天気……今日は風がとても冷たかった。空は一日中、どんよりと曇っていてとても暗かった。夕方になると風は弱まったが、日が暮れても星は、ほとんど見えなかった。
昨夜は一晩中、フェイナと力を合わせてシャオパイをカートに乗せて翠湖公園の梅園の中まで運ぶという大仕事をしたので、疲れがどっと出て、今朝はお昼近くまで寝ていた。目が覚めると、ぼくはご飯を食べてからすぐにうちを出て、梅園に向かった。うちを出る前に、妻猫が気をきかせて、
「ロウバイはまだ咲いていないけど、サザンカはもう咲いているから、途中でサザンカの花びらを拾って、この袋に入れて持っていきなさいよ」
と言って、ビニールの袋を、ぼくの首にかけてくれた。
「ありがとう、そうするよ」
ぼくはそう答えた。梅園に行く途中にサザンカの木があって、木の下に赤や白の花びらが落ちていたので、拾い集めてから袋に入れて梅園まで持っていった。梅園に着くと、老いらくさんがぼくに気がついて、走ってきた。
「笑い猫、待っていたよ。その袋に何が入っているのか」
老いらくさんが聞いた。
「サザンカの花」
ぼくはそう答えた。
「そうか、シャオパイの体にかけてあげたら、きっと喜ぶだろうな。おまえはよく気がつくよ」
老いらくさんがそう言った。
「ぼくの思いつきではありません。妻猫の思いつきです」
ぼくはそう答えた。
「そうか。わしは十字架を持ってきた。墓標にしようと思って、枯木で作ってからスケートボードに乗せて持ってきた」
老いらくさんがそう言った。
「そうですか。わざわざ、ありがとうございます」
ぼくは老いらくさんにお礼を言った。
ぼくと老いらくさんはそれからまもなく、シャオパイの体を穴の中に、そっと入れた。そのあとぼくはシャオパイの体にサザンカの花をかけてあげた。
「わしはこれから読経をする」
老いらくさんがそう言って、経文を唱え始めた。ぼくは手を合わせて、シャオパイの顔を見ながら、老いらくさんの読経にじっと聞き入っていた。
読経が終わると、老いらくさんが
「これでシャオパイも天国へ行けるだろう」
と言った。
「そうですね。ぼくもそう思います」
ぼくは老いらくさんにそう答えた。
「わしやおまえに、こうして葬礼をしてもらって、シャオパイもうれしく思っているのではないだろうか」
老いらくさんがそう言った。ぼくはうなずいた。
「シャオパイが死んだことを地包天に知らせなくてもよいでしょうか」
ぼくは老いらくさんに聞いた。
「そうだな、土をかぶせる前に知らせたほうがよいかもしれない。地包天はシャオパイと大の仲良しだったから、埋める前に最後の顔を見せてやるほうがいいかもしれない」
老いらくさんがそう言った。
「ぼくもそう思います」
ぼくはそう答えた。
ぼくはそれからまもなく老いらくさんと別れて、地包点のうちへ走っていった。地包天のうちへ着くと、ぼくは辛い気持ちを抑えながら、シャオパイのことを話した。すると地包天は、あまりにも急な出来事にショックを受けて、わっと泣き崩れていた。地包天の心中を察して、ぼくは慰めてあげる言葉が見つからないでいた。
地包天がシャオパイの姿を見たいと言ったので、ぼくは地包天を翠湖公園に連れていった。梅園の中に着くと、老いらくさんがずっとシャオパイのそばについていて、見守ってくれていた。
梅園の中に掘った穴の中に静かに横たわっているシャオパイの姿を見ると、地包天は自分も穴の中に入っていって嗚咽(おえつ)を上げながら、狂ったように、わんわん泣いていた。
「シャオパイ、どうして、こんなに早く死んでしまったのよ。わたしもいっしょに埋められて、天国で仲良く暮らしたいわ」
地包天が泣きながら、そう言っていた。地包天の悲壮な思いが伝わってきて、ぼくは地包天のそばにいるのがつらくなった。
