子ども列車

 ここは、団地の4階にある一室。
 「うるさいのよ!!
静かに出来ないの?!」
「ママ、ごめんなさい!
ごめんなさい!」
「あーーーっっ!!
うるさいのよ!!
静かにしなさい!!」
 子どもの泣き声、大人の怒号、子どもを引きずられる音…。
 「そんなに声出したいなら、外にいなさい!!」
「ママ、ごめんなさい!!
ごめんなさい!
外に出さないで!!
ママぁーーーっっ!!」
「うるさい!!」
 女の人は、ベランダに子どもを放り出した。
 子どもは、窓を叩いて叫んだ。
 「ママ、ごめんなさい!!」
「ごめんなさい!じゃないでしょう!!
ずっと、そこに居なさい!!」
「ママ、ごめんなさい!!」
 女の人は、ベランダのカーテンを閉めた。
 「ママ、寒いよぉ…。
中に入れて!!
ママぁ!!」
「うるさい!!
そこで反省しなさい!!」
 女の子は、ベランダの端に座り込んだ。
 「今日も仕事だって言うのに…!!
寝れないし!!
子どもなんて産むんじゃなかった!!」
 夕方、カーテンが開いた。
 「ママ!!」
「ママ、仕事行くから!!
今日は、そこで寝なさい!!」
「ママ!!
寒いよぉ!!」
「うるさい!!
そこに居なさい!!」
 女の子は、ベランダに放り出されたまま、女の人は仕事に行ってしまった。
 女の子は、仕方なく、ベランダにしゃがみ込んだ。
 手を擦り合わせ、息を吹きかけ、暖をとっていた。
 すると、女の子の前に光が2つ現れた。
 女の子は、驚いた。
 「ここ…4階なのに…。」
 女の子の目の前に、赤い列車が停まった。
 赤い列車のドアが開いて、太っちょの車掌さんが出て来た。
 「栗野 あかり様ですね?」
「は…はい…。」
 女の子は、自分の名前を言われて、警戒した。
 「お待たせしました。
どうぞお乗りください。」
「え…。
でも…。
お金なくて…。」
「大丈夫ですよ。
これは、子ども列車。
子どもから、お金をいただくことは、ありません。
どうぞ、お乗りください。」
 あかりは、恐る恐る子ども列車に乗った。
 太っちょの車掌さんは、子ども列車について話してくれた。
 「ここは、特別な子どもしか来れない列車。
1番後ろには、お風呂があります。
1番前には、食堂があります。」
「食堂?」
「ご飯を食べるとこです。」
「ご飯?!」
「今、食べますか?」
「はい。」
「では、食堂に行きましょう。」
 太っちょの車掌さんは、あかりを食堂車に連れて行った。
 「何でも食べ放題の飲み放題です。
好きにご注文ください。」
「じゃあ、オムライスとオレンジジュース!」
「かしこまりました。」
 太っちょの車掌さんは、コックさんに頼んで、コックさんは、オムライスを作り始めた。
 すぐに、あかりの前に、オムライスとオレンジジュースが置かれた。
 「いただきますっ!」
 あかりは、何日も食べてなかったから、オムライスを口いっぱいに頬張った。
 「温かいご飯だ!」
「いつもは、冷たいんですか?」
「そうです…。」
「そうでしたか…。
温かいご飯はお口に合いますか?」
「とても美味しいです。」
 あかりは、また、オムライスを口いっぱいに頬張った。
 オムライスを食べ終わると、太っちょの車掌さんが、あかりに聞いた。
 「次は、何にしますか?」
「お風呂っ!」
「かしこまりました。」
 あかりは、食器を片付けようとした。
 「ああ、食器はそのままで。
コックが片付けますので。」
「わ…分かりました。」
「いつも、家では片付けられていたんですね。
素晴らしいことです。
でも、ここでは、必要ないですよ。
あかりさんは、お客様ですから。」
「ありがとうございます。」
 食器を片付けてただけで、褒められると思わなかった、あかり。
 初めて褒められて、嬉しかった。
 「では、お風呂に行きましょう。」
「はい。」
 あかりは、太っちょの車掌さんにお風呂の場所まで案内してもらった。
 「シャンプー、コンディショナー、ボディーソープは、中にございます。
ゆっくり、温まって下さい。」
