いい飼い主を探す犬

天気……一年のうちで一番寒い時季が近づいてきた。翠湖公園の中の木々も草花も、ほとんどが枯れてしまった。しかし梅園の中にあるロウバイの花だけは、寒さにもめげずに今が盛りとばかりに咲き誇っていた。

シャオパイが謎に包まれた女の人に気に入られてから、一週間ほどがたった。この間、シャオパイは翠湖公園に一度も姿を見せなかったから、ぼくも老いらくさんも、どうしているだろうと思って、久しぶりにシャオパイを訪ねていくことした。町の郊外に出て、もう少しで女の人の家に着くと思っていた、ちょうどそのとき、シャオパイが首に買い物袋を提げて、向こうから歩いてくるのが見えた。
「シャオパイ、そのかっこうは何だい。どこかに買い物にでも行っているのか?」
ぼくはけげんに思って、シャオパイに聞いた。するとシャオパイがうなずいた。
「これから花餅を買いに行くところ」
シャオパイがそう答えた。
「花餅?」
ぼくはシャオパイに聞き返した。シャオパイがうなずいた。
「女の人は午後のティータイムにはロウバイ茶を飲んで、花餅を食べるけど、花餅が一個しか残っていなかったから、買いに行っているの」
シャオパイがそう答えた。
「おまえは買い物ができるのか?」
ぼくはシャオパイに聞いた。
「できるよ。この買い物袋の中に、女の人がメモ用紙と財布を入れてくれたから、お店の人に、それを見せれば、花餅を買いにきたことが分かってもらえる」
シャオパイがそう答えた。
「そうか。おまえは偉いな」
ぼくはシャオパイにそう答えた。
「偉くないよ。ぼくにできることをしているだけだから」
シャオパイがそう答えた。
「女の人はどうして自分で買いに行かないのか」
ぼくはシャオパイに聞いた。
「女の人は病み上がりだから、途中で気分が悪くなったら大変だと思って、ぼくが代わりに行っているの」
シャオパイがそう答えた。ぼくはそれを聞いて、うなずいた。
「花餅を売っている店はどこにあるのか、おまえは知っているのか」
ぼくはシャオパイに聞いた。するとシャオパイが首を横に振った。
「店を知らないのに、どうやって買いに行けるのか」
ぼくは疑問に思って聞き返した。するとシャオパイが
「ぼくは臭覚がとても強いので、花餅のにおいを感じることができるから、売っている店の前まで行けると思う」
と言った。
「そうか。ぼくは花餅を食べたことがないから、どんなにおいがするのか知らないから店の前まで連れていくことはできない」
ぼくはシャオパイに、申し訳なさそうに、そう答えた。ぼくはそのあと老いらくさんに
「花餅を食べたことがありますか」
と聞いた。すると老いらくさんが
「わしも食べたことはない。しかし花餅のことは聞いたことがある。この町の名物で、町の外から買いにくる人もいるそうだ」
と答えた。
「そうですか。どんな味がするのでしょうねえ」
ぼくは想像を膨らませながら、そう言った。すると老いらくさんが
「花の蜜を中に入れた餅で、口の中に甘いかおりがひろがって、しあわせな気分になれる餅だそうだ」
と教えてくれた。
「店はどこにあるかご存じですか」
ぼくは老いらくさんに聞いた。
「知っているよ。たくさんあるが、そのなかでも一番人気がある店を、わしは知っている。その店の前にはいつも買う人の長い列ができている」
老いらくさんがそう答えた。
「その店はここから遠いですか」
ぼくは老いらくさんに聞いた。
「それほど遠くない」
老いらくさんがそう答えた。
「では、ぼくとシャオパイをそこへ案内してください」
ぼくはそう言って老いらくさんにお願いした。老いらくさんはうなずいた。それからまもなく、ぼくとシャオパイは老いらくさんのあとからついていった。しばらく歩いていると、前方に人だかりがしているのが見えてきた。店の看板も見えた。
「あそこだよ」
老いらくさんがそう言った。店の前まで着くと、香ばしいにおいが、ぷんぷん、漂ってきた。
「あの店では、できたばかりの、ほかほかした花餅を売っているから、買いにやってくる人がたくさんいる。そのためにあんなに長い列ができているのだ」
老いらくさんがそう説明した。