「笑い猫、しばらく、わたしとシャオパイだけにしてくれませんか。懐かしい思い出がたくさんあるから、心ゆくまでシャオパイに語りかけたいから」
地包天がそう言った。
「分かった。ぼくはこれからうちへ帰って、ひと休みしてから、またここへ戻ってくるよ」
ぼくはそう言って、梅園をあとにして、うちへ帰っていった。老いらくさんも、ご飯を食べるためにうちへ帰っていった。
四時過ぎに、ぼくは梅園に戻ってきた。老いらくさんも、ぼくとほとんど同じ時間に梅園に戻ってきた。ぼくがシャオパイを入れた穴の中をのぞきこんだら、地包天がまだ中に入っていて、シャオパイに、ぴったりと寄り添っているのが見えた。涙がかれたのか、もう泣いてはいなかった。
「おい、地包天、そろそろ、上がってこい。暗くなる前に、土をかけてしまおう」
ぼくは穴の中にいる地包天に呼びかけた。しかし地包天から返事が返ってこなかった。大切な親友を突然亡くしたショックが大きすぎて気を失ってしまったのではないだろうかと、ぼくは思った。
それからまもなく、信じられないような出来事が起きた。な、なんと、それまでかたく硬直していたシャオパイの体がぴぴっと動いたような気がしたからだ。
(うそだろう?)
見間違いではないかと思って、ぼくはシャオパイの体を、じっと見ていた。老いらくさんもシャオパイの体がかすかに動いたのに気がついて
「えー」
と言って、言葉を飲み込んでいた。
見間違いではなかった。確かにシャオパイの体が、ほんのわずか動いていた。それからまもなくシャオパイは薄目を開けて、ぼうっとした顔をしながら、上を見ていた。
「シャオパイ、おまえは、まだ生きていたのか」
まるで生き返ったゾンビを見ているような顔をしながら、ぼくはそう言った。穴の上からのぞきこんでいるぼくを見て、シャオパイが
「ぼ、ぼくはどうなったのですか?」
と、弱弱しい声で、しぼりだすように聞き返した。
「おまえは死んだとばかり思っていたので、これからおまえを土の中に埋めようと思っていた」
ぼくはシャオパイにそう言った。
「ぼ、ぼくはまだ死んではいません」
シャオパイがそう言った。
「でもついさっきまでは死んでいた。息をしていなかった」
ぼくはそう言った。
「そうですか、ぼくは死んでいたのですか。でも今は死んでいません。なぜ生き返ったのか、ぼくにもよく分かりません。どこか遠いところから『シャオパイ、シャオパイ』と呼ぶ声がして体が揺さぶられたのはかすかに覚えています。もしかしたら、その声で生き返ったのかもしれません」
シャオパイがそう言った。それを聞いてぼくは、
(ぼくと老いらくさんが、ここを離れてうちへ帰っている間に、地包天がシャオパイの体を揺さぶりながら、『シャオパイ、シャオパイ』と何度も呼びかけていて、それが功を奏したのではないだろうか)
と思った。もし、そうだとすれば、地包天の功績はたいしたものだ。奇跡を起こした地包天を褒めてあげなければと思って、ぼくはもう一度、地包天に
「シャオパイが生き返ったぞ。おまえのおかげだ」
と大きな声で呼びかけた。するとそれまで気を失っていた地包天が、はっとして目をさました。ぼくはもう一度、地包天に
「おまえのおかげで、シャオパイが生き返った。おまえはたいしたものだ」
と言った。すると地包天が首を横に振った。
「わたしには何もたいした力はありません。シャオパイのそばにいて、『シャオパイ、シャオパイ、愛しているよ。一生忘れない』と言って、思い出を語りかけていただけです」
地包天がそう言った。
「それがよかったのだよ。おまえの愛の力が神様に届いて、神様が奇跡を起こしてくださったのだ」
ぼくは地包天にそう言った。
「笑い猫がそう言ってくれると、うれしいわ」
地包天がそう答えた。
