天気……今日は二十四節気のなかの『冬至』。ぼくたちが住んでいる地球の北半球では昼の時間が一番短くて、夜の時間が一番長くなる日だ。今朝、目が覚めて外を見たら、辺り一面、銀世界に覆われていた。昨夜、雪が降って積もったらしい。今年初めて見る雪に、ぼくはびっくりして驚喜していた。
「お母さん、雪が降っているよ」
ぼくは、うちの奥でまだ寝ていた妻猫に呼びかけた。すると妻猫がすぐに起きてきて、入口まで出てきた。
「本当だ。きれいですね」
妻猫はそう言って、雪がもたらした幻想的な風情に、しばらく、じっと魅入っていた。
ぼくはそのあと散歩に出て、雪で滑らないように気をつけながら、いつもよりもゆっくりした足取りで公園の中を歩いていた。すると向こうから老いらくさんがやってくるのが見えた。
「笑い猫、おはよう。きれいな雪景色だな」
老いらくさんがそう言った。
「そうですね。老いらくさんも散歩にきたのですか」
ぼくは老いらくさんに聞いた。すると老いらくさんが首を横に振った。
「梅園の中でロウバイの開花が始まったので、見にこないかと思って誘いに来たのだ」
老いらくさんがそう言った。
「そうでしたか。いいですよ。これからいっしょに行きましょう」
ぼくはそう答えた。それからまもなく、ぼくは、老いらくさんといっしょに、いそいそした気持ちで梅園に出かけていった。
梅園の前に着くと、梅園の中から、ロウバイの花のかぐわしいにおいが漂ってきた。ロウバイの黄色い花が、あちこちで咲き始めていた。ぼくと老いらくさんは、梅園の中に入ると、あずま屋のほうに行った。ここ数日、シャオパイは朝のジョギングに来なかったので、どうしているのだろうと思って、少し気がかりだったからだ。あずま屋の近くまで来ると、いすの上に座って、遠くをじっと見ているシャオパイの後ろ姿が目に入った。
「シャオパイ、おはよう。元気か」
ぼくはシャオパイに声をかけた。するとシャオパイがぼくに気がついて後ろを振り返った。シャオパイはそのあと、ぼくと老いらくさんのほうに向かってかけてきた。
「シャオパイ、どうしたのだ、ここ数日、ジョギングに来なかったけど……。風邪でも引いたのか?」
ぼくは心配してシャオパイにそう聞いた。するとシャオパイが首を横に振った。
「元気だよ。風邪は引いていない」
シャオパイがそう答えた。
「だったら、どうしてジョギングにこなかったのだ?」
ぼくはシャオパイに聞いた。
「行こうと思ったけど、ここ数日、寒さが厳しくて、体を動かすのが、おっくうだったから、ここでじっとしていた」
シャオパイが、バツが悪そうな顔をしながら、そう言った。
「そうだったのか。ぼくはてっきり、おまえが風邪でも引いたのかと思っていた」
ぼくはそう答えた。
「心配かけて、ごめんなさい」
シャオパイがぼくに謝っていた。
「元気でよかったよ」
ぼくは、ほっとした顔をしながら、シャオパイにそう答えた。
「ぼくのことが心配で、安否を気遣ってここへきたの」
シャオパイが聞いた。
「それだけではない。ロウバイの花が咲き始めたと聞いたので、花のにおいをかぎにきたのだ」
ぼくはそう答えた。
「そうだったの。笑い猫らしいね」
シャオパイがそう言った。ぼくはそのあとシャオパイに
「これから、この梅園は人出が多くなるから、おまえはここから早く出たほうがいい」
と忠言した。するとシャオパイがけげんそうな顔をしながら
「どうして?」
と聞き返した。
「人が多くなったら、ゆっくり休めるところではなくなるからだ」
ぼくはそう答えた。
「分かるよ。でも、ぼくは今、ここを離れるわけにはいかない」
シャオパイがそう言った。
「どうしてなのか?」
ぼくはシャオパイに聞き返した。
「ここ数日、ある女の人が毎朝、この梅園にやってきて、まだ咲いていないロウバイの花のつぼみを、いとおしそうにじっと見ながら、つぼみに何かを話しかけていた。そんなことをする人をぼくはこれまで一度も見たことがなかったので、その人のことが気になって仕方がないの。いつもあちらの方からやってくるので、目を凝らしてじっと見ていた。すると反対方向から笑い猫がやってきて声をかけられたので、びっくりした」
シャオパイがそう答えた。
「おまえは、その人のことが気になって、ここを離れたくないのか」
ぼくはシャオパイに聞いた。シャオパイがうなずいた。
