「起きろよー」
切実に問いたい。
朝起きると、家族でも何でもない男友達が至近距離で自分の部屋に佇んでいた時、人間は一体どういう対処法を取るのが正解なのだろうか。
選択肢A、とりあえず殴る。
選択肢B、近所迷惑を顧みず悲鳴を上げる。
選択肢C、寝起きの頭で顔面に見惚れる。
とりあえず私は夢の中だろうと判断し、目を閉じた。
あー、今日の朝ご飯は焼き魚が良いなぁ。できれば皮がパリパリのやつ。お味噌汁の具は、お出汁を吸ったジューシーな油揚げが良い。
しかし、目の前の男はそんなささやかな抵抗すら見逃してくれないらしい。いつもは低血圧で朝が弱いくせに、こういう時だけ無駄に覚醒しているのはなぜなんだ。
「……十秒以内に起きないと等活地獄に堕とすよ」
「うわぁぁぁ!」
ガバッと布団から飛び起きた。
畳の上に眠そうにあぐらをかきながら座っているのは、十王の仲間の変成王。
いつも爽やかな笑顔を浮かべながら、えげつない威力で殴ってくるから、一部ではサイコパスなんて囁かれている男だ。
ちなみに私は秦広王だよ。
十王や獄卒の暗黙のルールで、『変成王が怒ったら、すぐ逃げよう』っていうのがあるくらいには、危険人物である。
「おはよう」なんて言う余裕はない。布団を蹴飛ばしたまま私は仰向けにのけ反り、目の前の変成くんを凝視した。
「脅されて起きるの、目覚めが悪いからやめてよ!」
「お前が起きないからでしょ。あと、もうお昼ね」
にこやかな笑みでとんでもないこと言ったぞ、おい。
しかも否定できないのが腹立つ。
とりあえず「着替えるから出てって!」と変成くんを部屋から追い出し、のそのそと身支度を始めながら息を吐いた。
私が生まれ育ったのは『地獄』と呼ばれる場所だ。
そして十王は、悪行をして死後地獄に落とされた亡者達を裁き、管理するのが仕事……なんだけど。
地獄の王であり、私達の同僚でもある閻魔大王は、ぶっちゃけポンコツすぎて笑えない。
人道には『嘘をつくと閻魔大王に舌を抜かれる』という恐ろしい迷信があるらしいが、現場を知る身内からすれば笑止千万、全然そんなことはない。
昔、閻魔がちょっと格好つけて厳しく亡者を裁こうとしたら、亡者達による大ブーイングと大暴動が起き、メンタルをやられた閻魔が三日三晩寝込んだ。
……地獄の王の威厳って何だっけ?
(あ、元からなかったわ……)
おかげで、他の十王や部下である獄卒からは『馬鹿』だの『ポンコツ閻魔』だのと呼ばれ、完全に舐め腐られている。
時計を見ると、もうすぐお昼だ。確か午後から閻魔に呼び出されていたっけ。
「お昼ご飯を食べ終わったら、気が向いたら向かおうかな」
そんな風に後回しにしたくなるのには理由がある。今まで、あの手の呼び出しでまともな用事だった試しがないのだ。
―――今まで、その手の呼び出しでまともな用事だった試しはない。
『仕事めんどい、ぴえん』とか。
『仕事多すぎて、ぴえん』とか……。
……挙げだしたらキリがない。
***
「秦広王、来てくれたんだね!」
「……」
―――嫌な予感しかしない。
えーっと、縄でぎゅうぎゅうに縛られ、土下座させられているのは……閻魔だよね?
「え、何してんの......?」
呆れ果てて声をかけると、閻魔は縄で縛られたまま、いじいじと上目遣いでこちらを見てきた。
「いやぁね〜、地獄の扉を開けっ放しにしながら寝ていたら亡者達、逃げちゃった☆……それで反省してます」
すると、私の後ろから現れた十王の面々が、閻魔庁の倉庫から発掘してきたであろう業務用の特大バーベキューコンロや木炭、トングを持ってゾロゾロと集まってきた。みんな目がガチだ。
「秦!今夜はバーベキューだ!」
「え、僕、焼かれる?」
「炭火焼きが良いですか?それともじっくりウェルダンで燻製にしますか?」
「あーん、めっちゃキレてるー」
縄で縛られたまま、床をごろごろと転がって逃げようとする閻魔。
それを囲みながら、「おめーら今日の晩飯は肉だー!」「火ィ起こせー!」と、むしろ楽しそうにはしゃぎ始める十王と獄卒達。
……うん。
これはもう、止めるだけ無駄かな。
(よーし、私は焼肉のタレ買ってこよーっと!)
