天気……今朝も霧がかかっていた。昨日ほどは濃くはなかったから、朝の十時ごろには霧はすっかり晴れて、白いレースのカーテンをさっと開けたように、目の前の景色がはっきりと見えるようになった。
昨日の午後、ぼくは老いらくさんと別れたあと、うちへ帰って、妻猫にラブリーがいなくなったことを話した。すると妻猫もとても心配していた。
「今度もまた、この翠湖公園のどこかに連れてこられて捨てていかれたのでしょうか」
妻猫が顔の表情を曇らせながら聞いた。ぼくは首を横に振った。
「今度は、どこか別のところに捨ててきたのではないかと思っている」
ぼくは妻猫にそう答えた。
「だったら、わたしたちには、探すのは無理ですよね」
妻猫がため息をついていた。
「まだ、あきらめるのは早いよ」
ぼくは妻猫にそう答えた。
「何か、よい方法があるのですか」
妻猫が聞いた。
「ないこともない」
ぼくは、あいまいに、そう答えた。
「お父さんには知恵があるから、きっと何かよい方法を見いだして探すことができると信じています」
妻猫がそう言ってくれたので、ぼくはうれしくなった。
ぼくはそのあと、ほぼ二時間置きぐらいに、うちを出て、翠湖公園の出入り口付近にある眼鏡橋のところまでいって、老いらくさんが来ていないかどうか確かめていた。結局、昨日は夜中になっても老いらくさんは眼鏡橋の上に現れなかった。
ひと眠りして、夜が明けてから、ぼくは再び眼鏡橋のところにいった。すると老いらくさんがそこにいた。
「やあ、笑い猫、おはよう」
ぼくの姿を見ると、老いらくさんが眠そうな目をこすりながら、ぼくにあいさつをしてくれた。
「おはようございます。今朝も霧がかかっていますね」
ぼくは老いらくさんにそう答えた。
「そうだな。今朝も霧がかかっている。しかし、今朝の霧は昨日ほど濃くないから道に迷うことはなかった」
老いらくさんがそう答えた。
「何か有力な手がかりが得られましたか」
ぼくはさっそく老いらくさんに聞いた。
「うん、得られた。ラブリーがいるところが分かった」
老いらくさんが明るい顔をしながら、そう答えた。ぼくはそれを聞いて、思わず、ほっとした顔をしながら
「よかった。どこにいましたか」
と聞き返した。
「桜木横丁から二キロほど西にある郊野の中に柿の木が一本、ぽつんと立っていて、その柿の木の下に縄で縛られていた」
老いらくさんがそう答えた。
「そうでしたか。よく見つけてくれましたね」
ぼくはそう言って老いらくさんに感謝した。
「発見に至ったいきさつについて、教えていただけませんか」
ぼくは老いらくさんに聞いた。すると老いらくさんは、うなずいてから話し始めた。
「昨日の午後、わしはおまえと別れたあと、この町をあちこち歩きまわって、子孫のリーダーと会って、子孫を探索に行かせた。すると夕方ごろ、この町の西部に住んでいる子孫のリーダーから、耳寄りな情報がもたらされた。郊野の中に老犬が横たわっていて動けないでいるという情報だった。わしはそれを聞いて、発見した子孫に案内されながら、すぐに確かめに行った。すると郊野の中に柿の木が一本立っていて、その柿の木の下に年老いたマルチーズ犬が横たわっていた。木に縄で縛られていたから動くことはできないでいた。わしには犬の言葉は話せないから、このマルチーズ犬がラブリーかどうかを聞くことはできなかったが、ラブリーに間違いないだろうと、わしは思った。このマルチーズ犬は足が弱っていて立ち上がれないばかりでなくて、息も絶え絶えだった。夜は寒くなるから体が冷えないようにしなければと思って、ぼくは柿の落ち葉をたくさん集めてきて体にかけてあげた。おなかも空いているだろうと思って、柿の木に登っていって、枝にまだいくつか残っていた柿の実を下に落としてから食べさせた。こうして夜遅くまで働いて一仕事終えてから、わしは翠湖公園に帰ってきた」
老いらくさんがそう言った。
「そうでしたか。それは大変でしたね」
ぼくはそう言って、老いらくさんの苦労をねぎらってあげた。
「老いらくさんの苦労を無駄にしないためにも、ぼくは、これからすぐにラブリーを助けに行きたいと思っています。このまま、あそこで衰弱させるわけにはいきませんから」
