子ども列車

 ここは、マンションの20階にある一室。
 「パパの言うこと聞けない子はこうだ!!」
「パパ、ごめんなさい!!
鞭は辞めてください!!」
「うるさい!!
言うことを聞けないお前が悪いんだ!!
そんな悪い子には、お仕置きしなきゃな!!」
 鞭のしなる音がする度、子どもの泣き声と共に、パパ、ごめんなさい。が聞こえる。
 「はぁ…はぁ…はぁ…。
反省したか?」
「はい…。
ごめんなさい…。」
「何に、ごめんなさい。だ?」
「ママの言う事聞かなかったことです。」
「そうだな。
ママの言う事は、ちゃんと聞かなきゃな。」
「はい…。」
「おい。
終わったぞ。
ちゃんと、反省もしている。
これでいいだろう?」
「そうね。
ありがとう。
私の言う事、ホントに聞かなくて…。
まことちゃん、ママの言う事聞いてくれる?」
「はい…。
ママ…。」
「良かったわ。
流石、パパね。」
「また、何かあれば、私に言いなさい。
躾は大事だからな。」
「ええ。
そうするわ。
さぁ、まことちゃん。
傷の手当てをしましょう。」
「はい。
ママ…。」
 男の子は、母親に連れられて、傷の手当てをしてもらった。
 傷の手当ては、とても痛くて、泣き叫ぶと、また、叩かれるから、男の子はタオルを噛んで耐えた。
 そんな、まことの耳元で、母親がコソッと言った。
 「ママね、まことちゃんが、パパに殴られるのをみるのが、気持ちいいの。
パパから、まことちゃんを庇うのは、もっと気持ちいいのよ。
優しいママを周りに見てもらうと、心が満たされるの。
だから、明日も、パパに叩かれてね?」
 そう、母親は代理ミュンヒハウゼン症候群だった。
 父親は、そのことを知らない。
 父親は、大企業の社長で、ストレスを、まことにぶつけて、発散している。
 まことは、色んな理由で毎日鞭で叩かれていた。
 まことは、まだ、3歳で誰かに助けを求めることもできず、いつも耐えていた。
 次の日。
 「行ってくる。」
「はい。
おかえりのお時間は?」
「分かったら、れんらくする。」
「分かりました。
気をつけて、行ってらっしゃい。」
「うむ。」
 父親を見送った後、母親はまことを起こした。
 「まことちゃん。
起きるお時間でしょ?」
「もう少しだけ…。」
「これは、パパに報告かしら?」
「起きます!」
「おはよう。
まことちゃん。」
「おはようございます。」
「まことちゃん、お食事にしましょう。」
「はい。」
「今日は、まことちゃんの好きなフレンチトーストよ。」
「ありがとうございます。」
 母親は、まことに朝ご飯を食べさせた。
 「ごちそうさまでした。」
「はい。
よく食べました。
まことちゃん、チョコレート食べる?」
「いいんですか?」
「いいわよ。
特別ね。」
「ありがとうございます。」
 まことは、言われるままに、チョコレートを食べた。
 「まことちゃん、これから、病院に行くわよ。」
「病院ですか?」
「そうよ。
さぁ、行きましょうか。」
「はい。」
 病院で、血液検査をされて、糖尿病と診断された。
 「うちの子が糖尿病だなんて…。」
「あの子可哀想に…。」
「まだ、3歳でしょ?」
「お母さん、大変でしょうね…。」
「健気で良いお母さんだこと。」
 看護師のみんなに言われて、母親は心が満たされていた。
 家に帰ってからも、甲斐甲斐しくまことを見る母親。
 そこに、父親が帰ってきた。
 「パパ、お帰りなさい。」
「パパ、おかえりなさい。
まことちゃんが大変なの…。」
「どうした?」
「今日、病院に連れて行ったんだけど、糖尿病って診断されたの。」
「糖尿病?」
「ええ…。」
「それで、まことは無事なのか?」
「今のとこは…。」
「母親の目を盗んで、お菓子か何か食べたんだろ!!
ほら、チョコレートの包み紙がこんなに!!
これはお仕置きだ!!
服を脱ぎなさい!!」
「パパ、まことちゃんは、病気なのよ?!」
「勝手にチョコを食べたんだ、躾けないと!
甘やかすんじゃない!!
まこと、来なさい!!」
「はい…。」
「パパ、止めて!!」
 母親の静止を振り切って、父親はまことを鞭で打った。
 「糖尿病がなんだ!!
偽造じゃないのか?!
そんな子はこうだ!!」
「パパ、もう止めて!!
まことちゃんは、病気なの!!」
「どうせ、病気も嘘だ!!」
「これを見て!!
診断書よ!!