ぼくたちがやってきたのに気がついて、列に並んでいる人たちが不思議そうな顔をしながら、ぼくたちのほうを見ていた。シャオパイが首に買い物袋をさげているのを見て、男の人と女の人が
「この犬は誰かに頼まれて買い物にやってきたのだろうか」
「そうみたいですね。買い物ができる犬を、わたしは初めて見たわ。賢い犬」
と言って、話をしているのが聞こえてきた。ぼくたちは列にきちんと並んで少しずつ店の前まで進んでいった。やがて買う順番がやってきた時、シャオパイは店の前に置かれている台の上に飛び上がってから、店主に向かって、一声、鳴いた。すると店主はシャオパイが首にさげている買い物袋に気がついて、袋の中から、メモ用紙と財布を取り出してから
「花餅を五個買うのだね。代金はこの中からいただくよ」
と言っていた。店主は、そのあと、できたての花餅を五個と、代金をいただいたあとの財布を袋の中に入れてから
「気をつけてお帰り」
と言って、シャオパイの首にかけてくれた。
ぼくと老いらくさんは、シャオパイをガードしながら、女の人のうちまで帰っていった。女の人の家に着くと、シャオパイは買い物袋の中から花餅と財布を取り出して、居間にあるテーブルの上に置いた。そのあとシャオパイは階段の下まで行って、一声鳴いた。すると女の人が二階から下りてくる足音が聞こえた。
「老いらくさん、はやく隠れて」
ぼくは老いらくさんにそう言った。ぼくの声を聞いて、老いらくさんが、テーブルの下にさっと隠れた。
女の人は階段を下り終えると、しゃがんでシャオパイをいとおしそうに抱きあげながら
「買ってきてくれたのね。ありがとう」
と言って、頭をなでていた。
「さあ、ティータイムの時間だから、いっしょにロウバイ茶を飲んだり、花餅を食べたりしましょう」
女の人が楽しそうな声で、そう言いながら、シャオパイを抱いたまま居間に入ってきた。
居間の中に、ぼくがいるのに気がついて
「あっ、この猫は、この前、ここにいた笑い猫だわ」
と言った。ぼくのことを覚えてくれていたので、ぼくは、うれしくなって、にっこりと笑みを浮かべた。ぼくの笑みを見て、女の人が
「本当に不思議な猫」
と言っていて、ぼくの顔をじっと見ていた。女の人はそのあと台所に行って、お湯を沸かしたり、きれいな花の絵がついて皿を三つ用意してから、居間に戻ってきた。
「さあ、これからお茶の時間を楽しみましょう」
女の人はそう言って、ぼくとシャオパイをいすの上に座らせてから、ぼくたちの前に皿を持ってきて、皿の上に花餅を一個ずつ置いてくれた。
「さあ、食べて」
女の人が優しい声で、そう言ってくれたので、ぼくとシャオパイは感謝しながら花餅を食べ始めた。とてもおいしかった。老いらくさんが話していたとおり、餅の中に花の蜜が入っていて、口の中に入れたとたんに、甘いかおりが口の中全体にひろがっていって、しあわせな気分になれる餅だった。老いらくさんにも分けてやらなければと思ったので、女の人の目を盗んで、ぼくはこっそりとテーブルの下に花餅のかけらを落とした。ぼくとシャオパイが花餅を食べ終えると、女の人が皿の上にロウバイ茶をついでくれた。浄水を沸かして作ったきれいなお湯の中にロウバイの花びらを浮かべて作ったお茶で、よいかおりがぷんぷんしていた。お茶が冷めるのを待ってから、ぼくは一口、飲んでみた。するとロウバイの花のかぐわしいにおいが口の中にひろがって、ますます、しあわせな気分になることができた。女の人は花餅を食べたり、ロウバイ茶を飲みながら、CDを聞いていた。小鳥のさえずりの声や、小川の水がさらさらと流れている音がCDから聞こえてきたので、ぼくは目をつむって山奥の自然の中の風景を想像しながら、ゆったりとした気持ちで午後のひとときをまどろんでいた。ぼくはこれまで午後のティータイムの時間を、こんなにしあわせな気分で過ごしたことがなかったので、今日のことは一生忘れないだろうと思った。ティータイムが終わったあと、女の人は再び二階に上がっていった。ぼくと老いらくさんは、それからまもなくシャオパイと別れて、翠湖公園に帰っていった。