野いちご源氏物語 五三 手習(てならい)

「先日、宇治(うじ)の恋人がふつうではない死に方をしたと申しましたが、実は自殺したと聞かされていたのです。しかしその恋人が、妖怪(ようかい)()りつかれた状態で発見され、今も落ちぶれて生きていると耳にいたしました。比叡(ひえい)(ざん)僧都(そうづ)がお助けになったとか。まさかそんなことはないだろうと思う一方で、自殺などという恐ろしいことをするような人ではありませんでしたから、なるほど自殺ではなく妖怪のせいで行方(ゆくえ)不明(ふめい)になっていたのかと、やっと納得できた気がいたします」

それから(かおる)(きみ)は、その恋人が匂宮(におうのみや)様とも関係を持っていたことを、あくまでも(みや)様に責任はないようにお話しになる。
「あの女性が生きていて、私が探し出したと宮様がお聞きになれば、宮様は私のことをよほどの女好きだとお思いになるでしょう。それは気恥ずかしゅうございますから、生きているなどと知らないふりでいようと存じます」

「たしかに(おんな)(いち)(みや)がご病気だったときに僧都がそんなような話をしていましたれど、あのときは(みや)容態(ようだい)がこのまま回復するかどうか心配で、あまりしっかりと聞いていなかったのですよ。ですから私から匂宮に話してはおりませんし、他の人から聞いたということもないでしょう。匂宮は今も知らないはずです。
むしろ知っていたら私としては不安です。宮はずいぶんその女性に夢中にだったようですから、知れば何か問題を起こすのではないかと。将来を期待している宮なのに、女性問題のことばかり世間の(うわさ)になって困ってしまう」

本当に匂宮様のことで頭を悩ませていらっしゃる。
<中宮様は慎重(しんちょう)なご性格だから、僧都の話も私の話も、軽率(けいそつ)に匂宮様にお話しになることはないだろう>
薫の君はひとまず安心なさる。
<これなら私が姫を探しても問題なさそうだ。山里で尼になっているという話だったが、いったいどこなのだろう。どうしたらさりげなく探せるだろうか。まずは僧都に会ってたしかなことを聞き出し、とにかく訪ねてみるしかあるまい>
寝ても覚めてもこのことばかりをお考えになっている。