天気……今日は二十四節気のなかの『大寒』。暦の上では一番寒い時季になった。でもこの町では『大寒』よりも『小寒』のころが、一年のうちで一番寒いので、今日はそれほど寒くは感じなかった。翠湖に氷も張らなかったし、雪も降らなかった。吹く風も『小寒』のころと比べたら、それほど冷たくは感じなかった。
『冬来たりなば春遠からじ』というが、『大寒』が過ぎれば、日はだんだん暖かくなっていく。あと二週間もすれば『立春』になるので、ぼくは胸に明るい希望を抱きながら元気に過ごしていた。
朝早く、いつものように散歩にでかけると、向こうから老いらくさんがやってきた。
「おはようございます」
ぼくは老いらくさんに、すがすがしい声であいさつをした。
「おはよう。ここ数日寒気がだいぶ、ゆるんできたな」
老いらくさんがそう言った。
「そうですね、春の足音が、これからますます大きく聞こえてきますよ」
ぼくは老いらくさんにそう答えた。
「シャオパイは最近、どうしているかなあ」
老いらくさんが、ふっと、そう言った。
「そうですねえ、あの女の人を手伝って、いろいろなことをしながら、充実した日々を過ごしているのではないでしょうか」
ぼくはシャオパイの様子を想像しながら、そう言った。
「そうだろうなあ。わしも、そう思っている」
老いらくさんがそう答えた。
「あの女の人は郊外に一人で住んでいますが、寂しく感じることはないのでしょうか」
ぼくは老いらくさんに聞いた。すると老いらくさんが
「一人で住んでいる人がみな寂しいとは限らない」
と言った。老いらくさんは、さらに話を続けて
「一人で住んでいても、心の中で誰かとつながっていることを認識できたら寂しさは感じないはずだ」
と言った。それを聞いて、ぼくは、確かに、そうかもしれない思った。あの人には、手紙を出してくれる人がたくさんいるから、認められている喜びのほうが大きくて、寂しさを感じない人かもしれないと思った。
「一番寂しいのは、だれからも必要とされないことだよ」
老いらくさんがそう言った。ぼくはそれを聞いて、心に感じるものがあった。
「あの人は今、シャオパイを必要としています。シャオパイも、あの人から必要とされている喜びを感じています」
ぼくはそう言った。
「そうだな。持ちつ持たれつのいい関係にある」
老いらくさんがそう言った。
「そうですね。ぼくもそう思います。いい関係が、これからもずっと続いていくことを、ぼくは心から願っています」
ぼくは老いらくさんに、そう答えた。老いらくさんがそのあと
「わしは最近、シャオパイに会っていないから、久しぶりに会ってみたくなった。これから会いにいかないか」
と言った。
「そうですね。ぼくも十日ぐらい会っていないので、会ってみたいです」
ぼくはそう答えた。
ぼくと老いらくさんは意気投合したので、そのあといったん別れて、うちへ帰って朝ご飯を食べてから、眼鏡橋の上で再び落ち合って、いっしょにシャオパイのうちへいった。
シャオパイのうちに着くと、ぼくは一声鳴いて来訪を告げた。するとそれからまもなく玄関のドアが開いて、シャオパイが出てきた。
「シャオパイ、久しぶりだな。元気にしていたか」
ぼくはシャオパイに声をかけた。するとシャオパイが
「ぼくは元気だったよ。でも女の人がまた……」
と言って、語尾をぼかした。
「女の人がまた、どうかしたのか?」
ぼくは聞き返した。
「昨日の夕方、ご飯を食べたあと、お風呂に入っている時に、湯船の中で意識を失って、顔がお湯の中に沈みかけていた」
シャオパイがそう言った。
ぼくはそれを聞いて、びっくりして
「それで、どうしたのか?」
とすぐに聞き返した。
「(大変だ!)と思ったから、ぼくは大きな声でワンワン鳴いたり、沈みかけていた顔をぽんぽんたたいた。すると女の人が意識を取り戻して、顔を湯船の上にあげた。ぼくはそれを見て、ほっとした」
シャオパイがそう言った。
「そうか、そういうことがあったのか。おまえは、今度もまた、その女の人の命を救った
のか」
ぼくはシャオパイにそう言った。ぼくはそのあと老いらくさんに、シャオパイが言ったことを話して聞かせた。すると老いらくさんも、びっくりしていた。
「その女の人が湯船の中で意識を失ったのは、どうしてでしょうか」
ぼくは老いらくさんに聞いた。
「湯あたりしたのかもしれない」
老いらくさんがそう答えた。
「湯あたりって何ですか?」
ぼくは老いらくさんに聞き返した。
「湯に長く入り過ぎたために起こる体の異常だ」
と、老いらくさんが説明してくれた。湯あたりのことを、ぼくはシャオパイに話した。するとシャオパイが首をかしげながら