ぼくは老いらくさんにそう言った。
「そうか。わしも、いっしょに行きたいのはやまやまだが、疲れていて、今は行くだけの元気がないから、しばらく休ませてくれないか。あとでわしが場所を案内するから」
老いらくさんがそう言った。
「分かりました。では今日の午後、いっしょに行きましょう。それまで、うちでゆっくり休んで疲れを取ってください」
ぼくは老いらくさんにそう言った。
「分かった。そうするよ」
老いらくさんは、そう答えてから、うちへ帰っていった。
それからまもなく、シャオパイが公園にやってきたので、ぼくはシャオパイに
「ジョギングにやってきたのか」
と聞いた。するとシャオパイが首を横に振った。
「ラブリーのことが気になって、今は走る気分にはなれない。ラブリーのことを聞きにきたの」
シャオパイがそう言った。
「ラブリーのいるところが分かったぞ」
ぼくがそう言うと、シャオパイがびっくりしたような顔をしながら
「えっ、本当?」
と言って、聞き返してきた。ぼくはうなずいた。ぼくはそのあとシャオパイに
「ラブリーは今、桜木横丁から二キロほど西に行ったところにある郊野にいる」
と話した。するとそれを聞いてシャオパイが
「そうだったの。そんなところにいたの。どうやって見つけたの」
と聞いてきた。
「ぼくは情報通だから、ぼくのもとには、いろいろな情報が集まってくる」
ぼくはシャオパイにそう答えた。シャオパイは、それを聞いて分かったような、分からなかったような複雑な顔をしていた。
「ラブリーは、どうして、そんなところにいたのでしょうか」
シャオパイがそう聞いた。
「飼い主さんに捨てられたのだよ」
ぼくはそう答えた。
「……」
シャオパイは答に詰まっていた。
「シャオパイは縄で柿の木に縛られていたそうだ。体も衰弱していて歩けそうになかったそうだ」
ぼくはシャオパイにそう話した。ぼくの話を聞いて、シャオパイが
「何て不憫(ふびん)なのでしょう」
と言って悲涙を、ぽろぽろと、こぼしていた。
「ぼくは今日の午後、ラブリーを助けに行こうと思っている。おまえは、これから桜木横丁に帰って、フェイナに会ってラブリーが見つかったことを話してくれないか。フェイナもきっと喜ぶことだろうから」
ぼくはシャオパイにそう言った。
「分かった。そうするよ」
シャオパイは、そう言ってから桜木横丁に帰っていった。
お昼ごろ、フェイナが、ぼくのうちまでやってきた。
「シャオパイから聞いたわ。ラブリーが見つかったそうね」
フェイナがそう言った。ぼくはうなずいた。
「今日の午後、助けに行こうと思っている」
ぼくはそう答えた。
「笑い猫らしいわ。でもラブリーは体が衰弱していて歩けないと聞いたわ。どうやって、あの郊野から連れ出すつもり?」
フェイナがけげんそうな顔をしていた。
「……」
ぼくにはすぐには答が見いだせないでいた。
「この前、わたしたちはカートに乗せて、ラブリーを運んだから、今度も、その方法で運びませんか」
フェイナがそう言った。
「そうだね、その方法がいいかもしれない」
ぼくはそう答えた。するとフェイナが
「今夜の十時ごろ、わたしのうちの前まで来てください。近くのスーパーからカートを借りてきて待っているから、そのカートを押して助けに行きましょう」
と言った。
「分かった、そうするよ」
ぼくはそう答えた。フェイナはそれからまもなく、うちへ帰っていった。
そのあとしばらくしてから、ぼくは老いらくさんを探すために梅園に行った。すると梅園に入ってからすぐに、老いらくさんが向こうからやってくるのが見えた。ぼくは老いらくさんに駆け寄っていって、さっきフェイナが言った救出計画について話した。それを聞いて老いらくさんが
「それはいい方法だな」
と言った。
「救出したあと、どこへ連れていったらいいでしょうか。もう、もとの飼い主のところに連れて戻るわけにはいかないでしょうから」
ぼくは老いらくさんに聞いた。すると老いらくさんは、しばらく考えてから