「はい。
ありがとうございます。」
 あかりは、お風呂に入った。
 「お風呂って温かいんだ…。」
 温かいお風呂に初めて入った、あかり。
 お風呂から出て、眠くなった頃、太っちょの車掌さんが、寝台という、寝るとこに連れてってくれた。
 「お布団、あったかい!」
 温かい布団も初めてのあかり。
 あかりの母親は、キャバクラで働いていて、仕事が終わったら、ホストに通っていた。
 だから、帰って来るのは、いつも朝。
 家の中で寝た時の、あかりは起きたら、保育園に行く準備を自分でして、1人で保育園に行っていた。
 太っちょの車掌さんが、運転手さんに言った。
 「今、寝たとこなので、ゆっくり時間を進めましょう。」
「分かりました。」
 子ども列車は、時間をいじることが出来た。
 朝、8時。
 母親が帰って来る時間…。
 あかりは、太っちょの車掌さんに起こされて、自分の家のベランダに戻った。
 「今日も、お迎えにあがります。」
 そう言って、太っちょの車掌さんは、列車と共に消えた。
 そこに、母親が帰ってきて、ベランダを開けてくれた。
 あかりは、静かに部屋に入り、保育園の準備を始め、保育園に向かった。
 保育園では、子ども列車のことは黙っていた。
 なんだか、他の人には、話しちゃいけない気がしたから。
 保育園から帰ると、母親が起きていた。
 あかりは、怒られないように、静かに保育園の荷物を片付た。
 水筒は、音が出るから、母親が出てからにしようとしていた。
 母親は、出勤の準備を始めた。
 あかりは、母親から少し離れたとこで、本を読んでいた。
 「あかり、今日も遅いから。
ちゃんと、水風呂入って寝るんだよ?」
「はい。」
「お湯は使わないこと。
お湯を使っていいのは、私だけだからね!」
「はい。」
「じゃあ、行って来るから。
鍵、閉めといて。」
「はい。」
 母親は、仕事に出かけ、あかりは、水筒を洗った。
 そこに、昨日の赤い列車がきた。
 今日も、太っちょの車掌さんが、子ども列車に乗せてくれた。
 あかりは迷わず、ご飯を食べ、お風呂に入り、眠った。
 「朝8時に自宅に送り届けましょう。」
 太っちょの車掌さんが、運転手さんに言った。
 朝8時。
 太っちょの車掌さんに起こされて、列車を降りた、あかり。
 保育園に行く準備をして、母親の帰りを待っていた。
 「ただいまぁ。
酔っ払っちゃったぁ。
斗亜、送ってくれてありがとっ!
愛してる!」
「酔いすぎ!
ってか、子どもいんじゃん。」
「子どもぉ?
そんなのほっとけばいいのぉ!」
 母親は、女の顔になって、斗亜と言う男の人とイチャつき始めた。
 あかりは、その母親を他所に、保育園に向かった。
 斗亜は、母親を寝かせて、あかりを追いかけてきた。
 「ちょっと、待って。
どこ行くの?」
 あかりは、無視して保育園に行こうとしていた。
 「ちょ…待ってって!」
 斗亜は、あかりを捕まえた。
 「いつもそうなの?」
「え?」
「いつも1人でどこかに行ってるの?」
「いつも1人で、保育園に行ってます。」
「そんな…。
アイツ、子どもになんてことしてんだ!」
「それじゃ、さようなら。」
 あかりは保育園に着いた。
 保育園から帰ると、母親がキレていた。
 「あかり!!
斗亜に何言ったの?!
斗亜と何処か行ってたの?!」
 あかりの両肩を掴み、激しく揺さぶった。
 「知らない!
あかりは、保育園に行ってただけ!!
ママ、離して!!
痛いよう!!」
「斗亜と連絡とれなかったら、あんたのせいよ!!
どうしてくれるの?!」
「止めて、ママ!!」
 母親は、あかりの髪の毛を掴み、ベランダに放り出した。
 「ママ、開けて!!
寒いよう!!」
「じゃあ、斗亜と何したの?!
斗亜は、私のよ?!
これで、斗亜と結婚できなかったら、全てあんたのせいよ!!
あんたなんか産むんじゃなかった!!」
「ママ!!
開けて!!」
「開けないから!!
今日は、そのまま居なさい!!
あーーーーーっっ!!
斗亜と連絡取れない!!
