「は? え? 雑巾早縫い勝負??」
「アハハ! ええやんええやん、オモロイやん! やろやろ!」
ノアは予想外すぎる勝負方法にうろたえたけど、テキトー先輩は爆笑しながら認めてくれた。
「どう勝負するか決まったし、今日のボランティア活動は少し早いけど、おしまいにしよか。――で、試合会場としてノアくん家貸してくれへん? 拾ったゴミを捨てに、教会のゴミ置場へ行くし。ダメ?」
「比較的平和な解決方法ですし、場所を貸すのはかまいませんが……」
「オレは一度家帰って、裁縫道具取ってくる」
え?! 占部、わざわざ自分の裁縫道具取りに行くの?!
「僕の裁縫道具、貸すよ?」
「いや、自分の使うからいい」
ノアの申し出を断り、占部は一人、彼の自宅へと走って行ってしまう。
「裁縫勝負をOKしたことといい、マイ裁縫道具を取りに帰るこだわりといい――清正くん、大丈夫そ?」
テキトー先輩がにやにやしながら聞いてくる。
「平気です。たぶん……」
家庭科の授業で裁縫の課題が出るたび俺は、「ナオミさんと話す理由ができた!」と、ナオミさんに手芸を教えてもらっている。
あこがれの人に習うわけだから、そりゃもう真剣に取り組んだ結果、出来上がった物はすべて先生にほめられている。
だから俺の手芸スキルは、普通の男子中学生より高い自信がある。
でも占部のあの言動――アイツってば脳みそまで筋肉みたいな見た目のくせに、裁縫が得意だったりするのか?!
*
俺とテキトー先輩がノアの家のリビングに上げてもらい、十分くらいたったころ、占部が聖家のインターフォンを鳴らした。
「待たせたな」
ノアの後ろについて部屋へ入ってきた占部は、小六の家庭科の授業で作ったと一目で分かる、有名スポーツメーカーのロゴが入ったナップザックを小脇に抱えていた。
占部は俺と向かいあう形でソファーへ座ると、ナップザックから裁縫道具セットを取り出し――俺はそれに目をうばわれた。
「占部くんはドラゴン使いなんやね。俺もそうなんよ。絵柄は違うけど」
テキトー先輩が言った通り、占部の裁縫道具箱は漆黒で、そこにブルーの稲妻をまとったブラックドラゴンがプリントされていた。
欲しくてたまらなかったけど、「大人になったら絶対後悔するからダメ!」と、俺が母さんに注文を阻止された、超絶カッコいいブラックドラゴンが。
「清正?」
占部の裁縫道具箱を見つめたまま、微動だにしない俺へ、ノアが心配そうな声をかけてくる。
「オレ、書道セットもドラゴンなんスよ。カッケーから、絶対コレ一択スよね!」
習字道具までドラゴンだなんて、うらやましすぎる!
俺は習字道具も母さんにドラゴン選択を拒否され、すげー無難なのなんだよな……。
それなのに占部は両方ドラゴンだと?! ねたましい! ますますこの勝負負けらんねぇ!
「準備完了ってことで、勝負はじめよか」
立っているテキトー先輩が、俺と占部を見下ろして言う。
「ルールは、二つ折りしたタオルのはしをぐるっと一周縫ってから、バッテンに対角線も二本縫うこと。完成した雑巾は、タオルを提供してくれた聖カトレア教会で使うし、速さだけじゃなく出来ばえも審査するから、丁寧に縫うこと」
テキトー先輩はここで言葉を切り、「ええね?」と俺と占部を見て――「スタート!」と言う声と共に、大きく手刀を切った。
「絶対に負けねぇ!」
俺はノアに借りた裁縫道具箱へ手を伸ばし、縫い針と糸を持つ。
くそっ、こういう時に限って糸がぐにゃって針穴に入らない!
「ハッ! ほえ面かかせてやんよ、坊野内ィ!」
俺を嘲笑う占部の手元を見ると、タオルにまち針をうっている。
え、俺ってばやることの順番間違えてる?!
落ち着け! どっちが先でも問題ないはずだっ。
あーもー、玉結びが上手くできない!
*
「そこまで! 勝者、占部!」
審判であるテキトー先輩が、開始時と同じく手刀を大きくふり下ろし、勝敗を叫んだ。
「マジかよ、縫うの速すぎねぇ?! クッソ、負けた!」
「清正! きちんと縫えているかのチェックがあるから、まだあきらめないで!」
「いやいやノアくん、これ見てみい。速さも仕上がりも、文句なしに占部の勝ちや」
ノアはテキトー先輩の手から占部が縫った雑巾をうばい、俺と一緒にチェックする。
「「本当だ……」」
俺とノアは声をハモらせ、占部の勝ちを認めざるをえなかった。
ちゃんと完成しているし、縫い目もミシンで縫ったみたいに一定でキレイなんだもん。
「清正くんのも見せてみ。――もうちょっとで完成やん。惜しかったな」
先輩が言う通り、縫わなきゃいけない距離はあと十五センチくらい。
しかし占部のと比べると、俺のは縫い目がキレイじゃない。
悔しいが、速さだけじゃなく、技術も完敗だ。
「オレにも坊野内が縫ったの見せろよ。――ふーん。まぁまぁじゃねーの?」
「占部、何でそんなに裁縫できるんだよ?」
俺の未完成の雑巾を見分する占部に、当然の疑問を投げかける。
「ばぁちゃんに小さいころから教えてもらってるからな。服だって作れるぜ」
「服作れんの?!」
そんな奴に勝てるわけないじゃん!
