四月の風は、まだ少し冷たかった。
新しいクラス、新しい席、新しい教科書。
高校二年生になったばかりの私は、まだ全部に慣れていなかった。
そして、もうひとつ慣れていないことがある。
「えーっと……今年の体育委員は、藤沢と佐藤な」
担任の先生の声で、教室が少しざわつく。
私は小さくため息をついた。
(体育委員かぁ……)
正直、くじで決まっただけでやりたかったわけじゃない。
体育が嫌いなわけじゃないけど、放課後に集まったりするのはちょっと面倒だ。
「放課後、体育館横の準備室に来いよ。委員会あるから」
先生がそう言って黒板に「体育委員会」と書いた。
私は机に突っ伏した。
「美羽、頑張って」
前の席の莉奈が振り返って笑う。
「絶対めんどくさいやつじゃん」
「でも体育祭とか関われるじゃん」
「それはちょっと楽しそうだけど…」
そんな話をしながらも、正直あまり乗り気じゃなかった。
でも――
その気持ちは、放課後すぐに変わることになる。
放課後。
体育館の横にある小さな準備室には、すでに何人かの生徒が集まっていた。
どうやら各クラスの体育委員らしい。
「一年生はこっち座ってー」
誰かが言う。
私は空いている椅子に座った。
そのとき、ドアが開く。
「全員いる?」
低くて落ち着いた声。
思わず顔を上げた。
入ってきたのは、一人の先輩だった。
背が高くて、少しだけ無造作な黒い髪。
ジャージ姿なのに、どこか目を引く。
(誰…)
「今年の体育委員長の橘です」
その先輩は、そう言って軽く頭を下げた。
「三年だから、今年で最後の体育祭なんだよね。だからまあ…全力でやりたい」
教室が少し静かになる。
「面倒なことも多いと思うけど、協力してくれると助かる」
真面目だけど、堅すぎない話し方だった。
「とりあえず今日は、自己紹介からかな」
委員長――橘先輩は、ホワイトボードに名前を書いた。
橘 颯斗
順番に自己紹介が始まる。
「一年三組、田中です」
「二年一組、木村です」
どんどん順番が回ってくる。
そして、私の番。
「二年二組の、藤沢美羽です」
言い終わって座ろうとしたとき。
「藤沢?」
橘先輩が少しだけ顔を上げた。
「はい?」
「体育、得意?」
突然の質問に、少し戸惑う。
「……普通です」
正直に答えると、先輩は少し笑った。
「じゃあ体育祭、結構働いてもらおうかな」
教室に小さく笑いが起こる。
「え、ちょっと」
思わず言うと、先輩は肩をすくめた。
「冗談」
そう言って、次の人に視線を向ける。
その何気ないやり取りなのに、
なぜか胸が少しだけざわついた。
委員会が終わって、みんなが帰り始める。
私はノートをしまって立ち上がった。
そのとき。
「藤沢」
後ろから声がした。
振り返ると、橘先輩が立っていた。
「はい?」
「さっきの体育祭の話、半分本気だから」
「え?」
先輩は少しだけ笑う。
「二年生、結構大事なんだよ」
近い。
思っていたより背が高くて、少し驚く。
「よろしくな」
それだけ言って、先輩は準備室を出ていった。
私はしばらくその場に立っていた。
(なんだろう…)
胸の奥が、ほんの少しだけざわついている。
そのときはまだ知らなかった。
この先輩を、
私が好きになることも。
そして――
その人が、いつか“兄”になることも。
新しいクラス、新しい席、新しい教科書。
高校二年生になったばかりの私は、まだ全部に慣れていなかった。
そして、もうひとつ慣れていないことがある。
「えーっと……今年の体育委員は、藤沢と佐藤な」
担任の先生の声で、教室が少しざわつく。
私は小さくため息をついた。
(体育委員かぁ……)
正直、くじで決まっただけでやりたかったわけじゃない。
体育が嫌いなわけじゃないけど、放課後に集まったりするのはちょっと面倒だ。
「放課後、体育館横の準備室に来いよ。委員会あるから」
先生がそう言って黒板に「体育委員会」と書いた。
私は机に突っ伏した。
「美羽、頑張って」
前の席の莉奈が振り返って笑う。
「絶対めんどくさいやつじゃん」
「でも体育祭とか関われるじゃん」
「それはちょっと楽しそうだけど…」
そんな話をしながらも、正直あまり乗り気じゃなかった。
でも――
その気持ちは、放課後すぐに変わることになる。
放課後。
体育館の横にある小さな準備室には、すでに何人かの生徒が集まっていた。
どうやら各クラスの体育委員らしい。
「一年生はこっち座ってー」
誰かが言う。
私は空いている椅子に座った。
そのとき、ドアが開く。
「全員いる?」
低くて落ち着いた声。
思わず顔を上げた。
入ってきたのは、一人の先輩だった。
背が高くて、少しだけ無造作な黒い髪。
ジャージ姿なのに、どこか目を引く。
(誰…)
「今年の体育委員長の橘です」
その先輩は、そう言って軽く頭を下げた。
「三年だから、今年で最後の体育祭なんだよね。だからまあ…全力でやりたい」
教室が少し静かになる。
「面倒なことも多いと思うけど、協力してくれると助かる」
真面目だけど、堅すぎない話し方だった。
「とりあえず今日は、自己紹介からかな」
委員長――橘先輩は、ホワイトボードに名前を書いた。
橘 颯斗
順番に自己紹介が始まる。
「一年三組、田中です」
「二年一組、木村です」
どんどん順番が回ってくる。
そして、私の番。
「二年二組の、藤沢美羽です」
言い終わって座ろうとしたとき。
「藤沢?」
橘先輩が少しだけ顔を上げた。
「はい?」
「体育、得意?」
突然の質問に、少し戸惑う。
「……普通です」
正直に答えると、先輩は少し笑った。
「じゃあ体育祭、結構働いてもらおうかな」
教室に小さく笑いが起こる。
「え、ちょっと」
思わず言うと、先輩は肩をすくめた。
「冗談」
そう言って、次の人に視線を向ける。
その何気ないやり取りなのに、
なぜか胸が少しだけざわついた。
委員会が終わって、みんなが帰り始める。
私はノートをしまって立ち上がった。
そのとき。
「藤沢」
後ろから声がした。
振り返ると、橘先輩が立っていた。
「はい?」
「さっきの体育祭の話、半分本気だから」
「え?」
先輩は少しだけ笑う。
「二年生、結構大事なんだよ」
近い。
思っていたより背が高くて、少し驚く。
「よろしくな」
それだけ言って、先輩は準備室を出ていった。
私はしばらくその場に立っていた。
(なんだろう…)
胸の奥が、ほんの少しだけざわついている。
そのときはまだ知らなかった。
この先輩を、
私が好きになることも。
そして――
その人が、いつか“兄”になることも。


