金曜日はオカルトボランティア

雑巾早縫い勝負から約二週間たった、七月四日土曜日の午前九時。
ただいまの空模様は快晴。でも夕方から雨らしい。

「やっと期末テスト終わったと思ったら、次の日に即煩悩ゴミ拾いかよ。クソダリィ」

聖カトレア教会の門前で占部が言い、大あくびをした。

「仕方がないよ。期間テストの範囲発表日からテストが終わる昨日まで、ボランティア活動禁止だったろ。来週の金曜日までゴミ拾いしなかったら、三週間くらい掃除しないことになるからね」
「聖は真面目だな。学校卒業したからテストがない、大人どもに任せりゃいいじゃねーか」
「まぁそう言わんと、テキトーにやろうや」

テキトー先輩が、寝グセのついた頭で文句を言う占部の背中を押し、俺たち四人は河川敷へと歩きだす。
掃除場所が前と同じなのは、前回俺と占部がモメたせいで、中途半端な清掃となってしまったためだ。

「なぁなぁ坊野内。昨日の理科のテスト、お前がヤマかけたとこ出たな!」

出発してからちょっとして、占部が俺の右隣にきて、うれしそうに言った。

「出たな! あれ実は山田の受け売りだったんだけど、バッチリ当たってたから、心の中でオッシャー! ってガッツポーズしたよね」
「山田って誰だ?」
「前話さなかったっけ? 俺の後ろの席の奴」
「聞いたことあるような、ないような? ま、どっちでもいいな。山田に感謝! 次のテストん時も山田の予想、教えてくれよ」

占部がガバっと勢いよく、俺の肩へ腕を回す。

「清正、いつの間に占部くんと仲良くなったの?」

後ろを歩いていたノアが、小走りで俺の左隣に並び、聞いてきた。
ノアからしたら不思議だよな。
雑巾早縫い勝負で何となく和解したけど、ケンカしてた俺らだもん。

「いやさぁ、テスト勉強期間中に、何故かたまたま占部と会うことが多くあって。先生に質問しに行ったら、占部が先に質問しに来てたり、コンビニでばったり出会ったりして、いつの間にか。な、占部?」
「そーそー。おもしろいくらい、何でか偶然よく会ってよ」

俺と占部は肩を組んだまま、ケラケラ笑う。
占部って、話してみたら結構面白いし、気もあうぽくて。
俺、最初は「ヤンキー怖ぇ」と思ってたけど、人を属性だけで判断しちゃダメだなと反省したよ。
ノアはつまらなそうに「ふーん、そうなんだ」と言った後、俺らにあわせるように口角を上げた。

「仲良くなったなら良かったよ。またケンカされちゃたまらないからね。次に二人が遊ぶ時、僕も誘ってよ」
「それはかまわないけど、ノアは生徒会とかでいつも忙しいじゃん。来れんの?」
「生徒会をブラック企業みたいな扱いしないでくれる? 常に忙しいわけじゃないし」

ノアがムッとした顔をしたので、俺は「分かったよ」と答え――情報共有しておくべきことを思い出した。

「そんなことより、テキトー先輩とノア」

俺が二人の名前を呼ぶと、前を歩いていたテキトー先輩は「何や?」とふり向き、ノアは「そんなことよりって」と、少しだけ口をへの字にまげた。

「占部は自分の名前が好きじゃないから、今後ともずっと苗字で呼んで欲しいんだって」
「オレ、男女どっちにも使える『葵』っていう自分の名前、あんま好きじゃないんスよ。名前のせいでちっせぇころ、よく女と間違われたりしてさ。だから何か特別な理由がない限り、『占部』と呼んで欲しいっス」

占部が二人へ、小さく頭を下げる。
前回のボランティアの時、俺が占部のフルネームを呼んで彼が機嫌を損ねたのは、こういう理由からだったのだ。

「そうなんや。かしこまりー」
「うん、分かった。――清正、占部くんと本当に仲良くなったんだね」
「そんな意外?」
「いいや。知能指数近そうだし、不思議ではないけど」
「お前、俺らのこと遠回しにバカって言ったな?――ちょっと占部さん、今の聞きました?」
「ん? ソフトクリームみたいな雲見てたから、何も聞いてない」
「あ、本当だソフトクリームみたいな雲だ。おいしそ〜――って、ちゃんと聞いといて!」

俺がノリツッコミすると、「お前ら二人オモロすぎやろ!」とテキトー先輩が爆笑し、ノアがあきれた顔でため息をついた。



四人でさわぎながら歩いていると、いつの間にか河川敷についていた。
前回と同じく、俺と占部、テキトー先輩とノアの二組に別れてゴミ拾いを開始。

「もうそろそろ昼やし、今日はこれくらいで引き上げよか」

二時間ほどたったころ、班長であるテキトー先輩が終了を告げた。
今日のボランティアは、占部と下らない雑談をしていたら、あっという間に時間がすぎたな。
気が進まないことでも、友達とだべりながらやると、結構楽しい。

「早く帰ってシャワー浴びてぇ」

占部が腰に下げていたタオルで、首の汗をふく。
そろそろ南中を迎える今の時間は、朝のぬるい空気などとっくに消え、沸騰しそうなほど暑い。
他のボランティア団体により草が刈られた土手を、俺たちはゴミ袋を持って上り、もう少しでアスファルトの道へたどりつく、という時だった。

「こんにちは。キミたち、ゴミ拾いしてるの?」

右方向から歩いてきた、薄茶色のポロシャツを着たおじいさんに話しかけられた。

「せやで。今終わって、帰るとこですけど」
「暑い中、お疲れ様。蓮見川がキレイなのは、キミたちのおかげだね。ありがとう」

おじいさんが、にっこり笑う。
その笑顔とうれしい言葉に、暑さと疲れがふっとび、俺はエヘヘと照れ笑いしてしまった。

「暑いし虫に刺されるしで、ダルすぎる掃除だったけど、感謝されるとやる気でるな!」

おじいさんと別れてから、五分くらいたった後の帰り道。
先頭を歩く俺は、マイ火バサミ『エクスカリバー』をふり回しながら言った。

「僕は、このボランティアは視える者の義務だと思っているけど……そうだね、『ありがとう』はうれしいね」

――あ。
ふり返ると、俺をとがめるような瞳をしたノアと目があい、俺は思い出す。
小四の夏休みにとある女子から言われた言葉、『清正くんて、ほめられるためにボランティアしてるよね。それってボランティアとしてヤバくない? ドウキがフジュンすぎるよねー』を。

「うん……」

浮ついた気持ちが一瞬で吹き飛び、俺の心は後悔という汚水を吸って重くなる。
ボランティアを再開してからまだ三回目なのに、俺ってば忘れすぎで油断しすぎだ。
ノアが今遠回しに注意してくれなければ、俺は近い未来できっとまた、自業自得で深く落ち込むことになっていただろう。

「だからね、僕が清正のこと、たくさんほめてあげよう!」

うわ、やべ。
ノアが急に笑顔になってフォローしてくれたということは、今俺、すげー落ち込んだ顔してる?
ノアと同じく事情を知ってるテキトー先輩に気を使われたくないし、事情を知らない占部には変に思われたくない。知られたくない。

「おー、ノアくんサンキュな。たくさんほめてくれたまえ!」

俺は無理矢理テンションを上げ、下手くそなウィンクをして、おどけてみせた。
……あーぁ。
三歩ならぬ、三回ボランティアしたら過去を忘れる鳥頭じゃん、俺。おろかがすぎる。