朝七時、意外にも朝は早い。
ご飯を作るのは当番制。当番じゃない日はもう少し寝れるんだけど……変成くんは朝にめっぽう弱いので、いつの間には私が朝、変成くんは夜を担当することになっていた。
「おはよぉ....」
誰もいないキッチンに声をかける。もちろん変成くんはまだ寝ているので声は返ってくるはずない。
「おはよ〜」
「うわぁぁ!!」
声にビクッと驚いて、短い悲鳴を上げてしまった。
(あれ?今、明らかに変成くん以外の声が聞こえた気が……)
聞き覚えのある声にビックリしてキッチンを覗き込むと、ふわふわのピンク色の髪の男の子―――第三の王、宋帝王こと宋がひらひらと手を振っている。
「え、宋!? な、なんでここに……?」
目を丸くして固まる私に宋は食器棚にもたれたまま、くすくすとおかしそうに笑う。
眠気なんて一瞬で吹き飛んでしまった。
「閻ちゃんが亡者達を逃がしたじゃん?だから『仕事にならないな〜』ってことで幸運にも業務停止扱いの休暇を貰ってさー。暇だから遊びに来た!」
「こんな朝早くに……?どうやって入ったの?」
「ベランダの鍵が開いてたからスッと入ってきたよ!」
「防犯意識ゼロか我が家は!!」
「ひどいっ!せっかく『朝ごはん一緒に食べよ』と思って早起きしてきたのにさー」
宋は口元をキュッと尖らせて拗ねた振りをするけれど、その目は楽しそうにキラキラと輝いている。
「……あ、もしかして朝のご飯、まだ作ってない感じ?」
キッチンカウンターに視線を向けた宋が、小首をかしげて尋ねてくる。
「今から作るところだけど……」
「やった!じゃあ僕の分もよろしくね!」
「手伝ってくれるなら良いよ。タダ飯は許しません」
「わーい、やったー!」
「よし、じゃあ手伝ってもらうからね。……って言っても、宋って料理できるの?」
エプロンを付けながら尋ねると、宋は待ってましたとばかりにパチンと指を鳴らした。
「失礼だな〜!こう見えても卵焼きくらいは作れるよ?甘いやつと、しょっぱいやつ、どっちがいい?」
「意外……。じゃあ甘いやつでお願いしようかな!」
「了解っ!任せて〜!」
腕をまくって張り切る宋は、さっそく冷蔵庫から卵を取り出してボウルに割り入れ始めた。ふわふわした普段の雰囲気とは裏腹に、手際よく菜箸で卵を混ぜていく。
「秦はお皿でも出しといて〜」
「お皿はあとで良いよ。私も朝ご飯作りたい」
「……」
え、何その顔。この世の終わりみたいな顔で見つめられた。
「どうしたの?」
「ずいぶん前に作ったグシャグシャの卵焼きのこと、もう忘れたの?」
「あ、あれは砂糖と塩を間違えて、火加減も間違えちゃっただけだから、今回は大丈夫!」
「……お皿、出して」
小さい子に呼びかけるような、ゆっくりとした声。
「そこまで子供扱いしなくても……」
私が抗議の声を上げると、宋は苦笑いしながらといた卵に砂糖をパラパラと入れていく。
「今日は大丈夫だから!あ、お魚焼いておくね」
食い下がる私を見て、宋ははぁーっと大げさにため息をつき、困ったように眉を下げた。
「そこまで言うなら、魚はオレがやるから秦は卵焼いといて……」
「分かった!」
二人の食欲がわくくらい完璧に盛り付けてやるんだから!