「わしの子孫たちの話によると、桜木横丁の隣にある飴屋横丁の中に、老犬をたくさん飼っているおばあさんが住んでいるそうだ。その人のうちの前まで連れていったら、もしかしたら、ラブリーに愛の手を差し伸べてくれるかもしれない」
と言った。
「そうですか。それは朗報です。そのうちへ連れていってみましょう」
ぼくは、相好を崩しながら、そう答えた。ぼくはそれからまもなく老いらくさんと別れて、うちへ帰っていった。
その日の夜、ぼくは再び梅園に行って、入口のところで老いらくさんと落ち合ってから、いっしょに桜木横丁に向かった。十時ごろ、フェイナのうちの前に着くと、フェイナがシャオパイといっしょにいて、ぼくと老いらくさんがやってくるのを待っていた。カートもちゃんと用意してあった。
「さあ、これからラブリーを助けにいきましょう」
フェイナがそう言った。
「まだ元気でいるかなあ。ぼくはそれが心配です」
シャオパイがそう言った。
「そうだね、ぼくも心配している」
ぼくはそう答えた。
ぼくたちはそれからまもなく、カートを押しながら、桜木横丁から出ていった。カートの上にはドッグフードや、綿入りの服が載せられていた。
「この服は、わたしが着ていた古着で、飼い主さんがゴミ置き場に捨てたので、拾ってきたの。毛布の代わりに体にかけてあげようと思って」
フェイナがそう説明した。
「さすがフェイナだけあって、よく気がきくなあ」
ぼくはフェイナの心配りに感心していた。
老いらくさんが、ぼくたちを先導してくれたので、ぼくたちは夜陰に紛れるようにしながら郊野に向かっていた。
「ラブリーを助けることができたら、そのあと、どこへ連れていけばいいの」
シャオパイが聞いた。
「桜木横丁の隣にある飴屋横丁の中に、老犬をたくさん飼っているおばあさんが住んでいる家があるそうだ。その家を探して、そこへ連れていこうと思っている」
ぼくはそう答えた。するとシャオパイがけげんそうな顔をしながら
「どうして、その家のことを知ったの?」
と聞き返した。
「老いらくさんが教えてくれた」
ぼくは先導している老いらくさんを見ながら、そう答えた。それを聞いてフェイナが不安そうな顔をしながら
「飴屋横丁のことは、わたしはあまり詳しくないから、どの家にどんな飼い主さんがいて、どんな犬を飼っているのか、よく知らないわ。そのおばあさんの家を探し当てられたらいいけど……」
と言った。
「大丈夫だよ、手分けして探そうよ」
ぼくはフェイナにそう言った。
話をしながら月明りに照らされた夜道を歩いているうちに、ぼくたちは郊野にやってきた。
「あそこに立っている柿の木の下にラブリーがいるはずだ」
老いらくさんがそう言ったので、ぼくたちは柿の木の下まで急いでいった。すると柿の木の幹に縄が結ばれていて、縄の先にラブリーがいて、縄が首に巻かれているのが見えた。首から上だけを地面に出して、体には落ち葉をかけて、ぶるぶると震えていた。
「おお、何ていうことでしょう、かわいそうに……」
フェイナがそう言った。
「でもまだ生きていてよかったよ。早く、助けてあげよう」
シャオパイがそう言った。
「そうだね。早く助けよう」
ぼくはそう答えた。
それからまもなく、ぼくとシャオパイは力を合わせて、縄をかみ切ってラブリーの体を自由にしてあげた。フェイナがそのあと押してきたカートの上からドッグフードと綿入りの服を下ろして、ラブリーに与えていた。飢えと寒さで、瀕死の状態にあったラブリーはこうして、みんなの協力のおかげで奇跡的に一命を取り留めることができた。
「よかった、よかった。ぼくは今、とてもうれしいよ」
シャオパイがそう言った。
「ぼくもうれしいよ。でも喜びはまだ半分だよ。これからラブリーをカートに乗せて、
飴屋横丁まで運んで、老いらくさんが話していた人のところへ連れていって、引き受けてもらえるまでは、ぼくの喜びは完全に満たされたことにはならない」
ぼくはシャオパイにそう言った。
「そうですよね。わたしも笑い猫と同じです。早く、ここを出て、飴屋横丁に行って、そのおばあさんのうちまでラブリーを連れていきましょう」
フェイナがそう答えた。
「そうだね、そうしよう」
