煩悩払い夏祭りから約一週間後の、七月最後の金曜日。
「キレピカ会には夏休みねぇからって、朝八時半からボランティアって。ダルすぎー」
あくびと伸びを一緒にしながら、占部が言う。
本日の清掃場所は、蓮見中学の周りだ。
「ジャンケン負けた清正くんが、今日は俺とペアな。占部くんとノアくんは、左側からゴミ拾ってって。熱中症にならんよう、時々水分補給するんやで」
正門をスタート地点とし、ノアと占部が時計回り、俺とテキトー先輩が反時計回りで、学校周りのゴミ拾いを開始する。
「夏休みの宿題、ちゃんとやっとる?」
「先輩こそどうなんスか?」
「俺、受験生やで。宿題どころの話じゃなく、毎日勉強漬けでたまらんわ。――なぁ清正くん」
清掃をはじめてから、約十五分後。
フェンスぞいに落ちていたアメの包み紙を、俺がゴミ袋へ放りこんだ時。
「弟の刹くん、あれから大丈夫そ?」
「あー……まだしょげてますが、元気ですよ。日曜に、一緒にプール行く予定ですし」
夏祭りの夜、俺とノアで、ライオン型煩悩ゴミモンスターを倒した。
倒したけど――神職チーム内で、少々さわぎにはなったよね。
俺は運よく無傷だったけど、刹はモンスターの爪によって腕を浅くだけど傷つけられて、血がでてたし。
そんな刹に、当然の疑問を大人たちは投げかけた。
『ゴミを捨てたかった清正くんが、ゴミ置場へ行くのは分かる。だけど刹くんは、何故そんなところにいたの?』と。
この問いに刹は固く口を閉ざしていたが、両親が大あわてでかけつけてると、泣きながらやっと理由をしゃべった。
『霊感をもっと強くして、煩悩ゴミが常に視えるようになりたかった。にーちゃんと同じ、神職チームに入りたかったから』
「さよか。――己の力不足がはがゆくて、どうにかしたくて、やり方を間違ってしもたんやろな」
「力不足のはがゆさは俺も分かるんで、普段からもっと俺が刹を気にかけて、話聞いてやってたらって……後悔してます」
刹が自分の部屋へ煩悩ゴミを持ちこんでいた時、きちんと話しあって諭せていたなら、弟は煩悩ゴミを探しに行くなんて危険なことはせず、ケガをすることもなかっただろう。
俺は兄として大反省している。
そしてこれとは別で、もう一つ反省していることがある。
「俺がキレピカ会やめたいって言った時に、『煩悩ゴミがモンスターになる前に拾って処分するのが、一番大事』って、テキトー先輩言ってたじゃないですか」
「言ったな」
「聞いた時は『きれいごと言われても』と、思いました。でも弟が危険な目にあって、あのきれいごとってマジで本当に大事だなって」
「理解できたん? そうやって人は大人になっていくんよ……――何てな!」
テキトー先輩はワハハと笑いながら、カップ麺の空容器ゴミを火バサミでつかむ。
武器を持つ前の俺は、『武器さえあれば簡単に煩悩ゴミモンスターを倒せる』と、うっすら思っていた。
ノアと占部が、ゾウリムシ型モンスターを少しも苦戦せず倒したのを見て、勘違いしてたんだ。
でも現実は、火バサミを日本刀に武器化して戦えるようになっても、俺一人じゃとても勝てなかった。
ノアがかけつけてくれなければ、あの夜俺は青色のライオンに殺されていたと思う。
だから、『勝てるか分からないモンスターへと煩悩ゴミが進化する前に、煩悩ゴミを拾い集めてお焚き上げしてしまうのが大事!』と、実感をもって理解した。
「煩悩ゴミモンスターと言えば、武器ゲットおめでとさん!」
「あ、ええ、どもです……」
武器があっても使いこなせなければ意味がない、と身をもって知った俺は決まりが悪くて、先輩から視線をそらして返事をした。
テキトー先輩は火バサミとゴミ袋を塀へ立てかけると、俺の肩を軍手をはめた両手で強くつかみ、猫なで声で聞いてきた。
「武器ゲットしたってことは、キレピカ会やめんてことで、ええよな?」
「それは、はい。やめないです」
忘れてたわけじゃないけど、テキトー先輩に「武器がないから、会をやめたい」的な話をしたんだよな。
キレピカ会を続けることにした理由は、武器を持てたことだけじゃないけども。
俺が納得できる理由つきで、『ほめられたくてボランティアしたっていいじゃない』と、ノアが言ってくれたからだ。
(ちなみに俺のピンチにノアがかけつけられたのは、スマホで位置を追える紛失防止用の小型タグが、ノアのリュックに入れてあったから。俺がノアのリュックを背負ってたから、助けが間にあったってワケ)
「そかそか! よかったー!」
テキトー先輩は俺の肩をつかんでいた手を離すと、今度はその手でバシバシと俺の上腕をたたいてきた。ちょっと痛いんですけど……。
「あの、テキトー先輩」
「何や?」
「俺が会をやめようとしてたの……ノアと占部には、内緒にしといてくれませんか?」
上目遣いで俺が小声で言うと、テキトー先輩は唇をニイッと三日月型に歪めた。
「えー? どないしよー?」
「意地悪言わないで下さい」
「ほな、貸しイチな」
「貸しって……。こういうことこそ、適当であって下さいよぉ」
「ダメー」
「テキトー先輩のケチ!」
テキトー先輩のことを少しだけ見直したり、頼れる人かも? と思いかけてたけど、そんなことはなかったぜ!
