野いちご源氏物語 五二 蜻蛉(かげろう)

中宮(ちゅうぐう)様はそろそろ内裏(だいり)にお戻りにならないといけないけれど、ちょうど六条(ろくじょう)(いん)紅葉(こうよう)が見ごろなの。
「これを見ないわけには」
と若い女房(にょうぼう)たちは楽しみにしていて、お池に舟を浮かべたり月見をしたりする。
音楽会も毎日開かれているわ。
いつも以上に華やかな六条の院で、音楽のお得意な匂宮(におうのみや)様もご一緒に楽しまれる。

女房たちはすっかり匂宮様のお姿を見慣れているけれど、それでも宮様のお美しさには毎回新鮮(しんせん)に感動する。
一方、(かおる)(きみ)()()れしく女房に近づくことをなさらないから、なんとなく真面目すぎて近寄りがたい感じがする。

おふたりが中宮様の御前(ごぜん)にいらっしゃるとき、侍従(じじゅう)物陰(ものかげ)からこっそり(のぞ)いてみた。
浮舟(うきふね)(きみ)の女房だったこの侍従は、中宮様の女房になったのよね。
<匂宮様と薫の君、どちらに引き取られなさっても、姫様はきっとお幸せにおなりだった。それなのにどうして自殺なんて>
女房仲間に言えることでもないから、自分ひとりで悲しんでいる。

匂宮様が内裏でのことを中宮様にご報告なさるので、薫の君は遠慮(えんりょ)して退出なさった。
侍従はさっと(かく)れる。
<見つかりたくない。姫様の一周(いっしゅう)()もまだなのに、もう山荘(さんそう)を離れたのかと軽蔑(けいべつ)なさるだろう>
と恥ずかしくなったの。