「せいぜい十五分ぐらいしか、お湯の中につかっていないはずだよ」
と答えた。
「そうか、それだったら、ほかに何か原因があって、意識を失ったのかもしれない。何か、心当たりはないか」
ぼくはシャオパイに聞いた。シャオパイは、しばらく考えてから
「お風呂場の中に、不思議なにおいが漂っているのに、ぼくは気がついた。そのにおいを、ぼくは以前かいだことがあった。この前、裏庭で意識を失って倒れていた時に、女の人の鼻や口から出ていた、あのにおいだった」
シャオパイがそう言った。ぼくはそれを聞いて、びっくりした。
「もしかしたら、あの女の人には突然意識を失うという奇病があって、発作が起きたら不思議なにおいが鼻や口から出るのかもしれない」
ぼくは想像を巡らしながら、シャオパイにそう答えた。
「そうかもしれないですね」
シャオパイがそう答えた。
「女の人は意識を取り戻したあと、どうしたのだ?」
ぼくはシャオパイに聞いた。
「お風呂から上がって寝室に行って、そのあと薬のようなものを飲んでから寝ていた」
シャオパイがそう答えていた。
「そうか、それはよかった。でも、ここにいたら、いつまた、そんな怖いことが起きるかもしれないぞ。『二度あることは三度ある』というではないか。ここにいたら、おまえは、おちおちできないだろうから、このうちを出たほうがいいのではないか」
ぼくはシャオパイにそう言った。するとシャオパイが不機嫌そうな顔をしながら
「何を言っているのですか。こういう人だからこそ、ぼくが、そばについてあげなければ
ならないのです。ぼくはこの人と出会って、とてもうれしいです。ぼくはこれから一生、この人を守ってあげます。この人といっしょに生きることが、ぼくの生きがいですから」
シャオパイがそう答えた。ぼくはそれを聞いて感動して涙が出てきた。シャオパイが言ったことを、ぼくは老いらくさんにも話してあげた。すると老いらくさんも深く感動していた。
「分かった。おまえは本当に偉いよ。おまえが決めたことに、ぼくはもう何も異を唱えない」
ぼくはシャオパイにそう言った。老いらくさんも
「シャオパイはなんて立派な犬なのだろう」
と言って敬服していた。
ぼくはそれからまもなくシャオパイに
「元気でね、また来るから」
と言って別れのあいさつをしてから、老いらくさんといっしょに、シャオパイのうちを出て翠湖公園に帰って行った。
『冬来たりなば春遠からじ』というが、『大寒』が過ぎれば、日はだんだん暖かくなっていく。あと二週間もすれば『立春』になるので、ぼくは胸に明るい希望を抱きながら元気に過ごしていた。
朝早く、いつものように散歩にでかけると、向こうから老いらくさんがやってきた。
「おはようございます」
ぼくは老いらくさんに、すがすがしい声であいさつをした。
「おはよう。ここ数日寒気がだいぶ、ゆるんできたな」
老いらくさんがそう言った。
「そうですね、春の足音が、これからますます大きく聞こえてきますよ」
ぼくは老いらくさんにそう答えた。
「シャオパイは最近、どうしているかなあ」
老いらくさんが、ふっと、そう言った。
「そうですねえ、あの女の人を手伝って、いろいろなことをしながら、充実した日々を過ごしているのではないでしょうか」
ぼくはシャオパイの様子を想像しながら、そう言った。
「そうだろうなあ。わしも、そう思っている」
老いらくさんがそう答えた。
「あの女の人は郊外に一人で住んでいますが、寂しく感じることはないのでしょうか」
ぼくは老いらくさんに聞いた。すると老いらくさんが
「一人で住んでいる人がみな寂しいとは限らない」
と言った。老いらくさんは、さらに話を続けて
「一人で住んでいても、心の中で誰かとつながっていることを認識できたら寂しさは感じないはずだ」
と言った。それを聞いて、ぼくは、確かに、そうかもしれない思った。あの人には、手紙を出してくれる人がたくさんいるから、認められている喜びのほうが大きくて、寂しさを感じない人かもしれないと思った。
「一番寂しいのは、だれからも必要とされないことだよ」
老いらくさんがそう言った。ぼくはそれを聞いて、心に感じるものがあった。
「あの人は今、シャオパイを必要としています。シャオパイも、あの人から必要とされている喜びを感じています」
ぼくはそう言った。
「そうだな。持ちつ持たれつのいい関係にある」
老いらくさんがそう言った。
「そうですね。ぼくもそう思います。いい関係が、これからもずっと続いていくことを、ぼくは心から願っています」