斗亜!!」
 半狂乱になりながら、母親は斗亜と連絡を、取ろうとしていた。
 夜、やっと、斗亜と連絡取れた、母親。
 「斗亜、私を捨てないで!」
「捨てるわけないじゃん。」
「良かったぁ…。
じゃあ、仕事行ってくるね。
今日も行くから。」
「分かった。
子どもは?」
「ああ、大丈夫。
聞き分けいいから。」
「ふぅん…。」
「じゃ、後でね。」
「うん。」
 母親は浮かれて、仕事に行った。
 ベランダに、あかりを置いたまま。
 寒さで凍えていたら、子ども列車がきた。
 太っちょの車掌さんが、あかりを見て、憤りを覚えた。
 「あかり様、このまま、お風呂に入ると、危険なにで、体を温めてからお風呂にしましょう。」
「はい。」
「まずは、食堂で、スープを飲みましょう。」
「はい。」
 太っちょの車掌さんは、食堂に連れて行った。
 「あかり様、この毛布で、体を温めて下さい。
スープ、すぐに持ってきますね。」
「ありがとうございます。」
 スープはすぐに来た。
 「スープを飲みながらでいいので聞いてください。
この、子ども列車は、7日間しか乗れません。
今日で3日目です。
あと4回しか乗れません。
最後まで、楽しんでください。」
「分かりました。」
 そして、最後の日が来た。
 あかりは、名残惜しむのと同時に、母親からの虐待に耐えれるかの問題を抱えた。
 最後に降りる時、あかりは、ありがとうございました。と言って降りた。
 あかりは、いつものように保育園に行った。
 保育園から帰ると、母親と斗亜が眠っていた。
 あかりは、いつものように、音を立てずに、保育園のものを片付けた。
 片付け終わると、斗亜が起きてきた。
 「おかえり。」
「ただいま…。」
「おっ、口聞いてくれるんだ?」
 あかりは、コクンと頷いた。
 「いつも、何食べてるの?」
「なにも食べてない…。」
「えっ…。
何も?!
お弁当とかは?」
「たまに…。」
 そこに、母親が起きてきた。
 「斗亜ぁ、そんなのほっといて、もう一回しよ?」
「子どもの前だぞ?」
「いいのぉ。
あかり、外で遊んできな。」
「はい…。」
「いやいや、1人で行かすのかよ?」
「大丈夫だって。
ねぇ、いいでしょ?」
 猫撫で声で、甘える姿を見て、あかりは気持ち悪いとさえ思った。
 あかりは、母の言う通り、外に出た。
 斗亜は止めようとしたけど、母親に捕まっていて、追いかけることができなかった。
 「今日は、仕事休みでしょ?
ずっと、一緒に居てよ。」
「子どもは?」
「あんなのは、ベランダに出すから。」
「お前それでも親かよ!」
「なに?
斗亜、あかりの方がいいの?」
「そう言うこと言ってんじゃない!」
「じゃあ、いいじゃん。」
 外が暗くなって、あかりが帰ってきた。
 安心する斗亜の前で、母親は、あかりをベランダに出した。
 「ママ!!
寒いよぉ…!!
開けて!!」
「うるさい!!
斗亜との時間邪魔しないで!!」
「おい!
やめろよ!!
真冬だぞ?」
「いいの!!
あかり、静かにそこで寝なさい!」
「寝たら、死ぬかもしれないんだぞ?」
「大丈夫だって。
今までだって、そうしてきたんだから。
あんな奴のことはいいからさぁ。」
 母親が寝て、斗亜は起きていた。
 「寒かったろ?
中に入りな?」
 あかりは、首を横に振った。
 「ママに怒られるから…。」
「大丈夫。
俺がいるから。」
 そこに、2つの光が近づいてきた。
 「え…。
子ども列車には、もう乗れないはず…。」
「なに?
子ども列車?」
「何でもないっ!」
 近づいて来るのをよく見たら、赤色じゃなく黒色だった。
 「黒い列車…。
あかり…知らない…。」
 黒の列車が、あかりと斗亜の前で止まった。
 中から出てきたのは、ガリガリの車掌さん。
 「栗野 洋子さん。」
 車掌さんは、母親の名前を呼んだ。
 母親は、ふらふらの足取りで、列車に乗った。
 「ご乗車ありがとうございます。」
 車掌さんはそう言って、列車を発進させた。
 母親が戻って来ることはなかった。
 斗亜は、あかりを児童相談所に連れて行き、施設に入ることになった。
 「あかりちゃん。
少しの辛抱だからね。
絶対、迎えに来るから。」
 そう言って、斗亜は帰って行った。
 数日後、斗亜が、あかりを迎えにきた。
 「待たせたね。
これからは、一緒だよ。
俺の家に帰ろう。」
 あかりには、父親が居らず、行政も斗亜が引き取ることを決定させた。