薫の君は、女一の宮様を垣間見した渡り廊下へ行かれた。
ここは本来は女房たちの控室だから、女一の宮様がおいでにならないことは分かっていらっしゃる。
それでもつい来てしまわれるのよね。
女一の宮様は夜は中宮様のおそばでお休みになるので、女房たちは気楽に月見をしていた。
筝の優しい音色が聞こえる。
「誘われたような気がするのですが」
薫の君が突然声をおかけになったので、女房たちはびっくりした。
中国の物語に、美女が誘うような音色で琴を弾くというお話があるみたい。
物知りな女房が、それに気づいてお返事した。
「残念ながら私は美女ではございませんよ。あの物語の主人公には美男で有名な兄がいたはずですが、そんな兄もおりません」
「私は叔父にあたるのですよ。女一の宮様の」
冗談めかしてお名乗りになる。
「女一の宮様は今夜も中宮様のお部屋ですか。ところで宮様は、六条の院ではどのようにお暮らしなのでしょう」
さりげなく尋ねてごらんになると、先ほどの女房がお答えする。
「内裏にいらっしゃいましても、こちらにいらっしゃいましても、とくに何をなさるということはございません。ただのんびりと一日をお過ごしです」
薫の君は苦笑なさる。
<いかにも高貴な内親王様らしいお暮らしだ。私は恋心に苦しんでいるというのに>
思わずため息が出そうになったとき、簾の向こうから和琴が差し出された。
ため息を紛らわせるように少しお弾きになる。
せっかく秋らしい調子で弾いていらっしゃったのに、すぐにやめてしまわれたから、音楽好きの女房はがっかりする。
薫の君はお手を止めて、
<女二の宮様を頂戴しただけでも恐れ多いことだけれど、女一の宮様も妻にできたらよいのに>
などと夢のようなことをお考えになっている。
ここは本来は女房たちの控室だから、女一の宮様がおいでにならないことは分かっていらっしゃる。
それでもつい来てしまわれるのよね。
女一の宮様は夜は中宮様のおそばでお休みになるので、女房たちは気楽に月見をしていた。
筝の優しい音色が聞こえる。
「誘われたような気がするのですが」
薫の君が突然声をおかけになったので、女房たちはびっくりした。
中国の物語に、美女が誘うような音色で琴を弾くというお話があるみたい。
物知りな女房が、それに気づいてお返事した。
「残念ながら私は美女ではございませんよ。あの物語の主人公には美男で有名な兄がいたはずですが、そんな兄もおりません」
「私は叔父にあたるのですよ。女一の宮様の」
冗談めかしてお名乗りになる。
「女一の宮様は今夜も中宮様のお部屋ですか。ところで宮様は、六条の院ではどのようにお暮らしなのでしょう」
さりげなく尋ねてごらんになると、先ほどの女房がお答えする。
「内裏にいらっしゃいましても、こちらにいらっしゃいましても、とくに何をなさるということはございません。ただのんびりと一日をお過ごしです」
薫の君は苦笑なさる。
<いかにも高貴な内親王様らしいお暮らしだ。私は恋心に苦しんでいるというのに>
思わずため息が出そうになったとき、簾の向こうから和琴が差し出された。
ため息を紛らわせるように少しお弾きになる。
せっかく秋らしい調子で弾いていらっしゃったのに、すぐにやめてしまわれたから、音楽好きの女房はがっかりする。
薫の君はお手を止めて、
<女二の宮様を頂戴しただけでも恐れ多いことだけれど、女一の宮様も妻にできたらよいのに>
などと夢のようなことをお考えになっている。