ぼくは老いらくさんに、そう答えた。老いらくさんがそのあと
「わしは最近、シャオパイに会っていないから、久しぶりに会ってみたくなった。これから会いにいかないか」
と言った。
「そうですね。ぼくも十日ぐらい会っていないので、会ってみたいです」
ぼくはそう答えた。
ぼくと老いらくさんは意気投合したので、そのあといったん別れて、うちへ帰って朝ご飯を食べてから、眼鏡橋の上で再び落ち合って、いっしょにシャオパイのうちへいった。
シャオパイのうちに着くと、ぼくは一声鳴いて来訪を告げた。するとそれからまもなく玄関のドアが開いて、シャオパイが出てきた。
「シャオパイ、久しぶりだな。元気にしていたか」
ぼくはシャオパイに声をかけた。するとシャオパイが
「ぼくは元気だったよ。でも女の人がまた……」
と言って、語尾をぼかした。
「女の人がまた、どうかしたのか?」
ぼくは聞き返した。
「昨日の夕方、ご飯を食べたあと、お風呂に入っている時に、湯船の中で意識を失って、顔がお湯の中に沈みかけていた」
シャオパイがそう言った。
ぼくはそれを聞いて、びっくりして
「それで、どうしたのか?」
とすぐに聞き返した。
「(大変だ!)と思ったから、ぼくは大きな声でワンワン鳴いたり、沈みかけていた顔をぽんぽんたたいた。すると女の人が意識を取り戻して、顔を湯船の上にあげた。ぼくはそれを見て、ほっとした」
シャオパイがそう言った。
「そうか、そういうことがあったのか。おまえは、今度もまた、その女の人の命を救った
のか」
ぼくはシャオパイにそう言った。ぼくはそのあと老いらくさんに、シャオパイが言ったことを話して聞かせた。すると老いらくさんも、びっくりしていた。
「その女の人が湯船の中で意識を失ったのは、どうしてでしょうか」
ぼくは老いらくさんに聞いた。
「湯あたりしたのかもしれない」
老いらくさんがそう答えた。
「湯あたりって何ですか?」
ぼくは老いらくさんに聞き返した。
「湯に長く入り過ぎたために起こる体の異常だ」
と、老いらくさんが説明してくれた。湯あたりのことを、ぼくはシャオパイに話した。するとシャオパイが首をかしげながら
「せいぜい十五分ぐらいしか、お湯の中につかっていないはずだよ」
と答えた。
「そうか、それだったら、ほかに何か原因があって、意識を失ったのかもしれない。何か、心当たりはないか」
ぼくはシャオパイに聞いた。シャオパイは、しばらく考えてから
「お風呂場の中に、不思議なにおいが漂っているのに、ぼくは気がついた。そのにおいを、ぼくは以前かいだことがあった。この前、裏庭で意識を失って倒れていた時に、女の人の鼻や口から出ていた、あのにおいだった」
シャオパイがそう言った。ぼくはそれを聞いて、びっくりした。
「もしかしたら、あの女の人には突然意識を失うという奇病があって、発作が起きたら不思議なにおいが鼻や口から出るのかもしれない」
ぼくは想像を巡らしながら、シャオパイにそう答えた。
「そうかもしれないですね」
シャオパイがそう答えた。
「女の人は意識を取り戻したあと、どうしたのだ?」
ぼくはシャオパイに聞いた。
「お風呂から上がって寝室に行って、そのあと薬のようなものを飲んでから寝ていた」
シャオパイがそう答えていた。
「そうか、それはよかった。でも、ここにいたら、いつまた、そんな怖いことが起きるかもしれないぞ。『二度あることは三度ある』というではないか。ここにいたら、おまえは、おちおちできないだろうから、このうちを出たほうがいいのではないか」
ぼくはシャオパイにそう言った。するとシャオパイが不機嫌そうな顔をしながら
「何を言っているのですか。こういう人だからこそ、ぼくが、そばについてあげなければ
ならないのです。ぼくはこの人と出会って、とてもうれしいです。ぼくはこれから一生、この人を守ってあげます。この人といっしょに生きることが、ぼくの生きがいですから」
シャオパイがそう答えた。ぼくはそれを聞いて感動して涙が出てきた。シャオパイが言ったことを、ぼくは老いらくさんにも話してあげた。すると老いらくさんも深く感動していた。
「分かった。おまえは本当に偉いよ。おまえが決めたことに、ぼくはもう何も異を唱えない」
ぼくはシャオパイにそう言った。老いらくさんも
「シャオパイはなんて立派な犬なのだろう」
と言って敬服していた。
ぼくはそれからまもなくシャオパイに
「元気でね、また来るから」
と言って別れのあいさつをしてから、老いらくさんといっしょに、シャオパイのうちを出て翠湖公園に帰って行った。

