野いちご源氏物語 五二 蜻蛉(かげろう)

少し前に、「(かおる)(きみ)叔父(おじ)にあたる親王(しんのう)様がお亡くなりになった」というお話をしたこと、覚えているかしら。
その親王様には姫君(ひめぎみ)がいらっしゃる。
姫君はすでに母君(ははぎみ)も亡くされていて、継母(ままはは)がいるのだけれど、ご関係はあまりよろしくない。
継母の兄が姫君に求婚すると、継母はあっさりと承知してしまった。

(とうと)い親王様の姫君が、たいした取柄(とりえ)もない男と結婚させられるなんてお気の毒よ。
中宮(ちゅうぐう)様はその(うわさ)をお聞きになって、
「かわいそうだ。亡き親王様がとてもかわいがっていらした姫君なのに。いっそ私のところへおいでになっては」
とおっしゃる。

姫君はご自身の将来を心細く思っていらっしゃるみたい。
難しいところだけれど、
「身分の低い男と結婚なさるよりは(みや)(づか)えの方がましかもしれません。せっかく中宮様がご親切に(おお)せくださったのですから」
とお(すす)めする人もいて、中宮様の女房におなりになった。

(おんな)(いち)(みや)様のお話し相手にちょうどよいと中宮様はお考えになる。
中宮様の父君(ちちぎみ)は亡き源氏(げんじ)(きみ)
この姫君の父宮(ちちみや)様は、源氏の君の弟宮(おとうとみや)であられた。
つまり、女一の宮様と姫君は従姉妹(いとこ)同士でいらっしゃるの。
それほどのご身分の姫君だから、特別な待遇(たいぐう)をお受けになるけれど、やはり女房は女房なのよね。
お屋敷の奥深くで姫君としてお育ちになった方が、今は「(みや)(きみ)」と人から呼ばれて、女房である(あかし)()をつけていらっしゃるのが悲しい。

匂宮様は、宮の君が中宮様のところに上がられたと聞いて期待なさる。
<宮の君なら宇治(うじ)の亡き姫に似ているかもしれない。宮の君のお父宮と亡き姫のお父宮は兄弟でいらっしゃったのだから>
浮気っぽいご性格の宮様は、早く会ってみたいとそわそわなさる。

一方、薫の君は腹を立てていらっしゃる。
<親王様の姫君が宮仕えだなんてとんでもないことだ。亡きお父宮が東宮(とうぐう)様へ入内(じゅだい)させようかとお育てになっていた姫君ではないか。恐れ多くも私のことも婿(むこ)候補(こうほ)としてお考えくださっていた。そんな姫君が人に使われる立場になってしまわれたとは。いっそ宇治の姫のように()()げでもしてしまいたいほどのお気持ちだろう>
と、ご同情から好意を(いだ)かれる。