「謎めいたことをする、その女の人は一体どんな人なのだろうと思って、初めて見た時から、ぼくの興味がずっと引きつけられたまま離れることがありません」
シャオパイがそう答えた。
「おまえは、その女の人に飼ってもらいたいと思っているのか」
ぼくはシャオパイに聞いた。
「そういうわけではないですが、不思議な人だなあと思って遠くから見ている」
シャオパイがそう答えた。
「そうか、どんな人だろうなあ。ぼくも見てみたいな」
ぼくはそう答えた。するとシャオパイが
「ぼくは、おととい、その女の人のあとから、こっそりついていった。その女の人は郊外にあるきれいな別荘に住んでいた」
と言った。ぼくは、それを聞いてびっくりした。
「おまえはまるで探偵みたいだな」
ぼくはシャオパイにそう言った。するとシャオパイが
「だって気になって仕方がなかったから」
と答えた。
「その別荘の中には、ほかに誰か住んでいたのか」
ぼくはシャオパイに聞いた。するとシャオパイが首を横に振った。
「別荘の中から話し声は全然しなかったから、たぶん、一人で住んでいるのではないかと、ぼくは思った」
シャオパイが想像を巡らしていた。
「ペットの声は聞こえたか」
ぼくはシャオパイに聞いた。
「聞こえなかった」
シャオパイがそう答えた。
「そうか、一人で住んでいて、ペットもいないのだったら、寂しく感じることもあるだろうから、おまえが飼ってもらえる可能性がないとも言えない」
ぼくはシャオパイにそう言った。それを聞いて、シャオパイがうなずいていた。
「それにしても、今朝はどうしてこないのかなあ。おとといも、きのうも、今の時間には姿が見えたのに」
シャオパイが、けげんそうな顔をしていた。
「風邪でも引いたのではないかな」
ぼくはそう答えた。シャオパイはそれでもまだ釈然としないような顔をしていた。
「ぼくはここで、もうしばらく、待ってみることにする」
シャオパイがそう言った。ぼくはそれを聞いて、首を横に振った。
「ロウバイの花が咲き始めたので、見にくる人が、これからたくさんいるはずだ。おまえは愛くるしい姿をしているから、人の目に留まりやすい。いい人の目に留まればよいが、そうでない人の目に留まって、どこか遠いところに連れていかれたら大変だ。ぼくはそのことをとても心配している」
ぼくはシャオパイにそう言った。するとシャオパイが
「ぼくのことを心配してくれることはうれしいよ。でも花を見にくる人の中に、悪い人はいないと思うから、笑い猫の心配は杞憂に過ぎないと思う」
と答えた。ぼくはそれを聞いて
「もし悪い人がいて、おまえに近寄ってきたら、かみついてやる」
ぼくはシャオパイにそう言った。
「ありがとう」
シャオパイがそう答えた。
太陽が高く昇っていくにつれて、花を見にくる人たちの姿が、ちらほらと見られるようになってきた。ぼくはシャオパイに
「おまえがオーラを感じている人はどんな人なのか」
と聞いた。
「年は三十歳前後。髪は長くて背中まで垂らしている。緑色のオーバーコートを着ていて、赤いマフラーを首に巻いている」
シャオパイがそう答えた。
「分かった。その人がやってくるまで、ぼくも、おまえといっしょに、ここにいることにする」
ぼくはシャオパイにそう答えた。ぼくといっしょにやってきた老いらくさんも、シャオパイの心をとりこにした女の人に興味を引かれていたので
「その人がくるまで、わしもシャオパイのそばに残る」
と言ってくれた。
お昼を過ぎても、シャオパイが心待ちにしていた女の人はやってこなかった。
「どうしたのだろう」
「今日はもうこないかもしれない」
「そうだな、わしもそう思う」
ぼくたちは案じていた。
その時、どこからか、焼肉のにおいが、ぷうんと漂ってきた。公園の中のどこかで、焼肉を食べるパーティーが開かれているようだった。
老いらくさんが、においをかぎながら
「この肉は何の肉のにおいだか分かるか?」
と聞いた。ぼくは鼻をくんくんいわせながら、においをかいでみた。これまで、ぼくが一度も食べたことがない肉のにおいだったので、分からなくて、ぼくは小首をかしげていた。すると老いらくさんが
「これは犬の肉のにおいだ」
と言った。ぼくは、それを聞いて、びっくりしていた。シャオパイは、ぼく以上に、びっくりしていた。
「えっ、人間は、ぼくたち犬の肉を食べるの!?」
シャオパイは驚きのあまり、卒倒しそうな顔をしていた。老いらくさんがうなずいた。
