雨の降る静かな夜、薫の君は中宮様のところへ参上なさった。
女房が少なくのんびりしたときだったので、世間話をなさるついでに、宇治での悲しい恋のことも少しお話しになる。
「もう何年も昔、宇治の山里に恋人がおりました。世間体がよくないと知りながらときどき通っていたのですが、その人とは夫婦になれないまま死に別れてしまいました。その土地のことが嫌になり、都からわざわざ出かけるのも億劫になったのですが、一昨年、また宇治に恋人を置いたのです。
しかし去年、その恋人も亡くなってしまいました。どちらも亡き八の宮様の山荘でのことです。八の宮様は尊い僧侶のような方でしたから、わざと私をつらい目に遭わせて、出家したいという気持ちを起こさせようとなさっているのでしょう」
中宮様は僧都から聞いた話を思い出される。
あれは去年の秋、女一の宮様がご病気になられたときのこと。
お祈りのために参内した僧都が、「春に宇治の院で素性の分からない美しい女性を助けた」というお話をなさった。
<やはり僧都が助けた女性は薫の君の恋人だったのだろう。薫の君は今も忘れられずにいらっしゃるようだから、生きていることを教えてあげたい>
中宮様はお気の毒になって、薫の君に確認しようとなさる。
「きっと宇治には恐ろしい妖怪が棲んでいるのですね。その恋人はどのようにお亡くなりになったのですか」
「そうかもしれません。ああいう人気の少ないところには、よくない妖怪が必ず棲みつくものですから。亡くなり方もふつうではありませんでした」
まさか中宮様が恋人の死について知りたがっていらっしゃるとは思わないので、詳しくはお答えにならない。
<薫の君からすれば私に知られているというのは気まずいだろう。それにその恋人が姿を消したころ、匂宮もふさぎこんで病気になっていた。きっと事件に関係しているのだ。女房もそういう噂があると言っていた。女君は薫の君と匂宮の板挟みになって宇治川に身を投げた、とか>
中宮様は匂宮様の母君で、薫の君にとっては異母姉君であられる。
どちらに対しても心苦しくて、女君のことは誰にも言えずにいらっしゃる。
女房が少なくのんびりしたときだったので、世間話をなさるついでに、宇治での悲しい恋のことも少しお話しになる。
「もう何年も昔、宇治の山里に恋人がおりました。世間体がよくないと知りながらときどき通っていたのですが、その人とは夫婦になれないまま死に別れてしまいました。その土地のことが嫌になり、都からわざわざ出かけるのも億劫になったのですが、一昨年、また宇治に恋人を置いたのです。
しかし去年、その恋人も亡くなってしまいました。どちらも亡き八の宮様の山荘でのことです。八の宮様は尊い僧侶のような方でしたから、わざと私をつらい目に遭わせて、出家したいという気持ちを起こさせようとなさっているのでしょう」
中宮様は僧都から聞いた話を思い出される。
あれは去年の秋、女一の宮様がご病気になられたときのこと。
お祈りのために参内した僧都が、「春に宇治の院で素性の分からない美しい女性を助けた」というお話をなさった。
<やはり僧都が助けた女性は薫の君の恋人だったのだろう。薫の君は今も忘れられずにいらっしゃるようだから、生きていることを教えてあげたい>
中宮様はお気の毒になって、薫の君に確認しようとなさる。
「きっと宇治には恐ろしい妖怪が棲んでいるのですね。その恋人はどのようにお亡くなりになったのですか」
「そうかもしれません。ああいう人気の少ないところには、よくない妖怪が必ず棲みつくものですから。亡くなり方もふつうではありませんでした」
まさか中宮様が恋人の死について知りたがっていらっしゃるとは思わないので、詳しくはお答えにならない。
<薫の君からすれば私に知られているというのは気まずいだろう。それにその恋人が姿を消したころ、匂宮もふさぎこんで病気になっていた。きっと事件に関係しているのだ。女房もそういう噂があると言っていた。女君は薫の君と匂宮の板挟みになって宇治川に身を投げた、とか>
中宮様は匂宮様の母君で、薫の君にとっては異母姉君であられる。
どちらに対しても心苦しくて、女君のことは誰にも言えずにいらっしゃる。