「この世の中には奇跡を起こす力がいろいろあるが、その中でも一番大きな力は愛の力だということが、ぼくは今、はっきりと分かった。愛の力は天地をも動かし、ありそうもない不思議なことを起こすこともできる。おまえのシャオパイへの愛が奇跡を起こしたのだ。ぼくは今、愛の力の偉大さをあらためて認識することができた。ありがとう、地包天」
ぼくは興奮冷めやらない顔でそう言った。
「大げさな言い方をするのですね、何だか、照れくさいわ」
地包天がそう言った。
「ぼくはこれからすぐにフェイナのうちに行って、シャオパイが生き返ったことを知らせようと思っている」
ぼくは地包天にそう言った。
「そうですか。わたしもいっしょに行きたいのは、やまやまです。でもシャオパイはまだ体力が十分に回復していないから、ここにいて、しばらくシャオパイに付き添ってあげることにします」
地包天がそう答えた。
「分かった。そうしてくれ」
ぼくはそう答えた。それからまもなく、ぼくは朗らかな気持ちで梅園を出て、フェイナが住んでいる桜木横丁へ向かい始めた。それを見て老いらくさんが
「笑い猫、待ってくれ、どこへ行くのだ?」
と聞いた。
「シャオパイが生き返ったことを知らせにフェイナのうちへ行っている」
ぼくはそう答えた。
「わしもいっしょに行っていいか」
老いらくさんが聞いた。
「いいですよ、『旅は道連れ、世は情け』と言いますから、いっしょに行きましょう」
ぼくはそう答えた。
ぼくと老いらくさんが翠湖公園の中からまだ出ないうちに、フェイナが眼鏡橋をわたって翠湖公園の中に入ってくるのが見えた。フェイナはいつもは派手なネックレスをつけたり、きらびやかな服を着ているが、今日は首に数珠をかけて、体には白い服を着ていた。この国ではお葬式のときには白い服を着るという習慣があるので、シャオパイの死を悼んで、そのようないでたちをして、シャオパイのお墓参りにやってきたのだと、ぼくは思った。ぼくはフェイナの近くまで走っていった。老いらくさんも、ぼくのあとから走ってついてきた。
「フェイナ、シャオパイが生き返った」
ぼくは開口一番、そう言った。
「何ですって!?」
フェイナは、わけが分からないで、ぽかんしとた顔をしていた。ぼくは、これまでのいきさつをフェイナに話してあげた。それでもフェイナには到底、信じがたい出来事にしか思えなかったので、ぼくの話を根っから信じようとはしなかった。
「おまえが信じないのも無理はない。『百聞は一見に如かず』というから、ぼくの話がうそだと思うのなら、ぼくにこれから、ついてきなさい」
ぼくはフェイナにそう言って、フェイナを梅園の中に連れていった。シャオパイが地包天に寄り添われながら、かすかに目を開けて、フェイナのほうを見ていた。フェイナはそれに気がついて
「シャオパイ、まだ生きていたの。わたしは、てっきり死んだものとばかり思っていたから、こんなかっこうをして、お墓参りに来ていたところだったの」
と言った。
「ぼくはまだ死んでいない」
シャオパイがそう答えた。
ぼくはシャオパイに
「フェイナは、おまえの命を助けてくれた一番の恩犬だ。おまえが黒いビニール袋に入れられてごみ置き場に捨てられていたのを偶然発見して、カートに乗せて、自分のうちまで運んでくれた。もしそうしていなかったら、今ごろ、おまえは間違いなく死んでいた」
と言った。それを聞いてシャオパイが目頭を熱くしながらフェイナをじっと見て
「ありがとう。恩は一生、忘れない」
と言った。
シャオパイが黒いビニール袋に入れられて捨てられていたいきさつについて、ぼくはとても知りたく思っていた。シャオパイに聞いたら分かると思う。でも今はまだシャオパイが十分に体力を回復していないので、あえて聞かないことにした。恐ろしい悪夢のような出来事を思い出すのは辛いだろうから、シャオパイの体力の回復を待ってから聞くことにした。
