いい飼い主を探す犬

天気……『小寒』が過ぎてから、数日もたたないうちに、真冬の一番寒い時季がやってきた。翠湖の水は凍っていて、太陽の光が湖面に反射して、きらきらと光っていた。北から渡ってきた白鳥が、凍った湖の上で、翼を広げて、優雅に舞っている姿が見えた。『白鳥の湖』というバレエの世界が、ぼくの目の前で美しく繰り広げられていた。

今朝早く、翠湖公園の湖畔に沿って散歩していると、向こうから老いらくさんがやってきた。スケートボードを押してきていた。
「笑い猫、おはよう。今日は翠湖に氷が張っているので、スケートを楽しもうと思ってやってきた」
老いらくさんがそう言った。
「そうですか。でも氷が割れたら危ないですよ」
ぼくは老いらくさんに注意を促した。すると老いらくさんは湖の上にいる白鳥を見ながら
「大丈夫だよ。このスケートボードに比べたら、白鳥のほうがずっと重いのに楽しそうに踊っているではないか」
と言った。老いらくさんはそう言うと、それからまもなく凍っている湖の中にスケートボードを入れて、滑り始めた。なかなか上手に滑っていた。ぼくはその姿を見ながら、シャオパイがこの前言った言葉の意味を考えていた。人の役に立っていることに喜びや生きがいを見いだしていると話していたから、そういう生き方が人に飼われているペットにとっての理想的な生き方なのだろうなあと思っていた。ぼくはペットではないから、ぼくの生き方とシャオパイの生き方を単純に比べることはできないし、ぼくにとっての理想的な生き方は妻猫と楽しく暮らしながら、正義感に燃えて生きることだと思っている。
そのようなことを思いながら、視線の先を老いらくさんからふっとそらして湖畔沿いの小道に目をやると、向こうからフェイナがやってくるのが見えた。フェイナと会うのは久しぶりだった。
「やあ、フェイナ、元気だったか」
ぼくはフェイナに声をかけた。
「ありがとう。元気よ」
フェイナが明るい声でそう答えた。
「フェイナ、あそこを見ろ。白鳥が舞っている」
ぼくはそう言って、湖の中を手で指さした。
「あっ、本当だ。優雅な姿で踊っているわ」
フェイナがそう言った。
「わたしも真似してみよう」
フェイナはそう言うと後ろ足で立ち上がってから、白鳥の姿を真似してバレエのダンサーのように踊り始めた。フェイナはもともと品格のある犬だから、体の動きにしなやかなところがあるが、白鳥の姿を真似して踊っているフェイナの姿を見ていると、ますます品格が感じられて、ぼくはうっとりして魅入っていた。フェイナはしばらくしてから踊るのをやめて
「わたしが今日、ここへ来たのはシャオパイのことを聞くためなの。どうしていますか」
と言った。
「飼い主が見つかったから、その家で暮らし始めました」
ぼくはフェイナにそう答えた。
「そうですか。それはよかったです。その家はどこにありますか」
フェイナが聞いた。
「この町の郊外にあります」
ぼくはそう答えた。
「郊外ですか。遠いですね。わたしと同じ桜木横丁に住んでくれたらいいなと、ずっと思っていたので残念です」
フェイナがそう答えた。
「でもいい人ですから、シャオパイは今、とてもしあわせに暮らしていると思います」
ぼくはフェイナにそう言った。
「その人とは、どこで知り合ったのですか」
フェイナが聞いた。
「この公園の中にある梅園で知り合いました」
ぼくはフェイナにそう答えた。
「そうですか。花を見るのが好きな人ですか」
フェイナが聞いた。
「そうです。とても花が好きな人です」
ぼくはフェイナにそう答えた。ぼくは、そのあと、シャオパイがその人の命を助けたことや、仕事を手伝っていることなどをフェイナに話した。するとフェイナが
「そうですか。それは不思議な出会いですね。シャオパイと、その人は前世から見えない糸で結ばれていたのかもしれないですね」
フェイナがそう言った。
「ぼくもそう思っている」
ぼくはフェイナにそう答えた。
「シャオパイがどんなうちに住んでいるのか一度、行ってみたいな」
フェイナがそう言った。
「だったら、これから行きませんか。ぼくは行ったことがあるから、うちが分かります」
ぼくはそう答えた。
「そうですか。ではこれから行きましょう」
