野いちご源氏物語 五〇 東屋(あずまや)

中君(なかのきみ)(だま)りこんでしまわれたので、右近(うこん)は他の女房(にょうぼう)とひそひそ話す。
「今日はお客様がたくさんお越しでしたから、(みや)様は遅くまでそちらでお遊びになるだろうと思っていましたものね。まさか夕方にこちらの離れにいらっしゃるとは。そのころは奥様のお(ぐし)を洗いにいくか、油断(ゆだん)して自分たちの部屋に下がっているかで、このお部屋が留守になっていました。それで宮様はご退屈(たいくつ)になられたのでしょう。

それにしてもどうしたらよいのかしら。恐ろしい乳母(めのと)がついていましたから、姫君(ひめぎみ)はご無事のはずですけれど。あの乳母ったら、宮様を力ずくで引き離そうとする勢いでしたよ」

そこへ内裏(だいり)から使者(ししゃ)が来て、明石(あかし)中宮(ちゅうぐう)様のお具合がまた悪くなったとお伝えした。
匂宮(におうのみや)様はすぐにお見舞いに()けつけなさらないといけない。
「あらまぁ、こんなときに。しかし、こちらとしてはちょうどよいかもしれませんね。お伝えしてまいります」
右近がそう言って立とうとすると、他の女房が小声で忠告(ちゅうこく)する。
「宮様はもうお手をつけておられましょう。今さらですから、わざと驚かせるような申し上げ方をしてはいけませんよ」
「いいえ、あの乳母の勢いからして、まだお手は出せずにいらっしゃるはず」

ひそひそと話し合う声が中君にも聞こえる。
<本当に困ったお癖だ。まともな人なら、宮様の妻である私のことさえ嫌うだろう>
とお悩みになる。