天気……日ごとにますます寒さがつのってきたが、梅園の中のロウバイの花は寒風のなか次々とつぼみが開いていった。かぐわしい花のかおりが公園の中に、ぷんぷんと漂っていて、黄金色の美しい花が目に優しく感じられた。
昨夜の九時過ぎに、ぼくはうちを出て、梅園に向かった。梅園の出入り口のところでしばらく待っていると、フェイナがカートを押しながらやってきた。ぼくはフェイナを案内して、ロウバイの花がついている木の枝を入れた袋を置いているところまで連れて行った。するとそこには、もうすでにシャオパイと老いらくさんが来ていて、ぼくたちの到着を待っていた。ぼくたちはカートに木の枝を入れた袋を載せてから、梅園を出て、翠湖公園の眼鏡橋を渡って、町の中に出ていった。町の中はしんとしていて、人や車の姿はほとんどなかった。シャオパイが道案内をしてくれたし、老いらくさんは信号の色を教えてくれた。ぼくはフェイナと力を合わせて懸命にカートを押しながら、女の人の家に向かっていた。
今日の明け方近く、ぼくたちは、女の人の家の前に着いた。木の枝をカートから降ろしてから、鍵がかかっていない玄関のドアを開けて、木の枝を家の中に入れた。フェイナはそのあとカートを押して桜木横丁に帰っていった。
家の中には人の気配はなかったので、女の人はまだ病院から帰ってきていないことが分かった。夜が明けるとすぐに、ぼくとシャオパイは生け花を始めた。家の中には部屋ごとに花瓶が置かれていたので、花瓶の中に木の枝を挿してからすべての部屋の中にロウバイの花を飾った。するとそれからまもなく部屋の中全体に、ロウバイのかぐわしいかおりがひろがっていった。
「帰ってきた時、さぞかし、びっくりするだろうなあ」
シャオパイがそう言った。それを聞いてぼくはうなずいた。
シャオパイは、そのあと、ぼくと老いらくさんを、裏庭に連れていってから
「女の人は、ここに倒れていた」
と言った。
「そうか、雪が積もっていたから、滑って転んで頭を打ったのだろうか」
ぼくは想像でそう言った。
「理由はよく分からないけど、ぼくが発見した時、意識がなかったので、ぼくはびっくりした」
シャオパイがそう言った。
「そうか。おまえの気持ちが、よく分かるよ」
ぼくはそう答えた。
それからまもなく、家の玄関のほうで、物音がしたので、ぼくとシャオパイと老いらくさんは裏庭からそっと玄関のほうに回っていった。すると女の人が玄関の戸を開けて、中に入っていく後ろ姿が見えた。
(あっ、帰ってきたのだ)
ぼくはそう思った。
「元気になって、よかったね」
シャオパイがそう言った。ぼくは、にっこりとうなずいた。
「たぶん、今ごろはびっくりしているだろうと思うよ」
ぼくはシャオパイにそう言った。
「そうだろうなあ。家の中にロウバイの花のかおりが、ぷんぷんと漂っていたら、びっくりして、また卒倒しているかもしれない。ぼくは、心配だから、中に入って、ちょっと様子を見てくる」
シャオパイがそう言った。
「ぼくも心配だから、いっしょについていく」
ぼくはシャオパイにそう言った。
「わしもいく」
老いらくさんがそう言った。それを聞いて、ぼくは首を横に振った。
「老いらくさんは外で待っていてください。ネズミが家の中にいるのが分かったら、びっくりして追い立てられるかもしれないですから」
ぼくは老いらくさんにそう言った。
「分かったよ。そうするよ」
老いらくさんが渋々そう答えてくれた。
それからまもなく、ぼくとシャオパイは玄関のドアを開けて、家の中に入っていった。すると女の人が居間にいて、目をつむって、うっとりしたような顔をしながら、ロウバイの花のにおいをかいでいる姿が、ぼくの目に入った。ぼくは女の人の顔を見るのはこれが初めてだったから、どんな人だろうと思っていたが、シャオパイが言っていたとおりに不思議なオーラを感じさせる人だった。女の人は、ぼくとシャオパイの姿に気がついて、一瞬、びっくりしたような顔をしていたが