まことちゃん、ホントに病気なの!!」
 父親は打つのを止めた。
 「まこと、今日は、これで終わりにしてやる。
部屋に行きなさい。」
「はい…。」
「その前に、手当てをしましょ?」
「はい…。」
 まことは、タオルを噛んで、痛みに耐えた。
 部屋で眠っていると、ベランダが明るくなった。
 「なんだろう…。」
 まことが、カーテンを開くと、そこには赤い列車が停まっていた。
 「ここ、20階なのに列車?!」
 まことが驚いていると、列車から太っちょの車掌さんが出て来た。
 「一条 まこと様。」
「はい…。」
「ようこそ、子ども列車へ。
さぁ、お乗りください。」
「でも…。
ぼく切符…。」
「大丈夫ですよ。
切符は入りませんしお、お金も要りません。
どうぞ、ご乗車ください。」
 まことは、恐る恐る列車に乗った。
 太っちょの車掌さんは、列車の中を案内してくれた。
 「では、今、何がしたいですか?」
「お風呂に行きたいけど…。
傷…痛いかな?」
「大丈夫ですよ。
回復を早めてくれるお風呂なので、是非、入ってみてください。」
「分かりました。」
 まことは、恐る恐るお風呂に入った。
 「全然痛くない!!」
 まことは、ゆっくりと、お風呂に入った。
 お風呂から出て、今度は、食堂に行き、ステーキセットを注文した。
 ステーキセットは、すぐに、まことのとこに運ばれてきた。
 まことは、いただきます。をして、ステーキを口いっぱいに頬張った。
 ステーキを食べていると、太っちょの車掌さんが来た。
 「まこと様。
この子ども列車の事をお話ししますね。
この列車には7日間しか乗れません。
期日までは、毎回、お迎えにあがります。」
「分かりました。
7日間だけなんですね…。」
「そうなんです。
それまでは、楽しんでください。」
「ありがとうございます。」
 まことは、寝台に案内してもらい眠った。
 母親が起きる前に、まことは部屋に戻った。
 父親を見送り、まことの部屋に母親が来た。
 「まことちゃん、朝よ。
起きましょう。」
「はい…。」
「まことちゃん、今日もチョコレート食べていいわよ。」
「本当にですか?」
「ええ。
さぁ、食べましょ。」
「はい。」
 まことは、勧められるまま、チョコレートを食べた。
 「さぁ、今日も病院よ。」
 母親は、まことを病院に連れて行った。
 数値が悪く出た為、毎日、注射を打つことになった。
 家に帰ると、甲斐甲斐しくまことの世話をする母親。
 父親が帰ってくると、母親はまことに注射を打っていた。
 「注射なんかどうした?」
「糖尿病の数値が悪くて、今日から注射することになったの。」
「そうか…。
そんなに悪いのか…。」
「パパ、これは、もう治らないかもしれないから、まことちゃんのこと鞭打ちしないで…。」
「そうだな…。
病気は仕方ない…。
まこと、早く寝なさい。」
「はい。」
 子ども列車は、約束通り、迎えに来てくれた。
 子ども列車の中は、楽しくて、飽きることがなかった。
 最後の日。
 いつも通り、子ども列車は迎えに来てくれた。
 まことは、この日は、寝ずに遊ぼうと考えていた。
 列車に乗り、プレイランドに行って遊びまくり、汗を流す為に、お風呂に入り、お腹を満たす為に、食堂でたらふく食べた。
 でも、流石、子ども…。
 あと3時間しか残ってない時に、眠ってしまった。
 太っちょの車掌さんは、運転手さんに話して、時間をゆっくり進むようにした。
 最後の別れの時、まことは、太っちょの車掌さんに抱きつき、ありがとうございました。と言った。
 7日間の幸せの後、残されてるのは、地獄の日々だけ…。
 まことは、嫌々ながらに気合を入れた。
 その夜。
 両親の寝室のベランダが明るくなった。
 まことは、なにごと?と思って、両親の寝室に行った。
 すると、黒い列車が停まっていた。
 「黒…?
赤じゃない…。」
 黒の列車から、ガリガリの車掌さんが出てきた。
 「一条 れんじ様、一条 さつき様。
どうぞご乗車ください。」
 ガリガリの車掌さんが、そう言うと、両親はふらふらの足取りで、列車に乗った。
 両親が乗ると、黒い列車は発進した。
 「黒の列車は、大人用なんだ…。
朝になったら、帰って来るよね…。」
 そう思って、眠りについた、まこと。
 だけど、朝になっても両親は戻らず、まことは、施設で暮らすことになった。
 まことは、年が小さかったし、言うことの聞くいい子だったので、すぐに、養子縁組が決まった。
 養父母は優しくて、まことは幸せを感じていた。