昨夜は一晩中、フェイナと力を合わせてシャオパイをカートに乗せて翠湖公園の梅園の中まで運ぶという大仕事をしたので、疲れがどっと出て、今朝はお昼近くまで寝ていた。目が覚めると、ぼくはご飯を食べてからすぐにうちを出て、梅園に向かった。うちを出る前に、妻猫が気をきかせて、
「ロウバイはまだ咲いていないけど、サザンカはもう咲いているから、途中でサザンカの花びらを拾って、この袋に入れて持っていきなさいよ」
と言って、ビニールの袋を、ぼくの首にかけてくれた。
「ありがとう、そうするよ」
ぼくはそう答えた。梅園に行く途中にサザンカの木があって、木の下に赤や白の花びらが落ちていたので、拾い集めてから袋に入れて梅園まで持っていった。梅園に着くと、老いらくさんがぼくに気がついて、走ってきた。
「笑い猫、待っていたよ。その袋に何が入っているのか」
老いらくさんが聞いた。
「サザンカの花」
ぼくはそう答えた。
「そうか、シャオパイの体にかけてあげたら、きっと喜ぶだろうな。おまえはよく気がつくよ」
老いらくさんがそう言った。
「ぼくの思いつきではありません。妻猫の思いつきです」
ぼくはそう答えた。
「そうか。わしは十字架を持ってきた。墓標にしようと思って、枯木で作ってからスケートボードに乗せて持ってきた」
老いらくさんがそう言った。
「そうですか。わざわざ、ありがとうございます」
ぼくは老いらくさんにお礼を言った。
ぼくと老いらくさんはそれからまもなく、シャオパイの体を穴の中に、そっと入れた。そのあとぼくはシャオパイの体にサザンカの花をかけてあげた。
「わしはこれから読経をする」
老いらくさんがそう言って、経文を唱え始めた。ぼくは手を合わせて、シャオパイの顔を見ながら、老いらくさんの読経にじっと聞き入っていた。
読経が終わると、老いらくさんが
「これでシャオパイも天国へ行けるだろう」
と言った。
「そうですね。ぼくもそう思います」
ぼくは老いらくさんにそう答えた。
「わしやおまえに、こうして葬礼をしてもらって、シャオパイもうれしく思っているのではないだろうか」
老いらくさんがそう言った。ぼくはうなずいた。
「シャオパイが死んだことを地包天に知らせなくてもよいでしょうか」
ぼくは老いらくさんに聞いた。
「そうだな、土をかぶせる前に知らせたほうがよいかもしれない。地包天はシャオパイと大の仲良しだったから、埋める前に最後の顔を見せてやるほうがいいかもしれない」
老いらくさんがそう言った。
「ぼくもそう思います」
ぼくはそう答えた。
ぼくはそれからまもなく老いらくさんと別れて、地包点のうちへ走っていった。地包天のうちへ着くと、ぼくは辛い気持ちを抑えながら、シャオパイのことを話した。すると地包天は、あまりにも急な出来事にショックを受けて、わっと泣き崩れていた。地包天の心中を察して、ぼくは慰めてあげる言葉が見つからないでいた。
地包天がシャオパイの姿を見たいと言ったので、ぼくは地包天を翠湖公園に連れていった。梅園の中に着くと、老いらくさんがずっとシャオパイのそばについていて、見守ってくれていた。
梅園の中に掘った穴の中に静かに横たわっているシャオパイの姿を見ると、地包天は自分も穴の中に入っていって嗚咽(おえつ)を上げながら、狂ったように、わんわん泣いていた。
「シャオパイ、どうして、こんなに早く死んでしまったのよ。わたしもいっしょに埋められて、天国で仲良く暮らしたいわ」
地包天が泣きながら、そう言っていた。地包天の悲壮な思いが伝わってきて、ぼくは地包天のそばにいるのがつらくなった。
「笑い猫、しばらく、わたしとシャオパイだけにしてくれませんか。懐かしい思い出がたくさんあるから、心ゆくまでシャオパイに語りかけたいから」