切実に問いたい。
朝起きると、家族でも何でもない男友達が至近距離で自分の部屋に佇んでいた時、人間は一体どういう対処法を取るのが正解なのだろうか。
選択肢A、とりあえず殴る。
選択肢B、近所迷惑を顧みず悲鳴を上げる。
選択肢C、寝起きの頭で顔面に見惚れる。
とりあえず私は夢の中だろうと判断し、目を閉じた。
あー、今日の朝ご飯は焼き魚が良いなぁ。できれば皮がパリパリのやつ。お味噌汁の具は、お出汁を吸ったジューシーな油揚げが良い。
しかし、目の前の男はそんなささやかな抵抗すら見逃してくれないらしい。いつもは低血圧で朝が弱いくせに、こういう時だけ無駄に覚醒しているのはなぜなんだ。
「……十秒以内に起きないと等活地獄に堕とすよ」
「うわぁぁぁ!」
ガバッと布団から飛び起きた。
畳の上に眠そうにあぐらをかきながら座っているのは、十王の仲間の変成王。
いつも爽やかな笑顔を浮かべながら、えげつない威力で殴ってくるから、一部ではサイコパスなんて囁かれている男だ。
ちなみに私は秦広王だよ。
十王や獄卒の暗黙のルールで、『変成王が怒ったら、すぐ逃げよう』っていうのがあるくらいには、危険人物である。
「おはよう」なんて言う余裕はない。布団を蹴飛ばしたまま私は仰向けにのけ反り、目の前の変成くんを凝視した。
「脅されて起きるの、目覚めが悪いからやめてよ!」
「お前が起きないからでしょ。あと、もうお昼ね」
にこやかな笑みでとんでもないこと言ったぞ、おい。
しかも否定できないのが腹立つ。
とりあえず「着替えるから出てって!」と変成くんを部屋から追い出し、のそのそと身支度を始めながら息を吐いた。
私が生まれ育ったのは『地獄』と呼ばれる場所だ。
そして十王は、悪行をして死後地獄に落とされた亡者達を裁き、管理するのが仕事……なんだけど。
地獄の王であり、私達の同僚でもある閻魔大王は、ぶっちゃけポンコツすぎて笑えない。
人道には『嘘をつくと閻魔大王に舌を抜かれる』という恐ろしい迷信があるらしいが、現場を知る身内からすれば笑止千万、全然そんなことはない。
昔、閻魔がちょっと格好つけて厳しく亡者を裁こうとしたら、亡者達による大ブーイングと大暴動が起き、メンタルをやられた閻魔が三日三晩寝込んだ。
……地獄の王の威厳って何だっけ?
(あ、元からなかったわ……)
おかげで、他の十王や部下である獄卒からは『馬鹿』だの『ポンコツ閻魔』だのと呼ばれ、完全に舐め腐られている。
時計を見ると、もうすぐお昼だ。確か午後から閻魔に呼び出されていたっけ。
「お昼ご飯を食べ終わったら、気が向いたら向かおうかな」
そんな風に後回しにしたくなるのには理由がある。今まで、あの手の呼び出しでまともな用事だった試しがないのだ。
―――今まで、その手の呼び出しでまともな用事だった試しはない。
『仕事めんどい、ぴえん』とか。
『仕事多すぎて、ぴえん』とか……。
……挙げだしたらキリがない。
***
「秦広王、来てくれたんだね!」
「……」
―――嫌な予感しかしない。
えーっと、縄でぎゅうぎゅうに縛られ、土下座させられているのは……閻魔だよね?
「え、何してんの......?」
呆れ果てて声をかけると、閻魔は縄で縛られたまま、いじいじと上目遣いでこちらを見てきた。
「いやぁね〜、地獄の扉を開けっ放しにしながら寝ていたら亡者達、逃げちゃった☆……それで反省してます」
すると、私の後ろから現れた十王の面々が、閻魔庁の倉庫から発掘してきたであろう業務用の特大バーベキューコンロや木炭、トングを持ってゾロゾロと集まってきた。みんな目がガチだ。
「秦!今夜はバーベキューだ!」
「え、僕、焼かれる?」
「炭火焼きが良いですか?それともじっくりウェルダンで燻製にしますか?」
「あーん、めっちゃキレてるー」
縄で縛られたまま、床をごろごろと転がって逃げようとする閻魔。
それを囲みながら、「おめーら今日の晩飯は肉だー!」「火ィ起こせー!」と、むしろ楽しそうにはしゃぎ始める十王と獄卒達。
……うん。
これはもう、止めるだけ無駄かな。
(よーし、私は焼肉のタレ買ってこよーっと!)