私は、ものすごく張り切っていた。
―――このあと、炭と化したボロボロの卵焼きを食べることになるとは、思いもせずに。
✳✳✳
家中をもんもんと埋め尽くす真っ黒な煙。
キッチンの火災報知器が鳴り響かないのが奇跡的なレベルである。
その黒煙と焦げ臭さによって跳ね起きてきた変成くんは心底不機嫌そうに宋を逆さ吊りにしていた。
部屋中の窓を全力で開けて換気しているため、外からの冷たい朝風が吹き込んで少し肌寒い。
「ねぇ、宋帝王。なんで不法侵入してるわけ?」
「あはは……痛い痛い。変成くん、もしかしてキレてる〜?」
逆さ吊りにされたまま、足をバタバタさせて笑ってごまかす宋。
変成くんがチラリとキッチンカウンターの上に視線をやると、そこには皿の上に盛られた、黒い四角い何かが鎮座していた。
「……これ何?」
「……甘い卵焼き」
「炭の間違いでしょ」
変成くんはため息をつきながらフライパンの前に立つ。
「俺が作り直すよ」
そう言って、彼は慣れた手つきで新しい卵を冷蔵庫から取り出し、ボウルに割り入れた。
手際よく菜箸を動かし、油をひいたフライパンへ流し込む。くるっと巻いて綺麗で黄色い、ふわっふわの卵焼きをわずか三分で作り上げてしまった。
「……同じ材料で作ったとは思えない綺麗さ!」
「元がひどすぎたんだよ」
テーブルに並べられているのは、変成くんが焼いた綺麗な卵焼き、宋が綺麗に焼き上げた鮭の塩焼き、そして私がお皿に盛り付けただけの温かいお味噌汁とご飯。
ちなみに黒コゲの卵焼きは、作った責任として私が端っこを少しだけかじることに。
…………とても苦かったです。
『今日から週末にかけて気持ちの良い天気で、行楽日和となりそうです。次のニュースです』
ニュース番組の音声を聞きながら、朝ご飯を食べる。
『最近話題となっている『女子中学生誘拐事件』ですが、未だ犯人は不明とのこと。みなさんもお気をつけて―――』
箸を持つ手がピタッと止まった。
「……女子中学生誘拐事件?」
私がぽつりと呟くと、リビングの空気がわずかに重くなった。
テレビの画面には、警察署の前で慌ただしく動き回るレポーターの映像が映し出されている。
連日、隣町で十代前半の女の子が相次いで姿を消しているらしい。
宋はため息をつきながら私の方を見た。
「次々に女子中学生ばっかを狙う誘拐犯だよ。犯人はロリコンかな?」
そんなの、流行ってたまるか!
ご飯を作るのは当番制。当番じゃない日はもう少し寝れるんだけど……変成くんは朝にめっぽう弱いので、いつの間には私が朝、変成くんは夜を担当することになっていた。
「おはよぉ....」
誰もいないキッチンに声をかける。もちろん変成くんはまだ寝ているので声は返ってくるはずない。
「おはよ〜」
「うわぁぁ!!」
声にビクッと驚いて、短い悲鳴を上げてしまった。
(あれ?今、明らかに変成くん以外の声が聞こえた気が……)
聞き覚えのある声にビックリしてキッチンを覗き込むと、ふわふわのピンク色の髪の男の子―――第三の王、宋帝王こと宋がひらひらと手を振っている。
「え、宋!? な、なんでここに……?」
目を丸くして固まる私に宋は食器棚にもたれたまま、くすくすとおかしそうに笑う。
眠気なんて一瞬で吹き飛んでしまった。
「閻ちゃんが亡者達を逃がしたじゃん?だから『仕事にならないな〜』ってことで幸運にも業務停止扱いの休暇を貰ってさー。暇だから遊びに来た!」
「こんな朝早くに……?どうやって入ったの?」
「ベランダの鍵が開いてたからスッと入ってきたよ!」
「防犯意識ゼロか我が家は!!」
「ひどいっ!せっかく『朝ごはん一緒に食べよ』と思って早起きしてきたのにさー」
宋は口元をキュッと尖らせて拗ねた振りをするけれど、その目は楽しそうにキラキラと輝いている。
「……あ、もしかして朝のご飯、まだ作ってない感じ?」
キッチンカウンターに視線を向けた宋が、小首をかしげて尋ねてくる。
「今から作るところだけど……」
「やった!じゃあ僕の分もよろしくね!」