そりゃ、不敵に笑って受けて立つわ。
くそぉ……「裁縫なんて女がやることだろ」とか言いそうな外見のくせに、むしろ大得意とか、どんなワナだよ。
「坊野内こそ、『家事はオカン任せです』みたいなツラして裁縫勝負持ちかけてくるし、実際そこそこ縫えてるし、何なんだよ?」
「俺はナオミさんに教えてもらったから……」
「ナオミさん?!」
占部がふわっと顔を赤くする。
そういやナオミさんに前会った時、占部と会ったと言ってたな。
「何? 占部くんもナオミちゃんのこと好きなん?」
「ち、違っ!」
からかうテキトー先輩の言葉に、占部は赤面したまま高速で左右に首をふる。
うーん、これは間違いなく恋してるヤツ。
「清正くんとおそろいやね」
「おそろい違うし! 俺はあこがれてるだけだし!」
いやまぁ、ナオミさんとデートしてみたいな、とか思いはするけども。
「せやったっけ? まぁ横恋慕しても、高倉先輩が彼氏やから、勝たれへんもんね」
「ナオミさん彼氏いるの?!」
占部の顔色が、赤から白へ変わる。
失恋、お疲れ様です。
「ナオミさんにはクールだけど優しくて、高身長細マッチョかつ頭もよくて頼れる、男前な高一の彼氏がいる。俺らじゃ絶対勝てない。あきらめろ」
「マジか……」
うつ向いてがっくりと肩を落とす占部へ、俺は少しだけ親しみを覚えた。
外見はいかにもな不良だけど、そう悪い奴ではないのかもしれない。
「元気だせ。ナオミさんは家庭科全部得意だから、調理実習前に一緒に教えてもらいに行こうぜ」
俺の誘いに「ん」と、占部が小さくうなずく。
意外と素直だな。このギャップ、ちょっと可愛いかも?
「これにて一件落着! な、ノアくん」
「そうですね……」
この時俺は占部の意外性に内心ニヤついていたから、ノアがどこか不服そうな顔をしていたことに、気がつかなかった。
「アハハ! ええやんええやん、オモロイやん! やろやろ!」
ノアは予想外すぎる勝負方法にうろたえたけど、テキトー先輩は爆笑しながら認めてくれた。
「どう勝負するか決まったし、今日のボランティア活動は少し早いけど、おしまいにしよか。――で、試合会場としてノアくん家貸してくれへん? 拾ったゴミを捨てに、教会のゴミ置場へ行くし。ダメ?」
「比較的平和な解決方法ですし、場所を貸すのはかまいませんが……」
「オレは一度家帰って、裁縫道具取ってくる」
え?! 占部、わざわざ自分の裁縫道具取りに行くの?!
「僕の裁縫道具、貸すよ?」
「いや、自分の使うからいい」
ノアの申し出を断り、占部は一人、彼の自宅へと走って行ってしまう。
「裁縫勝負をOKしたことといい、マイ裁縫道具を取りに帰るこだわりといい――清正くん、大丈夫そ?」
テキトー先輩がにやにやしながら聞いてくる。
「平気です。たぶん……」
家庭科の授業で裁縫の課題が出るたび俺は、「ナオミさんと話す理由ができた!」と、ナオミさんに手芸を教えてもらっている。
あこがれの人に習うわけだから、そりゃもう真剣に取り組んだ結果、出来上がった物はすべて先生にほめられている。
だから俺の手芸スキルは、普通の男子中学生より高い自信がある。
でも占部のあの言動――アイツってば脳みそまで筋肉みたいな見た目のくせに、裁縫が得意だったりするのか?!
*
俺とテキトー先輩がノアの家のリビングに上げてもらい、十分くらいたったころ、占部が聖家のインターフォンを鳴らした。
「待たせたな」
ノアの後ろについて部屋へ入ってきた占部は、小六の家庭科の授業で作ったと一目で分かる、有名スポーツメーカーのロゴが入ったナップザックを小脇に抱えていた。
占部は俺と向かいあう形でソファーへ座ると、ナップザックから裁縫道具セットを取り出し――俺はそれに目をうばわれた。
「占部くんはドラゴン使いなんやね。俺もそうなんよ。絵柄は違うけど」
テキトー先輩が言った通り、占部の裁縫道具箱は漆黒で、そこにブルーの稲妻をまとったブラックドラゴンがプリントされていた。
欲しくてたまらなかったけど、「大人になったら絶対後悔するからダメ!」と、俺が母さんに注文を阻止された、超絶カッコいいブラックドラゴンが。
「清正?」
占部の裁縫道具箱を見つめたまま、微動だにしない俺へ、ノアが心配そうな声をかけてくる。
「オレ、書道セットもドラゴンなんスよ。カッケーから、絶対コレ一択スよね!」
習字道具までドラゴンだなんて、うらやましすぎる!