フェイナがそう答えた。ぼくはそのあと老いらくさんに声をかけて、凍結した湖の上を気持ちよさそうに滑っている老いらくさんを湖畔に呼び寄せた。
ぼくのそばにフェイナがいるのを見て、老いらくさんが、びっくりしたような顔をしながら
「笑い猫、どうしたのだ?」
と聞いた。
「ぼくはこれからフェイナを連れて、シャオパイのうちへ行きます。老いらくさんはどうしますか」
ぼくは老いらくさんに聞いた。すると老いらくさんが
「わしは今、遊び疲れているから、郊外まで行く元気がない。これから、うちへ帰ってひと休みするよ」
と答えた。
「そうですか。だったら今日はフェイナといっしょに行きます」
ぼくはそう答えた。
「分かった。シャオパイによろしく言ってくれ」
老いらくさんがそう言った。ぼくとフェイナは、それからまもなく老いらくさんと別れて、翠湖公園を出て郊外へ向かった。途中でフェイナが
「シャオパイが郊外に住んでいるのなら、これからは、ちょくちょくは会えなくなるわ」
フェイナが、寂しそうな声で、ぽつりとそう言った。ぼくはそれを聞いて首を横に振った。
「そうとも限らないよ。シャオパイは買い物によく出かけていくので、桜木横丁の前を通っていくように言いなさい。そうすれば会えるではないか」
ぼくはフェイナにそう言った。
「分かった。そう言ってみる」
フェイナがそう答えた。
ぼくとフェイナは四十分ほど歩いて、シャオパイが住んでいる郊外の家に着いた。家の前に着くと、ぼくは一声鳴いた。すると玄関のドアが開いて、なかからシャオパイが出てきた。
「シャオパイ、元気か。今日はフェイナを連れてきたよ」
ぼくはシャオパイにそう言った。シャオパイはフェイナの顔を見て、とてもうれしそうにしていた。フェイナもうれしそうな顔をしていた。どちらもプードル犬だから互いに親しみを感じていて、以心伝心のところがあるように見えた。
「どうぞ、なかに入って。飼い主さんは今、留守だから、気がねしなくていいよ」
シャオパイがそう言った。
「そうか。それなら遠慮なく、なかに入らせてもらうよ」
ぼくはシャオパイにそう言った。ぼくとフェイナは、それからまもなく、玄関のドアから家の中に入っていった。シャオパイが居間に案内してくれた。
「ソファーに座って」
シャオパイがそう言ったので、ぼくとフェイナは、ふかふかして柔らかいソファーに座りながら、シャオパイの話に耳を傾けていた。フェイナがシャオパイに
「買い物によく行くそうだけど、桜木横丁の前を通って、わたしのうちにも立ち寄っていって」
と言っていた。
「分かった、そうするよ」
シャオパイがそう答えていた。居間の壁に、額縁に入った写真がたくさん飾られているのにフェイナが気がついて
「これは何の写真かしら。どの写真にも子どもたちに囲まれて楽しそうに微笑んでいる女の人が写っているけど」
と言って、けげんそうな顔をしていた。するとシャオパイが写真を見ながら
「子どもたちが誰なのか、ぼくには分からないけど、この女の人は、ぼくの飼い主さんだよ」
と説明していた。
「そうですか。優しそうな人ですね」
フェイナがそう答えていた。フェイナは、そのあと本箱の上に粘土で作った動物や、木で作った人形や、いろいろな貝殻か置かれているのに気がついて
「どうして、こんなものがここに置かれているのでしょう。まるで大切な宝物のように置かれているわ」
と言った。
「ぼくにもよく分からない」
シャオパイがそう答えていた。
フェイナはそのあと居間のあちこちを見まわしながら
「インテリアがとても素敵。お洒落なアンティークなものでまとめられているから、ここに住んでいる人の人柄が分かるわ」
と言った。フェイナはこの家が、意にかなったように見えた。
ぼくとフェイナは、それからまもなく、シャオパイと別れて、うちへ帰っていった。帰る途中、ぼくはフェイナに
「シャオパイがあの家に住むことについて、どう思いますか」
と聞いた。するとフェイナは、にっこりとうなずいてから
「シャオパイはいい人とめぐり逢いました。わたしはとてもうれしいです」
と答えた。
「ぼくもそう思います。シャオパイはこれからきっと、しあわせに生きていけると思います」
ぼくはフェイナにそう答えた。桜木横丁の前まで帰ってくると、ぼくはフェイナと別れて翠湖公園に帰っていった。