野いちご源氏物語 五二 蜻蛉(かげろう)

(かおる)(きみ)の家来で、山荘(さんそう)警備(けいび)を取り仕切っている男が急いでやって来た。
乗り物を止めながら言う。
火葬(かそう)は薫の君にお知らせしてからになさいませ。ふわさしい日を選び、立派な儀式(ぎしき)にしてさしあげなければ」
右近(うこん)侍従(じじゅう)もそれでは困る。
「どうしても今夜のうちにすませたいのです。急ぐ理由がありますので」
と言って、乗り物は野原の方に引いていかせた。

誰も近寄せず、事情を教えた僧侶(そうりょ)だけで火葬させる。
(けむり)はほんの少し出ただけだった。
野次(やじ)(うま)田舎(いなか)(もの)たちはあやしんでいる。
田舎ではお葬式(そうしき)は何よりも大切な行事で、こんなにあっさりすませるなんて信じられないの。
「これではまるで、下働きの女が死んだだけのようではないか」
「あの山荘(さんそう)でお暮らしだった人は正妻(せいさい)ではなかったようだ。そういう場合、この程度ですませるのが(みやこ)(りゅう)らしい」
などと、口々に非難(ひなん)している。