ぼくはそう答えてから、ラブリーをカートに乗せて、そのあとみんなで力をあわせて押していった。
昨日の午後、ぼくは老いらくさんと別れたあと、うちへ帰って、妻猫にラブリーがいなくなったことを話した。すると妻猫もとても心配していた。
「今度もまた、この翠湖公園のどこかに連れてこられて捨てていかれたのでしょうか」
妻猫が顔の表情を曇らせながら聞いた。ぼくは首を横に振った。
「今度は、どこか別のところに捨ててきたのではないかと思っている」
ぼくは妻猫にそう答えた。
「だったら、わたしたちには、探すのは無理ですよね」
妻猫がため息をついていた。
「まだ、あきらめるのは早いよ」
ぼくは妻猫にそう答えた。
「何か、よい方法があるのですか」
妻猫が聞いた。
「ないこともない」
ぼくは、あいまいに、そう答えた。
「お父さんには知恵があるから、きっと何かよい方法を見いだして探すことができると信じています」
妻猫がそう言ってくれたので、ぼくはうれしくなった。
ぼくはそのあと、ほぼ二時間置きぐらいに、うちを出て、翠湖公園の出入り口付近にある眼鏡橋のところまでいって、老いらくさんが来ていないかどうか確かめていた。結局、昨日は夜中になっても老いらくさんは眼鏡橋の上に現れなかった。
ひと眠りして、夜が明けてから、ぼくは再び眼鏡橋のところにいった。すると老いらくさんがそこにいた。
「やあ、笑い猫、おはよう」
ぼくの姿を見ると、老いらくさんが眠そうな目をこすりながら、ぼくにあいさつをしてくれた。
「おはようございます。今朝も霧がかかっていますね」
ぼくは老いらくさんにそう答えた。
「そうだな。今朝も霧がかかっている。しかし、今朝の霧は昨日ほど濃くないから道に迷うことはなかった」
老いらくさんがそう答えた。
「何か有力な手がかりが得られましたか」
ぼくはさっそく老いらくさんに聞いた。
「うん、得られた。ラブリーがいるところが分かった」
老いらくさんが明るい顔をしながら、そう答えた。ぼくはそれを聞いて、思わず、ほっとした顔をしながら
「よかった。どこにいましたか」
と聞き返した。
「桜木横丁から二キロほど西にある郊野の中に柿の木が一本、ぽつんと立っていて、その柿の木の下に縄で縛られていた」
老いらくさんがそう答えた。
「そうでしたか。よく見つけてくれましたね」
ぼくはそう言って老いらくさんに感謝した。
「発見に至ったいきさつについて、教えていただけませんか」
ぼくは老いらくさんに聞いた。すると老いらくさんは、うなずいてから話し始めた。
「昨日の午後、わしはおまえと別れたあと、この町をあちこち歩きまわって、子孫のリーダーと会って、子孫を探索に行かせた。すると夕方ごろ、この町の西部に住んでいる子孫のリーダーから、耳寄りな情報がもたらされた。郊野の中に老犬が横たわっていて動けないでいるという情報だった。わしはそれを聞いて、発見した子孫に案内されながら、すぐに確かめに行った。すると郊野の中に柿の木が一本立っていて、その柿の木の下に年老いたマルチーズ犬が横たわっていた。木に縄で縛られていたから動くことはできないでいた。わしには犬の言葉は話せないから、このマルチーズ犬がラブリーかどうかを聞くことはできなかったが、ラブリーに間違いないだろうと、わしは思った。このマルチーズ犬は足が弱っていて立ち上がれないばかりでなくて、息も絶え絶えだった。夜は寒くなるから体が冷えないようにしなければと思って、ぼくは柿の落ち葉をたくさん集めてきて体にかけてあげた。おなかも空いているだろうと思って、柿の木に登っていって、枝にまだいくつか残っていた柿の実を下に落としてから食べさせた。こうして夜遅くまで働いて一仕事終えてから、わしは翠湖公園に帰ってきた」
老いらくさんがそう言った。
「そうでしたか。それは大変でしたね」
ぼくはそう言って、老いらくさんの苦労をねぎらってあげた。
「老いらくさんの苦労を無駄にしないためにも、ぼくは、これからすぐにラブリーを助けに行きたいと思っています。このまま、あそこで衰弱させるわけにはいきませんから」
ぼくは老いらくさんにそう言った。