「手伝ってくれるなら良いよ。タダ飯は許しません」
「わーい、やったー!」
「よし、じゃあ手伝ってもらうからね。……って言っても、宋って料理できるの?」
エプロンを付けながら尋ねると、宋は待ってましたとばかりにパチンと指を鳴らした。
「失礼だな〜!こう見えても卵焼きくらいは作れるよ?甘いやつと、しょっぱいやつ、どっちがいい?」
「意外……。じゃあ甘いやつでお願いしようかな!」
「了解っ!任せて〜!」
腕をまくって張り切る宋は、さっそく冷蔵庫から卵を取り出してボウルに割り入れ始めた。ふわふわした普段の雰囲気とは裏腹に、手際よく菜箸で卵を混ぜていく。
「秦はお皿でも出しといて〜」
「お皿はあとで良いよ。私も朝ご飯作りたい」
「……」
え、何その顔。この世の終わりみたいな顔で見つめられた。
「どうしたの?」
「ずいぶん前に作ったグシャグシャの卵焼きのこと、もう忘れたの?」
「あ、あれは砂糖と塩を間違えて、火加減も間違えちゃっただけだから、今回は大丈夫!」
「……お皿、出して」
小さい子に呼びかけるような、ゆっくりとした声。
「そこまで子供扱いしなくても……」
私が抗議の声を上げると、宋は苦笑いしながらといた卵に砂糖をパラパラと入れていく。
「今日は大丈夫だから!あ、お魚焼いておくね」
食い下がる私を見て、宋ははぁーっと大げさにため息をつき、困ったように眉を下げた。
「そこまで言うなら、魚はオレがやるから秦は卵焼いといて……」
「分かった!」
二人の食欲がわくくらい完璧に盛り付けてやるんだから!
私は、ものすごく張り切っていた。
―――このあと、炭と化したボロボロの卵焼きを食べることになるとは、思いもせずに。
✳✳✳
家中をもんもんと埋め尽くす真っ黒な煙。
キッチンの火災報知器が鳴り響かないのが奇跡的なレベルである。
その黒煙と焦げ臭さによって跳ね起きてきた変成くんは心底不機嫌そうに宋を逆さ吊りにしていた。
部屋中の窓を全力で開けて換気しているため、外からの冷たい朝風が吹き込んで少し肌寒い。
「ねぇ、宋帝王。なんで不法侵入してるわけ?」
「あはは……痛い痛い。変成くん、もしかしてキレてる〜?」
逆さ吊りにされたまま、足をバタバタさせて笑ってごまかす宋。
変成くんがチラリとキッチンカウンターの上に視線をやると、そこには皿の上に盛られた、黒い四角い何かが鎮座していた。
「……これ何?」
「……甘い卵焼き」
「炭の間違いでしょ」
変成くんはため息をつきながらフライパンの前に立つ。
「俺が作り直すよ」
そう言って、彼は慣れた手つきで新しい卵を冷蔵庫から取り出し、ボウルに割り入れた。
手際よく菜箸を動かし、油をひいたフライパンへ流し込む。くるっと巻いて綺麗で黄色い、ふわっふわの卵焼きをわずか三分で作り上げてしまった。
「……同じ材料で作ったとは思えない綺麗さ!」
「元がひどすぎたんだよ」
テーブルに並べられているのは、変成くんが焼いた綺麗な卵焼き、宋が綺麗に焼き上げた鮭の塩焼き、そして私がお皿に盛り付けただけの温かいお味噌汁とご飯。
ちなみに黒コゲの卵焼きは、作った責任として私が端っこを少しだけかじることに。
…………とても苦かったです。
『今日から週末にかけて気持ちの良い天気で、行楽日和となりそうです。次のニュースです』
ニュース番組の音声を聞きながら、朝ご飯を食べる。
『最近話題となっている『女子中学生誘拐事件』ですが、未だ犯人は不明とのこと。みなさんもお気をつけて―――』
箸を持つ手がピタッと止まった。
「……女子中学生誘拐事件?」
私がぽつりと呟くと、リビングの空気がわずかに重くなった。
テレビの画面には、警察署の前で慌ただしく動き回るレポーターの映像が映し出されている。
連日、隣町で十代前半の女の子が相次いで姿を消しているらしい。
宋はため息をつきながら私の方を見た。
「次々に女子中学生ばっかを狙う誘拐犯だよ。犯人はロリコンかな?」
そんなの、流行ってたまるか!