俺は習字道具も母さんにドラゴン選択を拒否され、すげー無難なのなんだよな……。
それなのに占部は両方ドラゴンだと?! ねたましい! ますますこの勝負負けらんねぇ!
「準備完了ってことで、勝負はじめよか」
立っているテキトー先輩が、俺と占部を見下ろして言う。
「ルールは、二つ折りしたタオルのはしをぐるっと一周縫ってから、バッテンに対角線も二本縫うこと。完成した雑巾は、タオルを提供してくれた聖カトレア教会で使うし、速さだけじゃなく出来ばえも審査するから、丁寧に縫うこと」
テキトー先輩はここで言葉を切り、「ええね?」と俺と占部を見て――「スタート!」と言う声と共に、大きく手刀を切った。
「絶対に負けねぇ!」
俺はノアに借りた裁縫道具箱へ手を伸ばし、縫い針と糸を持つ。
くそっ、こういう時に限って糸がぐにゃって針穴に入らない!
「ハッ! ほえ面かかせてやんよ、坊野内ィ!」
俺を嘲笑う占部の手元を見ると、タオルにまち針をうっている。
え、俺ってばやることの順番間違えてる?!
落ち着け! どっちが先でも問題ないはずだっ。
あーもー、玉結びが上手くできない!
*
「そこまで! 勝者、占部!」
審判であるテキトー先輩が、開始時と同じく手刀を大きくふり下ろし、勝敗を叫んだ。
「マジかよ、縫うの速すぎねぇ?! クッソ、負けた!」
「清正! きちんと縫えているかのチェックがあるから、まだあきらめないで!」
「いやいやノアくん、これ見てみい。速さも仕上がりも、文句なしに占部の勝ちや」
ノアはテキトー先輩の手から占部が縫った雑巾をうばい、俺と一緒にチェックする。
「「本当だ……」」
俺とノアは声をハモらせ、占部の勝ちを認めざるをえなかった。
ちゃんと完成しているし、縫い目もミシンで縫ったみたいに一定でキレイなんだもん。
「清正くんのも見せてみ。――もうちょっとで完成やん。惜しかったな」
先輩が言う通り、縫わなきゃいけない距離はあと十五センチくらい。
しかし占部のと比べると、俺のは縫い目がキレイじゃない。
悔しいが、速さだけじゃなく、技術も完敗だ。
「オレにも坊野内が縫ったの見せろよ。――ふーん。まぁまぁじゃねーの?」
「占部、何でそんなに裁縫できるんだよ?」
俺の未完成の雑巾を見分する占部に、当然の疑問を投げかける。
「ばぁちゃんに小さいころから教えてもらってるからな。服だって作れるぜ」
「服作れんの?!」
そんな奴に勝てるわけないじゃん!
そりゃ、不敵に笑って受けて立つわ。
くそぉ……「裁縫なんて女がやることだろ」とか言いそうな外見のくせに、むしろ大得意とか、どんなワナだよ。
「坊野内こそ、『家事はオカン任せです』みたいなツラして裁縫勝負持ちかけてくるし、実際そこそこ縫えてるし、何なんだよ?」
「俺はナオミさんに教えてもらったから……」
「ナオミさん?!」
占部がふわっと顔を赤くする。
そういやナオミさんに前会った時、占部と会ったと言ってたな。
「何? 占部くんもナオミちゃんのこと好きなん?」
「ち、違っ!」
からかうテキトー先輩の言葉に、占部は赤面したまま高速で左右に首をふる。
うーん、これは間違いなく恋してるヤツ。
「清正くんとおそろいやね」
「おそろい違うし! 俺はあこがれてるだけだし!」
いやまぁ、ナオミさんとデートしてみたいな、とか思いはするけども。
「せやったっけ? まぁ横恋慕しても、高倉先輩が彼氏やから、勝たれへんもんね」
「ナオミさん彼氏いるの?!」
占部の顔色が、赤から白へ変わる。
失恋、お疲れ様です。
「ナオミさんにはクールだけど優しくて、高身長細マッチョかつ頭もよくて頼れる、男前な高一の彼氏がいる。俺らじゃ絶対勝てない。あきらめろ」
「マジか……」
うつ向いてがっくりと肩を落とす占部へ、俺は少しだけ親しみを覚えた。
外見はいかにもな不良だけど、そう悪い奴ではないのかもしれない。
「元気だせ。ナオミさんは家庭科全部得意だから、調理実習前に一緒に教えてもらいに行こうぜ」
俺の誘いに「ん」と、占部が小さくうなずく。
意外と素直だな。このギャップ、ちょっと可愛いかも?
「これにて一件落着! な、ノアくん」
「そうですね……」
この時俺は占部の意外性に内心ニヤついていたから、ノアがどこか不服そうな顔をしていたことに、気がつかなかった。



