亡者逃走中 in 現世

配信生活一ヶ月目。
私達は配信の進捗を報告するために閻魔庁に集まった。
「と、言うわけでみんなどうかな?」
ワクワクと目を輝かせながら、閻魔が身を乗り出して尋ねてくる。
「順調、と言いたいところだけど……予想以上の反響にこっちがちょっとビビってるよ」
​私は苦笑いを浮かべながら、手元のタブレット端末をみんなに見せた。
そこには、昨夜行った生配信の同時接続者数と、爆発的に増えたフォロワー数が表示されている。
(配信を始めて一ヶ月でバズるとか、私達って配信者の才能あるんじゃない!?)
心の中でガッツポーズを決めていると、隣でスマホの画面をいじっていた都市くんが、胸を張ってドヤる。
​「初回の雑談と僕の高度なプロデュース演出が功を奏して、トレンドの急上昇ランキングに載っちゃいましたしね!」
​都市くんにタブレットを返す。
「しょーくんと転輪さんと平等王に仕掛けたドッキリが結構反響良くて……」
「君達、怖いもの知らずだねぇ」
閻魔があははと苦笑いを浮かべて私達を見る。
……だが、次の瞬間、部屋の空気が凍りついた。
被害者の一人であるしょーくんが、額にピキッと青筋を立てながら私達をじーっと睨みつけてきた。
​「仕掛け人のお前らは、あとで覚えておけよ。……特に、私の書類の上にジュースをこぼした宋帝王」
「初江王がキレてるよ。大丈夫?あとで君達死なない?僕、対処できないよ」
「オレ、逃げて良い?」
「逃げるな」
「へ、変成くん。どうしよう、思った百倍怖い……って、あれ、いない!?」
助けを求めようと振り返るが、すでにそこに変成くんはいなくて……。
視線を彷徨わせると、部屋の隅の観葉植物の陰から口元に人差し指を当てて「しーっ」と合図を送ってくる変成くんの姿があった。
​(巻き添えを察知して速攻で逃げた……!)
​「……人の心配をしている余裕があるなら、自分達の処分について考えたらどうだ?」
​冷気すら感じる圧を背中に受け、私と宋はヒッと肩をすくませて固まった。
「い、いや……提案をしたのは変成くんだよ!」
よし、道連れ成功!
完全に気配を消していたはずの変成くんが、ガバッと葉っぱをかき分けて顔を出す。
​「なに道連れにしようとしてんの!?」
「だって事実じゃん!」
「俺は『面白そうだね』って言っただけだよ。あと、宋のジュースをぶち撒けたのはドッキリ関係ないよ」
「うげ、バレた」
​必死に責任転嫁し合う私達を見て、しょーくんの額の青筋がさらに増えていく。
​「……なるほど。変成王も一枚噛んでいたわけか」
「あ、あはは……」
しょーくんの視線が観葉植物の陰へと向けられると、変成くんはジリジリと後ずさりし始めた。
「……しかし、いくらこちらがバズったところで、肝心の亡者の方から未だにコラボの返信が来ないのは誤算ですね」
​わいわい騒ぐ三人を他所に、都市くんがタブレットを眺めながら眉をひそめる。
「あんなにムキになって宋がコラボ申請送ってたのにね」
一時間に一回くらいは送ってたんじゃない?
​「そりゃあ向こうもプライドがあるんじゃない?いきなり現れた新人に、自分からコラボを受けようなんて思わないよ」
閻魔が首をかしげると、変成くんが隣にやって来て意地悪そうに笑う。
​「もっと煽ってみたら?『最近の新人についていけないビビり』とか」
「訴えられたら私達が負けるだろう」
しょーくんはため息をついた。
✳✳✳
というわけで、配信者の亡者を探すのも大事だけどまずは別の亡者探しだよね。
もう少しでみんな大好き夏休みが始まるから、少しでも長く遊べるように今のうちに片っ端から適当に送り還そうという意気込みで始めたのに……。
「……で、何でこうなってるの?」
​冷たい風が吹き抜ける廃ビルの中。
剥き出しになった鉄骨に頑丈な縄でガチガチに縛られたまま、私は自分を縛り上げた張本人であるしょーくんを睨みつけた。
「何で私が囮にならなきゃいけないの!?」
「安心しろ。守ってはやる」
​呆れ顔で短く答えるしょーくん。
今回の目的の亡者は、生前暴行やカツアゲを繰り返していた集団グループだ。
他の人間に危害が向くくらいなら現場にエサを撒いて釣り上げるしかない……というのは理解できるが、なぜそのエサが私なのか。
慢心(まんしん)は死亡フラグだって、前に美穂ちゃんが教えてくれたよ!」
​(亡者を送り還したら絶対文句を言ってやる……!)
​私が心の中で毒づいていると、廃ビルの奥から足音が近づいてくる。
やがて、荒々しい足取りと共に数人の亡者が影から姿を現した。
​「へへっ、おいおい……こんな寂しい場所に可愛いお嬢ちゃんが縛られてるぜ?」
「おいおいカツアゲか?おれらも混ぜてくれよ〜」
(本当に来た!?)
​ガラ悪くニヤニヤと笑いながら手を鳴らす亡者達。囮だと分かってはいても背筋が冷たくなる。
しょーくんは閻魔帳から刀を取り出し、亡者に投げようとするが亡者を見てから私を見た。
「……こんなに来るとは考えてなかった」
「しょーくん!?」
​縛られたまま叫ぶ私の声が、廃ビル内に甲高く響き渡った。
「集団カツアゲグループって書いてたじゃん。何で確認しないの!?」
「いや、五人くらいだろうと……」
私達がギャーギャーと揉めている間にも、ガラ悪くニヤつく亡者グループは徐々に距離を詰めてくる。
​「ハッ、仲間割れか?威勢がいいのは結構だが、そっちの男から血祭りにあげてやるよ!」
「おいおい、動画のネタにでもする気か?命が無くなってから後悔しな!」
​私が目を瞑りかけた次の瞬間―――。
「判決を下す。第三の地獄、衆合地獄」
ここにいないはずの変成くんの声が聞こえ、亡者は全員衆合地獄に送り還された。
「「え?」」
私としょーくんはお互い顔を見合わせる。
さっきまで大勢でイキり散らかしていた亡者達が、悲鳴をあげる暇すらなく一瞬で送り還されていた。
「二人とも囮になってくれて、ありがとうね」
声が聞こえてきた上を見上げると、変成くんは鉄骨の上で片膝を立て、悠々とくつろいでいる。
「……いや、何故お前がここにいる」
しょーくんの問いかけに対し、変成くんは私の傍に飛び降りて縄を解いてくれた。
「初江王って結構抜けているからさー。囮になってくれるかなーと」
「貴様ぁぁぁ!何一人で美味いところを持っていったんだ!!」
「「いや、怒るとこそこかよ!」」
私と変成くんのツッコミが揃った。