「そうか。わしも、いっしょに行きたいのはやまやまだが、疲れていて、今は行くだけの元気がないから、しばらく休ませてくれないか。あとでわしが場所を案内するから」
老いらくさんがそう言った。
「分かりました。では今日の午後、いっしょに行きましょう。それまで、うちでゆっくり休んで疲れを取ってください」
ぼくは老いらくさんにそう言った。
「分かった。そうするよ」
老いらくさんは、そう答えてから、うちへ帰っていった。
それからまもなく、シャオパイが公園にやってきたので、ぼくはシャオパイに
「ジョギングにやってきたのか」
と聞いた。するとシャオパイが首を横に振った。
「ラブリーのことが気になって、今は走る気分にはなれない。ラブリーのことを聞きにきたの」
シャオパイがそう言った。
「ラブリーのいるところが分かったぞ」
ぼくがそう言うと、シャオパイがびっくりしたような顔をしながら
「えっ、本当?」
と言って、聞き返してきた。ぼくはうなずいた。ぼくはそのあとシャオパイに
「ラブリーは今、桜木横丁から二キロほど西に行ったところにある郊野にいる」
と話した。するとそれを聞いてシャオパイが
「そうだったの。そんなところにいたの。どうやって見つけたの」
と聞いてきた。
「ぼくは情報通だから、ぼくのもとには、いろいろな情報が集まってくる」
ぼくはシャオパイにそう答えた。シャオパイは、それを聞いて分かったような、分からなかったような複雑な顔をしていた。
「ラブリーは、どうして、そんなところにいたのでしょうか」
シャオパイがそう聞いた。
「飼い主さんに捨てられたのだよ」
ぼくはそう答えた。
「……」
シャオパイは答に詰まっていた。
「シャオパイは縄で柿の木に縛られていたそうだ。体も衰弱していて歩けそうになかったそうだ」
ぼくはシャオパイにそう話した。ぼくの話を聞いて、シャオパイが
「何て不憫(ふびん)なのでしょう」
と言って悲涙を、ぽろぽろと、こぼしていた。
「ぼくは今日の午後、ラブリーを助けに行こうと思っている。おまえは、これから桜木横丁に帰って、フェイナに会ってラブリーが見つかったことを話してくれないか。フェイナもきっと喜ぶことだろうから」
ぼくはシャオパイにそう言った。
「分かった。そうするよ」
シャオパイは、そう言ってから桜木横丁に帰っていった。
お昼ごろ、フェイナが、ぼくのうちまでやってきた。
「シャオパイから聞いたわ。ラブリーが見つかったそうね」
フェイナがそう言った。ぼくはうなずいた。
「今日の午後、助けに行こうと思っている」
ぼくはそう答えた。
「笑い猫らしいわ。でもラブリーは体が衰弱していて歩けないと聞いたわ。どうやって、あの郊野から連れ出すつもり?」
フェイナがけげんそうな顔をしていた。
「……」
ぼくにはすぐには答が見いだせないでいた。
「この前、わたしたちはカートに乗せて、ラブリーを運んだから、今度も、その方法で運びませんか」
フェイナがそう言った。
「そうだね、その方法がいいかもしれない」
ぼくはそう答えた。するとフェイナが
「今夜の十時ごろ、わたしのうちの前まで来てください。近くのスーパーからカートを借りてきて待っているから、そのカートを押して助けに行きましょう」
と言った。
「分かった、そうするよ」
ぼくはそう答えた。フェイナはそれからまもなく、うちへ帰っていった。
そのあとしばらくしてから、ぼくは老いらくさんを探すために梅園に行った。すると梅園に入ってからすぐに、老いらくさんが向こうからやってくるのが見えた。ぼくは老いらくさんに駆け寄っていって、さっきフェイナが言った救出計画について話した。それを聞いて老いらくさんが
「それはいい方法だな」
と言った。
「救出したあと、どこへ連れていったらいいでしょうか。もう、もとの飼い主のところに連れて戻るわけにはいかないでしょうから」
ぼくは老いらくさんに聞いた。すると老いらくさんは、しばらく考えてから
「わしの子孫たちの話によると、桜木横丁の隣にある飴屋横丁の中に、老犬をたくさん飼っているおばあさんが住んでいるそうだ。その人のうちの前まで連れていったら、もしかしたら、ラブリーに愛の手を差し伸べてくれるかもしれない」