「まあ、かわいい犬と猫。おまえたちも花のにおいに惹かれて入ってきたの」
と、優しい声で、ぼくたちに話しかけていた。ぼくはそれを聞いて、にっこりと笑みを浮かべた。ぼくの笑顔に気がついて
「えっ、この猫は笑っているわ。こんな猫を初めて見たわ」
と言って、目を丸くしていた。女の人はそのあとシャオパイを見て
「このプードル犬は真っ白で、とてもきれい。こんな犬がいたら、いっしょに暮らしたいなあ」
と言っていた。女の人が言った言葉の意味を、ぼくはシャオパイに伝えた。するとシャオパイが
「そんなことを言っていたの。うれしい」
と答えていた。
シャオパイがこの女の人を助けたことは、女の人はむろん知るよしもないが、女の人がシャオパイのことをとても気に入ってくれたので、ぼくはとてもうれしく思っていた。シャオパイとこの女の人は、やはり、何か目に見えない深い糸で前世から結ばれていたようにぼくには思えてしかたがなかった。シャオパイも、この女の人も、もしかしたら今ごろは、どちらも死んでいたかもしれない。それなのに、どちらも奇跡的に一命を取り留めることができたし、シャオパイが、この女の人の恩犬となったのは、目に見えない糸で前世から結ばれていたからかもしれないとぼくは思った。
女の人はシャオパイのことがとても気に入ったらしく、腕にそっと抱きかかえながら、いとおしそうに、頭をなでたり、ブラシで体の毛をすいたりしていた。シャオパイも気持ちよさそうに目をつむりながら、しっぽを軽く動かして、うっとりしたような表情をしていた。
居間の壁に写真がたくさん飾られているのが目に入った。どの写真も、この女の人が、子どもたちといっしょに写っている集合写真ばかりだった。それを見て、ぼくはこの人は学校の先生かもしれないと思った。写真の中には白人や黒人の子どもの姿も写っていたので、もしかしたら、この女の人は外国人の子どもに、この国の言葉を教えている人かもしれないと思った。この国は今、経済の発展が著しいので、この国の言葉を子どもに学ばせたいと思っている外国人がたくさんいることを、ぼくは知っていたからだ。居間の本箱の上には、粘土で作った動物や木で作った人形や、いろいろな形をした貝殻が置かれているのも目に入った。どれも高価なものではなくて、子どもを遊ばせるための安っぽいおもちゃのように思えた。それを見て、この女の人は語学教師ではなくて保育士かもしれないと思ったりもした。どのような仕事をしている人なのか、ぼくはよく分からなかったが、子どもが好きで、いい人に違いないと思ったから、シャオパイがこのうちで飼われることを願いながら、ぼくはシャオパイを居間に残したまま居間からそっと出て、家の外に出た。玄関の横で老いらくさんが、ぼくを待っていてくれたので、ぼくは女の人のことを老いらくさんに話しながら翠湖公園に帰っていった。
「あの女の人は、ぼくたちが想像もつかないような美しい謎を秘めています。不思議な雰囲気があふれていて、普通の人とは全然違っていて、どこか遠いところから、やってきた人のように感じます」
ぼくがそう言うと、老いらくさんが興味深そうな顔をしていた。
「おまえの話を聞いて、わしは、その女の人のことをもっと知りたいと思うようになった。どんな謎を秘めているのか知らないが、わしは、その女の人の謎を解き明かしたいと思っている」
老いらくさんがそう言った。
「ぼくもそう思います。シャオパイを通して、あの女の人の隠された秘密を知ることができたらいいなと思っています」
ぼくはそう答えた。
ぼくと老いらくさんは翠湖公園へ帰ってくると、眼鏡橋の上で別れてから、それぞれのうちへ帰っていった。ぼくはうちへ着くと、今日のできごとを妻猫に話して聞かせた。すると妻猫が興味深そうな顔をしながら耳を傾けていた。ぼくが話を終えたあと妻猫が
「シャオパイが、その女の人のうちで、これから楽しく暮らしていけることを、わたしは
心から願っています」
と、明るい顔で答えてくれた。