地包天がそう言った。
「分かった。ぼくはこれからうちへ帰って、ひと休みしてから、またここへ戻ってくるよ」
ぼくはそう言って、梅園をあとにして、うちへ帰っていった。老いらくさんも、ご飯を食べるためにうちへ帰っていった。
四時過ぎに、ぼくは梅園に戻ってきた。老いらくさんも、ぼくとほとんど同じ時間に梅園に戻ってきた。ぼくがシャオパイを入れた穴の中をのぞきこんだら、地包天がまだ中に入っていて、シャオパイに、ぴったりと寄り添っているのが見えた。涙がかれたのか、もう泣いてはいなかった。
「おい、地包天、そろそろ、上がってこい。暗くなる前に、土をかけてしまおう」
ぼくは穴の中にいる地包天に呼びかけた。しかし地包天から返事が返ってこなかった。大切な親友を突然亡くしたショックが大きすぎて気を失ってしまったのではないだろうかと、ぼくは思った。
それからまもなく、信じられないような出来事が起きた。な、なんと、それまでかたく硬直していたシャオパイの体がぴぴっと動いたような気がしたからだ。
(うそだろう?)
見間違いではないかと思って、ぼくはシャオパイの体を、じっと見ていた。老いらくさんもシャオパイの体がかすかに動いたのに気がついて
「えー」
と言って、言葉を飲み込んでいた。
見間違いではなかった。確かにシャオパイの体が、ほんのわずか動いていた。それからまもなくシャオパイは薄目を開けて、ぼうっとした顔をしながら、上を見ていた。
「シャオパイ、おまえは、まだ生きていたのか」
まるで生き返ったゾンビを見ているような顔をしながら、ぼくはそう言った。穴の上からのぞきこんでいるぼくを見て、シャオパイが
「ぼ、ぼくはどうなったのですか?」
と、弱弱しい声で、しぼりだすように聞き返した。
「おまえは死んだとばかり思っていたので、これからおまえを土の中に埋めようと思っていた」
ぼくはシャオパイにそう言った。
「ぼ、ぼくはまだ死んではいません」
シャオパイがそう言った。
「でもついさっきまでは死んでいた。息をしていなかった」
ぼくはそう言った。
「そうですか、ぼくは死んでいたのですか。でも今は死んでいません。なぜ生き返ったのか、ぼくにもよく分かりません。どこか遠いところから『シャオパイ、シャオパイ』と呼ぶ声がして体が揺さぶられたのはかすかに覚えています。もしかしたら、その声で生き返ったのかもしれません」
シャオパイがそう言った。それを聞いてぼくは、
(ぼくと老いらくさんが、ここを離れてうちへ帰っている間に、地包天がシャオパイの体を揺さぶりながら、『シャオパイ、シャオパイ』と何度も呼びかけていて、それが功を奏したのではないだろうか)
と思った。もし、そうだとすれば、地包天の功績はたいしたものだ。奇跡を起こした地包天を褒めてあげなければと思って、ぼくはもう一度、地包天に
「シャオパイが生き返ったぞ。おまえのおかげだ」
と大きな声で呼びかけた。するとそれまで気を失っていた地包天が、はっとして目をさました。ぼくはもう一度、地包天に
「おまえのおかげで、シャオパイが生き返った。おまえはたいしたものだ」
と言った。すると地包天が首を横に振った。
「わたしには何もたいした力はありません。シャオパイのそばにいて、『シャオパイ、シャオパイ、愛しているよ。一生忘れない』と言って、思い出を語りかけていただけです」
地包天がそう言った。
「それがよかったのだよ。おまえの愛の力が神様に届いて、神様が奇跡を起こしてくださったのだ」
ぼくは地包天にそう言った。
「笑い猫がそう言ってくれると、うれしいわ」
地包天がそう答えた。
