金曜日はオカルトボランティア

俺ってば物忘れ激しくて嫌になる……と、みんなには内緒で落ち込みはじめてから、約十五分後。
ようやく聖カトレア教会の門が見えてきて――門の内側から出てきた、夏制服(セーラー服)を着た同じ中学の女子三人組と出くわした。
三人組の真ん中の子は、数冊の絵本を抱きかかえていた。
そういやノアが、「今日は教会で、小さい子向けの絵本読み聞かせボランティアがある」と言ってたな。
俺が朝の記憶を思い出していると、女子三人はパアッと顔を輝かせた。

「キャー! 天使様こんにちはー!」
「ラッキー! 今日は会えないかと思ってましたぁ~」
「ノア様今日もおステキですぅ! 一緒に写真撮ってもいいですかぁ?」

いつものことだけど、女子たちは俺たち(モブ)を無視し、ノアを取り囲む。
占部だけがはじめてのモブ体験なので、「え? え?」とキョドっている。

「俺ら先行って、片づけとくわ」

テキトー先輩がノアが持っていたゴミ袋を取りあげ、俺が占部の腕を引っぱり、非モテのモブどもは退散です。



ゴミ袋をゴミ置場へ置き、男三人で礼拝堂の脇に建つ事務室で冷たい麦茶を飲んでいると、若干お疲れ気味なノアが入ってきた。

「ノアお帰りー。帰ってくるの、思ってたより早かったな」
「暑いからね。あんなろくに影もないところで、いつまでも立ち話してられないよ」
「聖、めっちゃ女子にモテるじゃん。イケメン、スゲー」
「あんなの序の口やで。ノアくんと動物園行ってみ。何の動物でも女子だけ寄ってくるから」
「マジで?!」

一歩後ずさるほどおどろいた占部を見て、ノアが軽く眉をひそめる。

「適当なこと言わないで下さいよ。占部くん、信じちゃったじゃないですか」
「適当なことじゃなく、本当のことだろ。ノア様の爆モテっぷり、うらやましい限りです〜」

ノアがすごく女子にモテるのは事実だし、俺的にはいつも通りの、たあいない軽口のつもりだったんだけど。

「僕がああいう人たちの対応に困ってること知ってるのに、清正はそういうこと言うんだ?」

ムカッときたらしいノアに、ギロリとにらまれた。
けど俺は、素直に謝る気持ちにはなれなくて。

「ノアからしたら面倒なことでも、俺みたいな非モテからしたらうらやましくて、つい言いたくなるんだよ」
「不愉快だから、『つい』言わないで」
「えぇー? 俺がモテないのは、ノアが根こそぎ女子のハートをかっさらってるせいもあるんだぞ」
「坊野内、それはさすがに聖へ責任おっかぶせすぎじゃね?」

占部にツッコミを入れられたが、無視。

「だから俺は、お前がいないところでモテてようと思う」
「僕のいないところ?」
「隣町の塾に通いたいなと思ってて。さすがに隣町まで行けば、ノアのイケメンパワーも弱まるだろ」
「甘いで、清正くん。ノアくんは隣町でも、都市伝説級イケメンとして有名やで」

わりとガチで考えてたことだったんだけど、即テキトー先輩に坊野内清正モテモテ大作戦は否定された。

「マジかよ……」
「え……僕、都市伝説になってるの? すごく嫌なんだけど……」
「聖、女神様なナオミさんと似てるもんな。けどまぁ、聖がいない場所でも、坊野内がモテんのはムリだろ。チビだし」
「近寄りがたいヤンキーの占部だってモテなさそうなのに、そういうこと言うんだ?!」
「あ? テメーよりはモテるし」
「清正くんも占部くんも、五十歩百歩やから、ムダな争いせんとき」
「……憂鬱だ」

俺たち三人がギャーギャーさわぐ中、ノアだけがテンション低く、楽しくなさそうだった。
だけど俺は、あえてそれに気がつかないふりをした。



俺と占部で『どちらがモテるか』の不毛な言い争いをした後、腹へったな! ということで、解散することになった。
教会(ここ)が自宅なノアを残し、教会の門の前で、一人だけ家の方向が違うテキトー先輩と別れる。
占部と俺が並んで帰路を歩きはじめてから、すぐのことだった。

「今さらなこと聞くけど、坊野内と聖って、仲いいのか?」

占部がさらりと、でも俺の本心を探るような目で聞いてきた。

「ノアと俺は幼稚園からの知りあいだし、昔はな」
「昔は、ということは、今は違うのか?」
「今は――クラス違うし、顔あわせばしゃべるけど、あんま親しくない友達、かな? 普段つるんでる友達も違うし」
「爆モテ美形生徒会副会長聖ノア様と、村人A坊野内だもんな」
「占部だって村人Bだろ」
「うわ、ウザ! オレはスーパー庶民様だから、平凡庶民の坊野内とは違うし。――昔、聖とデカいケンカしたことあったり?」
「何でそんなこと聞くんだよ?」
「……今日河川敷から帰ろうとしてた時、じーさんにほめられたじゃん。その後坊野内が『ほめられるとやる気でる』と喜んで、それに対して聖がお前に対してふくみがある感じのこと言ってたから、気になった」
「なるほど」

チッ。このハンクラ系ヤンキー、意外と他人を見てるんだな。
事情を知らない占部には変に思われたくない。と思っていたけど、すでに違和感覚えられてたかぁ。
さて、どう答えよう?

「言いたくなきゃ、言わなくていいけどよ」

占部が空を見上げ、軽い口調で言う。

「……たいしたことじゃないけど、今は言う気しないから、また今度でいい?」

『また今度』は、十年後とかかもしれないけど。

「ん。りょーかい」

食い下がることなく、あっさり引いた占部に、俺はほっとする。
前にも説明した通り、俺は昔、親友と言っていいほどノアと仲がよかった。
だけど小四の夏休みにあったボランティアで、ノアに片思いする女子が俺のエゴを指摘し、俺はキレピカ会を退会した。
会をやめて以降、俺はノアとじょじょに距離を置いた。
俺の図星をついた女子はノアのことが好きで、その女子に再びやっかまれて意地悪を言われないために、ではない。
俺がノアから離れたのは、実は自分がほめられたくてボランティアをしていた、ゲスい存在だと自覚したからだ。
ノアは今日だって、『僕は、このボランティアは視える者の義務だと思っている』と、言っていた。
感謝という報酬を求める薄汚れた俺と違い、ノアは清廉潔白でピカピカ。
気がついてしまったならもう、俺はノアの隣に立っていられなかった。気まずくて、恥ずかしくて。
元々、平凡と完璧のアンバランスコンビでもあったし、一度距離をとれば、後は自然にフェードアウト。
そんな感じで今に至る。
ノアがそれについてどう思ったか、思っているかは、知らない。
俺には尋ねる勇気も、ヤボさもないから。