野いちご源氏物語 五一 浮舟(うきふね)

雨の降りやまない日が続く。
<これでは宇治(うじ)へ出かけられない>
と、宮(みや)様はお苦しい。
ご自分が親王(しんのう)などという尊(とうと)いお立場でなければ、雨にぬかるんだ危険な山道を、恋人に会うために突(つ)き進むという選択もある。
<しかし、帝(みかど)と中宮(ちゅうぐう)様のお子である私にその選択は許されない>
ご身分を窮屈(きゅうくつ)に思われるのだから、恐れ多いこと。

お見舞い客が少し途(と)切(ぎ)れたころ、宮様は浮舟(うきふね)の君(きみ)にお手紙をお書きになる。
最後に、
「あなたを思って宇治の方を眺(なが)めているけれど、雨雲のように私の心まで真っ暗になっていく」
と美しくお書きになった。

浮舟の君は乳母(めのと)に見つからないようにこっそりと読む。
若い女君(おんなぎみ)だから感動してしまうのよね。
とはいえ、薫(かおる)の君(きみ)の落ち着いたご立派さにも未練(みれん)がある。
最初の恋人だもの。

<あれほどご立派な薫の君に、浮気を知られて嫌われてしまったら生きていけない。それに母君にも申し訳ない。私が都に迎えられる日を心待ちにしてくださっているのだから。宮様は浮気っぽいご性格だと聞く。このご愛情がいつまで続くか分からないし、もし続いたとしても、中君(なかのきみ)がどうお思いになることか。世の中は隠(かく)し事(ごと)なんてできない。私が宮様のものになれば、きっと中君のお耳にも入るはずだ>
思い乱れているところに、薫の君からお手紙が届いた。