野いちご源氏物語 五〇 東屋(あずまや)

あいにく若君(わかぎみ)もお昼寝なさっているので、(みや)様は離れのなかをあちこち歩いてご退屈(たいくつ)しのぎをなさる。
すると、離れの(はし)の、あまり人気(ひとけ)がないあたりに見慣れない女童(めのわらわ)がいたの。
<新しい女房(にょうぼう)が連れてきた子だろうか>
宮様はご興味をひかれて、その子が入っていったところを(のぞ)いてごらんになった。

いくつかのついたての向こうに、華やかな着物の袖口(そでぐち)が見える。
<やはりそうだ。最近この屋敷に来た女房なのだろう。なかなかよさそうな人だ>
そっと戸を開けて、部屋のなかへ入っていかれる。
まだ誰も気づいていない。

宮様が女房と勘違いなさったのは、(かみ)夫人(ふじん)姫君(ひめぎみ)
この姫君のことを、これからは浮舟(うきふね)(きみ)とお呼びしましょう。
浮舟の君は、横になって美しいお庭を(なが)めているところだった。
やっと人の気配(けはい)に気づいたけれど、まさか匂宮(におうのみや)様とは思わない。
女房が来たのだろうと思って起き上がる姿がかわいらしい。

宮様のいつもの浮気心がうずく。
ご自分はついたての後ろに隠れて、浮舟の君の着物の(すそ)を少し引いてごらんになった。
<何かしら>
浮舟の君が(おうぎ)で顔を隠しながら振り返ると、宮様は扇を持つ手をとらえてお尋ねになる。
「そなたは誰。名前を教えておくれ」

浮舟の君はぞっとする。
相手も顔を隠しているので、身分の高い人だということだけは分かる。
<私を恋人にしたいとおっしゃっている(かおる)(きみ)だろうか。そういえばよい香りもする>
と想像するけれど、恥ずかしさで身動きできない。