「ぼくもそう願っている。あの女の人は、シャオパイにとって運命の人だと思っている」
ぼくは妻猫にそう答えた。
昨夜の九時過ぎに、ぼくはうちを出て、梅園に向かった。梅園の出入り口のところでしばらく待っていると、フェイナがカートを押しながらやってきた。ぼくはフェイナを案内して、ロウバイの花がついている木の枝を入れた袋を置いているところまで連れて行った。するとそこには、もうすでにシャオパイと老いらくさんが来ていて、ぼくたちの到着を待っていた。ぼくたちはカートに木の枝を入れた袋を載せてから、梅園を出て、翠湖公園の眼鏡橋を渡って、町の中に出ていった。町の中はしんとしていて、人や車の姿はほとんどなかった。シャオパイが道案内をしてくれたし、老いらくさんは信号の色を教えてくれた。ぼくはフェイナと力を合わせて懸命にカートを押しながら、女の人の家に向かっていた。
今日の明け方近く、ぼくたちは、女の人の家の前に着いた。木の枝をカートから降ろしてから、鍵がかかっていない玄関のドアを開けて、木の枝を家の中に入れた。フェイナはそのあとカートを押して桜木横丁に帰っていった。
家の中には人の気配はなかったので、女の人はまだ病院から帰ってきていないことが分かった。夜が明けるとすぐに、ぼくとシャオパイは生け花を始めた。家の中には部屋ごとに花瓶が置かれていたので、花瓶の中に木の枝を挿してからすべての部屋の中にロウバイの花を飾った。するとそれからまもなく部屋の中全体に、ロウバイのかぐわしいかおりがひろがっていった。
「帰ってきた時、さぞかし、びっくりするだろうなあ」
シャオパイがそう言った。それを聞いてぼくはうなずいた。
シャオパイは、そのあと、ぼくと老いらくさんを、裏庭に連れていってから
「女の人は、ここに倒れていた」
と言った。
「そうか、雪が積もっていたから、滑って転んで頭を打ったのだろうか」
ぼくは想像でそう言った。
「理由はよく分からないけど、ぼくが発見した時、意識がなかったので、ぼくはびっくりした」
シャオパイがそう言った。
「そうか。おまえの気持ちが、よく分かるよ」
ぼくはそう答えた。
それからまもなく、家の玄関のほうで、物音がしたので、ぼくとシャオパイと老いらくさんは裏庭からそっと玄関のほうに回っていった。すると女の人が玄関の戸を開けて、中に入っていく後ろ姿が見えた。
(あっ、帰ってきたのだ)
ぼくはそう思った。
「元気になって、よかったね」
シャオパイがそう言った。ぼくは、にっこりとうなずいた。
「たぶん、今ごろはびっくりしているだろうと思うよ」
ぼくはシャオパイにそう言った。
「そうだろうなあ。家の中にロウバイの花のかおりが、ぷんぷんと漂っていたら、びっくりして、また卒倒しているかもしれない。ぼくは、心配だから、中に入って、ちょっと様子を見てくる」
シャオパイがそう言った。
「ぼくも心配だから、いっしょについていく」
ぼくはシャオパイにそう言った。
「わしもいく」
老いらくさんがそう言った。それを聞いて、ぼくは首を横に振った。
「老いらくさんは外で待っていてください。ネズミが家の中にいるのが分かったら、びっくりして追い立てられるかもしれないですから」
ぼくは老いらくさんにそう言った。
「分かったよ。そうするよ」
老いらくさんが渋々そう答えてくれた。
それからまもなく、ぼくとシャオパイは玄関のドアを開けて、家の中に入っていった。すると女の人が居間にいて、目をつむって、うっとりしたような顔をしながら、ロウバイの花のにおいをかいでいる姿が、ぼくの目に入った。ぼくは女の人の顔を見るのはこれが初めてだったから、どんな人だろうと思っていたが、シャオパイが言っていたとおりに不思議なオーラを感じさせる人だった。女の人は、ぼくとシャオパイの姿に気がついて、一瞬、びっくりしたような顔をしていたが
「まあ、かわいい犬と猫。おまえたちも花のにおいに惹かれて入ってきたの」