と言った。
「そうですか。それは朗報です。そのうちへ連れていってみましょう」
ぼくは、相好を崩しながら、そう答えた。ぼくはそれからまもなく老いらくさんと別れて、うちへ帰っていった。
その日の夜、ぼくは再び梅園に行って、入口のところで老いらくさんと落ち合ってから、いっしょに桜木横丁に向かった。十時ごろ、フェイナのうちの前に着くと、フェイナがシャオパイといっしょにいて、ぼくと老いらくさんがやってくるのを待っていた。カートもちゃんと用意してあった。
「さあ、これからラブリーを助けにいきましょう」
フェイナがそう言った。
「まだ元気でいるかなあ。ぼくはそれが心配です」
シャオパイがそう言った。
「そうだね、ぼくも心配している」
ぼくはそう答えた。
ぼくたちはそれからまもなく、カートを押しながら、桜木横丁から出ていった。カートの上にはドッグフードや、綿入りの服が載せられていた。
「この服は、わたしが着ていた古着で、飼い主さんがゴミ置き場に捨てたので、拾ってきたの。毛布の代わりに体にかけてあげようと思って」
フェイナがそう説明した。
「さすがフェイナだけあって、よく気がきくなあ」
ぼくはフェイナの心配りに感心していた。
老いらくさんが、ぼくたちを先導してくれたので、ぼくたちは夜陰に紛れるようにしながら郊野に向かっていた。
「ラブリーを助けることができたら、そのあと、どこへ連れていけばいいの」
シャオパイが聞いた。
「桜木横丁の隣にある飴屋横丁の中に、老犬をたくさん飼っているおばあさんが住んでいる家があるそうだ。その家を探して、そこへ連れていこうと思っている」
ぼくはそう答えた。するとシャオパイがけげんそうな顔をしながら
「どうして、その家のことを知ったの?」
と聞き返した。
「老いらくさんが教えてくれた」
ぼくは先導している老いらくさんを見ながら、そう答えた。それを聞いてフェイナが不安そうな顔をしながら
「飴屋横丁のことは、わたしはあまり詳しくないから、どの家にどんな飼い主さんがいて、どんな犬を飼っているのか、よく知らないわ。そのおばあさんの家を探し当てられたらいいけど……」
と言った。
「大丈夫だよ、手分けして探そうよ」
ぼくはフェイナにそう言った。
話をしながら月明りに照らされた夜道を歩いているうちに、ぼくたちは郊野にやってきた。
「あそこに立っている柿の木の下にラブリーがいるはずだ」
老いらくさんがそう言ったので、ぼくたちは柿の木の下まで急いでいった。すると柿の木の幹に縄が結ばれていて、縄の先にラブリーがいて、縄が首に巻かれているのが見えた。首から上だけを地面に出して、体には落ち葉をかけて、ぶるぶると震えていた。
「おお、何ていうことでしょう、かわいそうに……」
フェイナがそう言った。
「でもまだ生きていてよかったよ。早く、助けてあげよう」
シャオパイがそう言った。
「そうだね。早く助けよう」
ぼくはそう答えた。
それからまもなく、ぼくとシャオパイは力を合わせて、縄をかみ切ってラブリーの体を自由にしてあげた。フェイナがそのあと押してきたカートの上からドッグフードと綿入りの服を下ろして、ラブリーに与えていた。飢えと寒さで、瀕死の状態にあったラブリーはこうして、みんなの協力のおかげで奇跡的に一命を取り留めることができた。
「よかった、よかった。ぼくは今、とてもうれしいよ」
シャオパイがそう言った。
「ぼくもうれしいよ。でも喜びはまだ半分だよ。これからラブリーをカートに乗せて、
飴屋横丁まで運んで、老いらくさんが話していた人のところへ連れていって、引き受けてもらえるまでは、ぼくの喜びは完全に満たされたことにはならない」
ぼくはシャオパイにそう言った。
「そうですよね。わたしも笑い猫と同じです。早く、ここを出て、飴屋横丁に行って、そのおばあさんのうちまでラブリーを連れていきましょう」
フェイナがそう答えた。
「そうだね、そうしよう」
ぼくはそう答えてから、ラブリーをカートに乗せて、そのあとみんなで力をあわせて押していった。

