくて、わたしにも、お菓子をよく分けてくれた」
フェイナがそう答えた。
「そうか、それだったら、シャオパイを連れていったら、シャオパイに親しみを感じて可愛がってくれるかもしれないな。シャオパイもおまえと同じプードル犬だから、きっと気に入ってくれるよ」
ぼくはフェイナにそう言った。
「そうあることを願っているわ。親しくされたら、だれでもうれしいから、シャオパイもきっと、このうちに住みたいと思うようになるに違いないわ」
フェイナがそう答えた。
家の玄関のドアは閉まっていたが、鍵はかかっていなかったから、フェイナが
「中に入ろう」
と、ぼくに言った。
「勝手に入っていって大丈夫なのか」
ぼくは不安そうな顔をしながらフェイナに聞いた。
「大丈夫だわ。わたしはこれまで何度も、勝手にこのドアから入っていったことがあるから」
フェイナがそう答えた。
「このうちで飼われていたダックスフント犬が死んでから、わたしがいつでも中に入ることができるように、わざとドアに鍵をかけていないのだと思うわ」
フェイナがそう言った。
「そうか。おまえは、このうちの人に、それほど親しく思われているのか」
ぼくはそう答えた。フェイナはうなずいた。
フェイナは、それからまもなく玄関のドアを手で開けてから、ぼくとシャオパイと地包天を、うちの中に入れてくれた。ぼくたちはフェイナのあとについて、居間に行った。するとソファーの上に男の人と女の人が座っていて、楽しそうにテレビを見ていた。ソファーの前にはテーブルがあって、カステラや、肉まんじゅうや、アップルパイなどが並べられていた。男の人と女の人は時々、それをつまみながら、がははと笑いながらドラマを見ていた。今日は週末でもないのに、このように朝から気楽に過ごしている二人を見て、
(この人たちは一体、どのような人たちなのだろう)
と、ぼくは思った。
テレビを見ることに夢中になっていて、ぼくたちが居間に入ってきたことに、男の人も女の人もまったく気がついていなかった。フェイナが女の人のすぐ前に行って、足に軽く触れたときに、ようやく気がついて
「あら、誰かと思ったらプーちゃんだったの」
と言った。フェイナはプードル犬だったから、プーちゃんと呼んでいるのだろうと、ぼくは思った。フェイナのほかに、ぼくとシャオパイと地包天がいるのを見て
「あら、今日はお友だちを連れてきたの」
と言った。フェイナには人の言葉が分からないから、ぼくはフェイナに女の人が言った言葉の意味を伝えてあげた。女の人はシャオパイをじっと見ながら
「あら、この犬は、プーちゃんと同じプードル犬だわ。かわいい」
と言っていた。
「本当だ、プーちゃんとそっくりだ」
男の人がそう言った。
「どこの犬でしょうか」
女の人が聞いていた。
「首輪がついていないので、もしかしたら飼い主のいない野良犬かもしれない」
男の人がそう答えていた。
「野良犬かどうかは分かりませんが、縁あって、うちに来たのだから、これからは、この犬にも、食べ物や飲み物を与えたりして、かわいがってみませんか」
女の人がそう言っていた。
「そうだな。うちの庭には犬小屋がまだあるし、この犬に飼い主がいたら、飼い主のもとに帰っていくだろうから、その時までは、うちにいさせよう」
男の人がそう答えていた。それを聞いて、ぼくは話の内容をシャオパイに伝えた。するとシャオパイが
「二人とも、ぼくのことを気に入ってくれて、よかった。ぼくはこれからずっと、ここにいるよ」
と答えた。
「そうか、そうすることに決めたか」
ぼくはそう答えた。
それからまもなく、ぼくと地包天とフェイナは、シャオパイをこのうちに残して外へ出ていった。すぐ隣がフェイナのうちだから、フェイナもとても喜んでいた。
「これからはシャアパイと、ちょくちょく会えることになったから、わたしはとてもうれしいわ。シャオパイはこの前は大変な目に遭ったけど、今度は大丈夫だと思うわ。きっとしあわせな生活が送れるはずだわ」
フェイナがそう言った。
「そうあることを、ぼくも心から望んでいる」
ぼくはそう答えた。それからまもなく、ぼくと地包天は、いい飼い主を見つけてくれたことをフェイナに感謝しながら、フェイナのうちの前でフェイナと別れて、うちへ帰っていった。ぼくは家に着くと、妻猫にシャオパイに飼い主が見つかったことを話した。すると妻猫が
「そうですか。それはよかったですね。飼い主さんはどんな人ですか」
と聞いた。
「お金持ちで、動物好きで、優しい夫婦です」
ぼくはそう答えた。
「そうですか。『一陽来復』という言葉がありますが、苦難に遭ったシャオパイにやっと運が開けてきましたね」
妻猫がそう言った。
「ぼくもそう思う。でもまだ安心するのは早いと思う。『人間万事塞翁が馬』というから、幸不幸はいろいろと変わる。シャオパイの運がよい方に変わったのかどうか、ぼくにはよく分からない」
ぼくは妻猫にそう言った。
「そうですね。でもシャオパイは、これまで苦労が多かった分、これからは普通以上にしあわせな生き方をしてほしいと、わたしは思っています」
妻猫がそう言った。
「お母さんが考える普通以上にしあわせな生き方とは、どんな生き方ですか」
ぼくは妻猫に聞いた。
「人の役に立って、だれからも愛される生き方です」
妻猫がそう答えた。
「そうですか。ぼくは平凡な生き方でも、気持ちの持ちようで普通以上にしあわせに生きることができると思っています。ぼくにはお母さんのような優しい妻と、三匹のかわいい子どもがいるので、ぼくは今、とてもしあわせに感じています。夫として、父として、立派な責任を果たしていけたら、ぼくにとってそれが何よりもしあわせなことです」
ぼくは妻猫にそう答えた。