*
ゴミ拾い開始から、約一時間半後。
野球部は練習試合があるとかで、今日の第二グラウンドは無人。
そんな場所のはしっこにある、用具入れの建物の裏で、俺とテキトー先輩はノア&占部組と合流した。
「班長、今日はもう終わっていいだろ?」
「もちろんや。お疲れさん、占部くん。今日のボランティアはこれにておしまーい!」
俺たちは拾ったゴミを入れたゴミ袋を持ち、蓮見中班の拠点である聖カトレア教会へと歩く。
「結構ゴミ、落ちてたね」
俺の右横にいるノアが、ゴミ袋を見ながら言う。
「今夏休みやから、俺ら生徒が掃除してないせいやね」
ノアの前を歩いていたテキトー先輩が、返事をする。
「いっぱい拾ってきれいになって、清々しいな。クソ暑いけど!」
ハハハと俺が笑えば、俺の後ろにいる暑さに元気を吸い取られた占部が、「うるせー……」と力のない声で反応した。
俺が今歩いている歩道に落ちていたゴミは、俺が拾って俺が持つゴミ袋の中にある。
うん、前より絶対こっちの方がいい。
変かもだけど、清潔できれいって、テンション上がる。
――ん?
この、きれいになって気持ちが高揚する感じ、少し前にもあったな。
えっと……母さんに頼まれて、こげたフライパンをみがいた時だ。
あっ!
ノアが「思い出せ」と言ってた、『幼稚園児だった清正は、何故ボランティア活動が好きだったのか?』の答えはコレだ!
掃除し終えた時、清々しさや達成感で気分がブチ上がるから、俺は清掃ボランティアが好きだったんだ。
だけど次第に、ほめられる方がうれしい、に比重がかたむいていって。
うん、そうだ。すっかり忘れてた。
「清正? 急にだまって、どうしたの?」
「別に。何でもねーよ」
ここにいるのがノアだけなら、「原初の動機を思い出した! 聞いて!」と、話していたかも。
だけど今はテキトー先輩も占部もいて、笑われるかもしれないから、言わない。
「ふーん?――そういえば前に清正、隣町の塾に通いたいと言ってたよね。いつから通うの?」
「まだ親に話してないから、全然決まってない。けど、それがどうかしたか?」
「高校受験にそなえて、僕も同じとこ行こうかなって」
「は?! ダメダメ、絶対ノアは同じ塾にくんな! 女子のハートを根こそぎうばう、爆モテノア様回避のために行くんだから!」
女子にモテたい! なんて、ぜいたくは言わない。
一人の女の子と真剣交際してみたいんだ、俺は!
「嫌だ、絶対行く」
「くんな!――何なの、ノアマジで何なの? 俺にうらみでもあんの?!」
「ノアくんは、どうして清正くんと同じ塾行きたいん?」
テキトー先輩がふり返り、ノアへ尋ねる。
「僕を邪魔者扱いする清正の、邪魔をするためです」
「はぁー?! ふざけんな?!」
「塾かぁ。オレも行った方がいいよなぁ」
後ろから俺の左隣へ移動してきた占部が、にやにや顔で言う。
「占部まで?!――まぁ占部は障害になりそうにないから、別にどうでもいいか」
「坊野内、ちょっとツラかせや」
『うっふ~ん♡』
ドスをきかせた占部の声より、さらに低い声がした。
俺たち四人は全員示しあわせたように立ち止まり、声がした方向を見る。
俺たちの視線の先にはまず、第二グラウンドのフェンス。
次にフェンスの内側にはえてる木々。
最後に木々の隙間から『視える』、蛍光ピンクの巨大ゾウリムシ。
「……ノアくんと占部くんが、倒したんちゃうの?」
「終業式の日にでたのは、確実に倒しましたよ。ね、占部くん」
「おう。だから今視えてんのは、アレの双子とか、か?」
占部が首をかしげるけど、正解を知る者は俺たちの中にいない。
「ええ機会というのは変やけど、清正くんの武器、俺と占部くんにおひろめしてくれへん?」
テキトー先輩が挑発的な目で、俺と俺が持つ火バサミの『エクスカリバー』を見る。
「俺の武器、超カッコいいんで、ビビらないで下さいよ?」
俺は『エクスカリバー』を開いたり閉じたりして、カチカチ鳴らす。
「坊野内の武器より、オレの武器の方がカッコいいし。誰がビビるかよ」
占部がズボンのポケットから指抜きを取り出し、指にはめる。