「この国では犬の肉を食べる習慣があって、『冬至』の日には、特によく食べられている。犬の肉を食べると、この冬、風邪を引かないで元気に過ごせると言われているからだ」
老いらくさんがそう説明した。老いらくさんは知識や経験が豊富だし、間違ったことは言わないから、ぼくもシャオパイも、老いらくさんが言っていることは本当のことだろうと思って、ただ茫然と聞いているよりほかはなかった。
「今日は『冬至』だから、犬にとっては受難の日ですね」
ぼくはシャオパイの顔をちらっと見ながら、老いらくさんに、そう言った。するとシャオパイが
「『冬至』って何ですか?」
とぼくに聞いた。
「ぼくたちが住んでいる地球の北半球では昼がもっとも短くて、夜がもっとも長くなる日だ」
ぼくはシャオパイに、そう説明した。ぼくはそのあと地面に、大小二つの円を描いてから
「これが太陽で、これが地球。太陽が地球のまわりを回っているのではなくて、地球が太陽のまわりを回っている。冬は太陽が地球の南側にあるから、地球の北側では昼の時間が短くなる。昼の時間が一番短い日が『冬至』だ」
と説明を加えた。ぼくの説明を聞いて、シャオパイが、うなずいてから
「分かりやすく教えてくれてありがとう」
と言った。
話をしたり、あまり、かぎたくもないにおいをかいでいるうちに、日がだんだん傾いてきているのが分かった。
「結局、あの人は今日は、こなかったね。ロウバイの花が咲く前は毎日来て、つぼみに向かって何か話しかけていたから、誰よりも開花を待ち望んでいたはずなのに」
シャオパイが残念そうに、ぽつりとつぶやいた。
「明日はきっとくるよ」
ぼくはそう言って、沈んでいるシャオパイの心を慰めてやった。
「ぼくは明日まで待てない。これから、あの人のうちに行って、様子をうかがってくることにするよ」
シャオパイがそう言った。
「そうか。おまえがそうしたいのなら、そうすればよい。ぼくはおなかが減っているから、これから、うちへ帰ってご飯を食べることにするよ」
ぼくはシャオパイにそう言った。
「わしも、おなかが減っているから、うちへ帰る」
老いらくさんがそう言った。
「分かったわ。今日は一日中、ぼくに付き添ってくれてありがとう」
シャオパイがぼくと老いらくさんにお礼を言っていた。それからまもなく、ぼくと老いらくさんは、シャオパイと別れて、うちへ帰っていった。
「お母さん、雪が降っているよ」
ぼくは、うちの奥でまだ寝ていた妻猫に呼びかけた。すると妻猫がすぐに起きてきて、入口まで出てきた。
「本当だ。きれいですね」
妻猫はそう言って、雪がもたらした幻想的な風情に、しばらく、じっと魅入っていた。
ぼくはそのあと散歩に出て、雪で滑らないように気をつけながら、いつもよりもゆっくりした足取りで公園の中を歩いていた。すると向こうから老いらくさんがやってくるのが見えた。
「笑い猫、おはよう。きれいな雪景色だな」
老いらくさんがそう言った。
「そうですね。老いらくさんも散歩にきたのですか」
ぼくは老いらくさんに聞いた。すると老いらくさんが首を横に振った。
「梅園の中でロウバイの開花が始まったので、見にこないかと思って誘いに来たのだ」
老いらくさんがそう言った。
「そうでしたか。いいですよ。これからいっしょに行きましょう」
ぼくはそう答えた。それからまもなく、ぼくは、老いらくさんといっしょに、いそいそした気持ちで梅園に出かけていった。
梅園の前に着くと、梅園の中から、ロウバイの花のかぐわしいにおいが漂ってきた。ロウバイの黄色い花が、あちこちで咲き始めていた。ぼくと老いらくさんは、梅園の中に入ると、あずま屋のほうに行った。ここ数日、シャオパイは朝のジョギングに来なかったので、どうしているのだろうと思って、少し気がかりだったからだ。あずま屋の近くまで来ると、いすの上に座って、遠くをじっと見ているシャオパイの後ろ姿が目に入った。
「シャオパイ、おはよう。元気か」
ぼくはシャオパイに声をかけた。するとシャオパイがぼくに気がついて後ろを振り返った。シャオパイはそのあと、ぼくと老いらくさんのほうに向かってかけてきた。
「シャオパイ、どうしたのだ、ここ数日、ジョギングに来なかったけど……。風邪でも引いたのか?」
ぼくは心配してシャオパイにそう聞いた。するとシャオパイが首を横に振った。
「元気だよ。風邪は引いていない」
シャオパイがそう答えた。