と、優しい声で、ぼくたちに話しかけていた。ぼくはそれを聞いて、にっこりと笑みを浮かべた。ぼくの笑顔に気がついて
「えっ、この猫は笑っているわ。こんな猫を初めて見たわ」
と言って、目を丸くしていた。女の人はそのあとシャオパイを見て
「このプードル犬は真っ白で、とてもきれい。こんな犬がいたら、いっしょに暮らしたいなあ」
と言っていた。女の人が言った言葉の意味を、ぼくはシャオパイに伝えた。するとシャオパイが
「そんなことを言っていたの。うれしい」
と答えていた。
シャオパイがこの女の人を助けたことは、女の人はむろん知るよしもないが、女の人がシャオパイのことをとても気に入ってくれたので、ぼくはとてもうれしく思っていた。シャオパイとこの女の人は、やはり、何か目に見えない深い糸で前世から結ばれていたようにぼくには思えてしかたがなかった。シャオパイも、この女の人も、もしかしたら今ごろは、どちらも死んでいたかもしれない。それなのに、どちらも奇跡的に一命を取り留めることができたし、シャオパイが、この女の人の恩犬となったのは、目に見えない糸で前世から結ばれていたからかもしれないとぼくは思った。
女の人はシャオパイのことがとても気に入ったらしく、腕にそっと抱きかかえながら、いとおしそうに、頭をなでたり、ブラシで体の毛をすいたりしていた。シャオパイも気持ちよさそうに目をつむりながら、しっぽを軽く動かして、うっとりしたような表情をしていた。
居間の壁に写真がたくさん飾られているのが目に入った。どの写真も、この女の人が、子どもたちといっしょに写っている集合写真ばかりだった。それを見て、ぼくはこの人は学校の先生かもしれないと思った。写真の中には白人や黒人の子どもの姿も写っていたので、もしかしたら、この女の人は外国人の子どもに、この国の言葉を教えている人かもしれないと思った。この国は今、経済の発展が著しいので、この国の言葉を子どもに学ばせたいと思っている外国人がたくさんいることを、ぼくは知っていたからだ。居間の本箱の上には、粘土で作った動物や木で作った人形や、いろいろな形をした貝殻が置かれているのも目に入った。どれも高価なものではなくて、子どもを遊ばせるための安っぽいおもちゃのように思えた。それを見て、この女の人は語学教師ではなくて保育士かもしれないと思ったりもした。どのような仕事をしている人なのか、ぼくはよく分からなかったが、子どもが好きで、いい人に違いないと思ったから、シャオパイがこのうちで飼われることを願いながら、ぼくはシャオパイを居間に残したまま居間からそっと出て、家の外に出た。玄関の横で老いらくさんが、ぼくを待っていてくれたので、ぼくは女の人のことを老いらくさんに話しながら翠湖公園に帰っていった。
「あの女の人は、ぼくたちが想像もつかないような美しい謎を秘めています。不思議な雰囲気があふれていて、普通の人とは全然違っていて、どこか遠いところから、やってきた人のように感じます」
ぼくがそう言うと、老いらくさんが興味深そうな顔をしていた。
「おまえの話を聞いて、わしは、その女の人のことをもっと知りたいと思うようになった。どんな謎を秘めているのか知らないが、わしは、その女の人の謎を解き明かしたいと思っている」
老いらくさんがそう言った。
「ぼくもそう思います。シャオパイを通して、あの女の人の隠された秘密を知ることができたらいいなと思っています」
ぼくはそう答えた。
ぼくと老いらくさんは翠湖公園へ帰ってくると、眼鏡橋の上で別れてから、それぞれのうちへ帰っていった。ぼくはうちへ着くと、今日のできごとを妻猫に話して聞かせた。すると妻猫が興味深そうな顔をしながら耳を傾けていた。ぼくが話を終えたあと妻猫が
「シャオパイが、その女の人のうちで、これから楽しく暮らしていけることを、わたしは
心から願っています」
と、明るい顔で答えてくれた。
「ぼくもそう願っている。あの女の人は、シャオパイにとって運命の人だと思っている」
ぼくは妻猫にそう答えた。

