野いちご源氏物語 五二 蜻蛉(かげろう)

(かおる)(きみ)はお使者(ししゃ)から山荘(さんそう)の様子をお聞きになった。
<あっけない最期(さいご)だったようだ。それにしても宇治(うじ)という土地の縁起(えんぎ)の悪さよ。(はち)(みや)様や大君(おおいぎみ)につづいて、姫まで失うとは。鬼でも()んでいるのか。しかしそんなところに住まわせておいた私が悪い。匂宮(におうのみや)様が姫にお手を出されたのも、都から離れた宇治だから気軽だったということもあるのだろう>
ご自分の甘さや、警戒(けいかい)(しん)(うす)さを(くや)しくお思いになる。

母宮(ははみや)様のご病気回復のお祈りどころではなくなってしまった。
石山(いしやま)(でら)を出て、都にお戻りになる。
三条(さんじょう)(てい)に到着なさっても、ご正妻(せいさい)のお住まいの方にはお行きにならない。
「たいしたことではないのですが、近くで不幸があり、心が落ち着きませんので」
とご正妻にはお伝えして、ご自分のお部屋にいらっしゃる。

浮舟(うきふね)(きみ)との(はかな)いご関係を(なげ)き、様子や顔立ちがかわいらしかったと恋しく思い出される。
<生きている間はそれほど夢中にもならずのんきに過ごしてしまった。今になって後悔(こうかい)することばかりだ。私は恋人を亡くして苦しむように運命で決められているのだろう。幼いころから出家(しゅっけ)(のぞ)んでいたくせに、いまだにできていないどころか、内親王(ないしんのう)様を妻にして結婚生活を送っている。それを仏様はお怒りなのだ。私を苦しい目に()わせてこの世に絶望(ぜつぼう)させ、出家へとお(みちび)きになっているのだろう。仏様はお慈悲(じひ)深いはずだが、こういうときは厳しいお顔をお見せになるらしい>
ひたすらお(きょう)を読んで、女君(おんなぎみ)成仏(じょうぶつ)を念じていらっしゃる。