「だったら、どうしてジョギングにこなかったのだ?」
ぼくはシャオパイに聞いた。
「行こうと思ったけど、ここ数日、寒さが厳しくて、体を動かすのが、おっくうだったから、ここでじっとしていた」
シャオパイが、バツが悪そうな顔をしながら、そう言った。
「そうだったのか。ぼくはてっきり、おまえが風邪でも引いたのかと思っていた」
ぼくはそう答えた。
「心配かけて、ごめんなさい」
シャオパイがぼくに謝っていた。
「元気でよかったよ」
ぼくは、ほっとした顔をしながら、シャオパイにそう答えた。
「ぼくのことが心配で、安否を気遣ってここへきたの」
シャオパイが聞いた。
「それだけではない。ロウバイの花が咲き始めたと聞いたので、花のにおいをかぎにきたのだ」
ぼくはそう答えた。
「そうだったの。笑い猫らしいね」
シャオパイがそう言った。ぼくはそのあとシャオパイに
「これから、この梅園は人出が多くなるから、おまえはここから早く出たほうがいい」
と忠言した。するとシャオパイがけげんそうな顔をしながら
「どうして?」
と聞き返した。
「人が多くなったら、ゆっくり休めるところではなくなるからだ」
ぼくはそう答えた。
「分かるよ。でも、ぼくは今、ここを離れるわけにはいかない」
シャオパイがそう言った。
「どうしてなのか?」
ぼくはシャオパイに聞き返した。
「ここ数日、ある女の人が毎朝、この梅園にやってきて、まだ咲いていないロウバイの花のつぼみを、いとおしそうにじっと見ながら、つぼみに何かを話しかけていた。そんなことをする人をぼくはこれまで一度も見たことがなかったので、その人のことが気になって仕方がないの。いつもあちらの方からやってくるので、目を凝らしてじっと見ていた。すると反対方向から笑い猫がやってきて声をかけられたので、びっくりした」
シャオパイがそう答えた。
「おまえは、その人のことが気になって、ここを離れたくないのか」
ぼくはシャオパイに聞いた。シャオパイがうなずいた。
「謎めいたことをする、その女の人は一体どんな人なのだろうと思って、初めて見た時から、ぼくの興味がずっと引きつけられたまま離れることがありません」
シャオパイがそう答えた。
「おまえは、その女の人に飼ってもらいたいと思っているのか」
ぼくはシャオパイに聞いた。
「そういうわけではないですが、不思議な人だなあと思って遠くから見ている」
シャオパイがそう答えた。
「そうか、どんな人だろうなあ。ぼくも見てみたいな」
ぼくはそう答えた。するとシャオパイが
「ぼくは、おととい、その女の人のあとから、こっそりついていった。その女の人は郊外にあるきれいな別荘に住んでいた」
と言った。ぼくは、それを聞いてびっくりした。
「おまえはまるで探偵みたいだな」
ぼくはシャオパイにそう言った。するとシャオパイが
「だって気になって仕方がなかったから」
と答えた。
「その別荘の中には、ほかに誰か住んでいたのか」
ぼくはシャオパイに聞いた。するとシャオパイが首を横に振った。
「別荘の中から話し声は全然しなかったから、たぶん、一人で住んでいるのではないかと、ぼくは思った」
シャオパイが想像を巡らしていた。
「ペットの声は聞こえたか」
ぼくはシャオパイに聞いた。
「聞こえなかった」
シャオパイがそう答えた。
「そうか、一人で住んでいて、ペットもいないのだったら、寂しく感じることもあるだろうから、おまえが飼ってもらえる可能性がないとも言えない」
ぼくはシャオパイにそう言った。それを聞いて、シャオパイがうなずいていた。
「それにしても、今朝はどうしてこないのかなあ。おとといも、きのうも、今の時間には姿が見えたのに」
シャオパイが、けげんそうな顔をしていた。
「風邪でも引いたのではないかな」
ぼくはそう答えた。シャオパイはそれでもまだ釈然としないような顔をしていた。
「ぼくはここで、もうしばらく、待ってみることにする」
シャオパイがそう言った。ぼくはそれを聞いて、首を横に振った。
「ロウバイの花が咲き始めたので、見にくる人が、これからたくさんいるはずだ。おまえは愛くるしい姿をしているから、人の目に留まりやすい。いい人の目に留まればよいが、そうでない人の目に留まって、どこか遠いところに連れていかれたら大変だ。ぼくはそのことをとても心配している」
ぼくはシャオパイにそう言った。するとシャオパイが