「この世の中には奇跡を起こす力がいろいろあるが、その中でも一番大きな力は愛の力だということが、ぼくは今、はっきりと分かった。愛の力は天地をも動かし、ありそうもない不思議なことを起こすこともできる。おまえのシャオパイへの愛が奇跡を起こしたのだ。ぼくは今、愛の力の偉大さをあらためて認識することができた。ありがとう、地包天」
ぼくは興奮冷めやらない顔でそう言った。
「大げさな言い方をするのですね、何だか、照れくさいわ」
地包天がそう言った。
「ぼくはこれからすぐにフェイナのうちに行って、シャオパイが生き返ったことを知らせようと思っている」
ぼくは地包天にそう言った。
「そうですか。わたしもいっしょに行きたいのは、やまやまです。でもシャオパイはまだ体力が十分に回復していないから、ここにいて、しばらくシャオパイに付き添ってあげることにします」
地包天がそう答えた。
「分かった。そうしてくれ」
ぼくはそう答えた。それからまもなく、ぼくは朗らかな気持ちで梅園を出て、フェイナが住んでいる桜木横丁へ向かい始めた。それを見て老いらくさんが
「笑い猫、待ってくれ、どこへ行くのだ?」
と聞いた。
「シャオパイが生き返ったことを知らせにフェイナのうちへ行っている」
ぼくはそう答えた。
「わしもいっしょに行っていいか」
老いらくさんが聞いた。
「いいですよ、『旅は道連れ、世は情け』と言いますから、いっしょに行きましょう」
ぼくはそう答えた。
ぼくと老いらくさんが翠湖公園の中からまだ出ないうちに、フェイナが眼鏡橋をわたって翠湖公園の中に入ってくるのが見えた。フェイナはいつもは派手なネックレスをつけたり、きらびやかな服を着ているが、今日は首に数珠をかけて、体には白い服を着ていた。この国ではお葬式のときには白い服を着るという習慣があるので、シャオパイの死を悼んで、そのようないでたちをして、シャオパイのお墓参りにやってきたのだと、ぼくは思った。ぼくはフェイナの近くまで走っていった。老いらくさんも、ぼくのあとから走ってついてきた。
「フェイナ、シャオパイが生き返った」
ぼくは開口一番、そう言った。
「何ですって!?」
フェイナは、わけが分からないで、ぽかんしとた顔をしていた。ぼくは、これまでのいきさつをフェイナに話してあげた。それでもフェイナには到底、信じがたい出来事にしか思えなかったので、ぼくの話を根っから信じようとはしなかった。
「おまえが信じないのも無理はない。『百聞は一見に如かず』というから、ぼくの話がうそだと思うのなら、ぼくにこれから、ついてきなさい」
ぼくはフェイナにそう言って、フェイナを梅園の中に連れていった。シャオパイが地包天に寄り添われながら、かすかに目を開けて、フェイナのほうを見ていた。フェイナはそれに気がついて
「シャオパイ、まだ生きていたの。わたしは、てっきり死んだものとばかり思っていたから、こんなかっこうをして、お墓参りに来ていたところだったの」
と言った。
「ぼくはまだ死んでいない」
シャオパイがそう答えた。
ぼくはシャオパイに
「フェイナは、おまえの命を助けてくれた一番の恩犬だ。おまえが黒いビニール袋に入れられてごみ置き場に捨てられていたのを偶然発見して、カートに乗せて、自分のうちまで運んでくれた。もしそうしていなかったら、今ごろ、おまえは間違いなく死んでいた」
と言った。それを聞いてシャオパイが目頭を熱くしながらフェイナをじっと見て
「ありがとう。恩は一生、忘れない」
と言った。
シャオパイが黒いビニール袋に入れられて捨てられていたいきさつについて、ぼくはとても知りたく思っていた。シャオパイに聞いたら分かると思う。でも今はまだシャオパイが十分に体力を回復していないので、あえて聞かないことにした。恐ろしい悪夢のような出来事を思い出すのは辛いだろうから、シャオパイの体力の回復を待ってから聞くことにした。