「ぼくのことを心配してくれることはうれしいよ。でも花を見にくる人の中に、悪い人はいないと思うから、笑い猫の心配は杞憂に過ぎないと思う」
と答えた。ぼくはそれを聞いて
「もし悪い人がいて、おまえに近寄ってきたら、かみついてやる」
ぼくはシャオパイにそう言った。
「ありがとう」
シャオパイがそう答えた。
太陽が高く昇っていくにつれて、花を見にくる人たちの姿が、ちらほらと見られるようになってきた。ぼくはシャオパイに
「おまえがオーラを感じている人はどんな人なのか」
と聞いた。
「年は三十歳前後。髪は長くて背中まで垂らしている。緑色のオーバーコートを着ていて、赤いマフラーを首に巻いている」
シャオパイがそう答えた。
「分かった。その人がやってくるまで、ぼくも、おまえといっしょに、ここにいることにする」
ぼくはシャオパイにそう答えた。ぼくといっしょにやってきた老いらくさんも、シャオパイの心をとりこにした女の人に興味を引かれていたので
「その人がくるまで、わしもシャオパイのそばに残る」
と言ってくれた。
お昼を過ぎても、シャオパイが心待ちにしていた女の人はやってこなかった。
「どうしたのだろう」
「今日はもうこないかもしれない」
「そうだな、わしもそう思う」
ぼくたちは案じていた。
その時、どこからか、焼肉のにおいが、ぷうんと漂ってきた。公園の中のどこかで、焼肉を食べるパーティーが開かれているようだった。
老いらくさんが、においをかぎながら
「この肉は何の肉のにおいだか分かるか?」
と聞いた。ぼくは鼻をくんくんいわせながら、においをかいでみた。これまで、ぼくが一度も食べたことがない肉のにおいだったので、分からなくて、ぼくは小首をかしげていた。すると老いらくさんが
「これは犬の肉のにおいだ」
と言った。ぼくは、それを聞いて、びっくりしていた。シャオパイは、ぼく以上に、びっくりしていた。
「えっ、人間は、ぼくたち犬の肉を食べるの!?」
シャオパイは驚きのあまり、卒倒しそうな顔をしていた。老いらくさんがうなずいた。
「この国では犬の肉を食べる習慣があって、『冬至』の日には、特によく食べられている。犬の肉を食べると、この冬、風邪を引かないで元気に過ごせると言われているからだ」
老いらくさんがそう説明した。老いらくさんは知識や経験が豊富だし、間違ったことは言わないから、ぼくもシャオパイも、老いらくさんが言っていることは本当のことだろうと思って、ただ茫然と聞いているよりほかはなかった。
「今日は『冬至』だから、犬にとっては受難の日ですね」
ぼくはシャオパイの顔をちらっと見ながら、老いらくさんに、そう言った。するとシャオパイが
「『冬至』って何ですか?」
とぼくに聞いた。
「ぼくたちが住んでいる地球の北半球では昼がもっとも短くて、夜がもっとも長くなる日だ」
ぼくはシャオパイに、そう説明した。ぼくはそのあと地面に、大小二つの円を描いてから
「これが太陽で、これが地球。太陽が地球のまわりを回っているのではなくて、地球が太陽のまわりを回っている。冬は太陽が地球の南側にあるから、地球の北側では昼の時間が短くなる。昼の時間が一番短い日が『冬至』だ」
と説明を加えた。ぼくの説明を聞いて、シャオパイが、うなずいてから
「分かりやすく教えてくれてありがとう」
と言った。
話をしたり、あまり、かぎたくもないにおいをかいでいるうちに、日がだんだん傾いてきているのが分かった。
「結局、あの人は今日は、こなかったね。ロウバイの花が咲く前は毎日来て、つぼみに向かって何か話しかけていたから、誰よりも開花を待ち望んでいたはずなのに」
シャオパイが残念そうに、ぽつりとつぶやいた。
「明日はきっとくるよ」
ぼくはそう言って、沈んでいるシャオパイの心を慰めてやった。
「ぼくは明日まで待てない。これから、あの人のうちに行って、様子をうかがってくることにするよ」
シャオパイがそう言った。
「そうか。おまえがそうしたいのなら、そうすればよい。ぼくはおなかが減っているから、これから、うちへ帰ってご飯を食べることにするよ」
ぼくはシャオパイにそう言った。
「わしも、おなかが減っているから、うちへ帰る」
老いらくさんがそう言った。
「分かったわ。今日は一日中、ぼくに付き添ってくれてありがとう」
シャオパイがぼくと老いらくさんにお礼を言っていた。それからまもなく、ぼくと老いらくさんは、シャオパイと別れて、うちへ帰っていった。