「全員でかかれば秒で倒せるだろうから、さっさと倒して、事務所で冷たい麦茶飲もうよ」
ノアも服の下へ入れていたロザリオを、外へ引っぱりだす。
「誰が一番にアイツんとこ行けるか競争や!」
テキトー先輩が、言い終わらないうちに走りだす。
俺たち後輩三人も、「ずりぃぞ!」だの「余裕です」だの「待って!」だのさわぎながら、ダッシュで先輩の後を追いかけた。
*終*
「キレピカ会には夏休みねぇからって、朝八時半からボランティアって。ダルすぎー」
あくびと伸びを一緒にしながら、占部が言う。
本日の清掃場所は、蓮見中学の周りだ。
「ジャンケン負けた清正くんが、今日は俺とペアな。占部くんとノアくんは、左側からゴミ拾ってって。熱中症にならんよう、時々水分補給するんやで」
正門をスタート地点とし、ノアと占部が時計回り、俺とテキトー先輩が反時計回りで、学校周りのゴミ拾いを開始する。
「夏休みの宿題、ちゃんとやっとる?」
「先輩こそどうなんスか?」
「俺、受験生やで。宿題どころの話じゃなく、毎日勉強漬けでたまらんわ。――なぁ清正くん」
清掃をはじめてから、約十五分後。
フェンスぞいに落ちていたアメの包み紙を、俺がゴミ袋へ放りこんだ時。
「弟の刹くん、あれから大丈夫そ?」
「あー……まだしょげてますが、元気ですよ。日曜に、一緒にプール行く予定ですし」
夏祭りの夜、俺とノアで、ライオン型煩悩ゴミモンスターを倒した。
倒したけど――神職チーム内で、少々さわぎにはなったよね。
俺は運よく無傷だったけど、刹はモンスターの爪によって腕を浅くだけど傷つけられて、血がでてたし。
そんな刹に、当然の疑問を大人たちは投げかけた。
『ゴミを捨てたかった清正くんが、ゴミ置場へ行くのは分かる。だけど刹くんは、何故そんなところにいたの?』と。
この問いに刹は固く口を閉ざしていたが、両親が大あわてでかけつけてると、泣きながらやっと理由をしゃべった。
『霊感をもっと強くして、煩悩ゴミが常に視えるようになりたかった。にーちゃんと同じ、神職チームに入りたかったから』
「さよか。――己の力不足がはがゆくて、どうにかしたくて、やり方を間違ってしもたんやろな」
「力不足のはがゆさは俺も分かるんで、普段からもっと俺が刹を気にかけて、話聞いてやってたらって……後悔してます」
刹が自分の部屋へ煩悩ゴミを持ちこんでいた時、きちんと話しあって諭せていたなら、弟は煩悩ゴミを探しに行くなんて危険なことはせず、ケガをすることもなかっただろう。
俺は兄として大反省している。
そしてこれとは別で、もう一つ反省していることがある。
「俺がキレピカ会やめたいって言った時に、『煩悩ゴミがモンスターになる前に拾って処分するのが、一番大事』って、テキトー先輩言ってたじゃないですか」
「言ったな」
「聞いた時は『きれいごと言われても』と、思いました。でも弟が危険な目にあって、あのきれいごとってマジで本当に大事だなって」
「理解できたん? そうやって人は大人になっていくんよ……――何てな!」
テキトー先輩はワハハと笑いながら、カップ麺の空容器ゴミを火バサミでつかむ。
武器を持つ前の俺は、『武器さえあれば簡単に煩悩ゴミモンスターを倒せる』と、うっすら思っていた。
ノアと占部が、ゾウリムシ型モンスターを少しも苦戦せず倒したのを見て、勘違いしてたんだ。
でも現実は、火バサミを日本刀に武器化して戦えるようになっても、俺一人じゃとても勝てなかった。
ノアがかけつけてくれなければ、あの夜俺は青色のライオンに殺されていたと思う。
だから、『勝てるか分からないモンスターへと煩悩ゴミが進化する前に、煩悩ゴミを拾い集めてお焚き上げしてしまうのが大事!』と、実感をもって理解した。
「煩悩ゴミモンスターと言えば、武器ゲットおめでとさん!」
「あ、ええ、どもです……」
武器があっても使いこなせなければ意味がない、と身をもって知った俺は決まりが悪くて、先輩から視線をそらして返事をした。
テキトー先輩は火バサミとゴミ袋を塀へ立てかけると、俺の肩を軍手をはめた両手で強くつかみ、猫なで声で聞いてきた。
「武器ゲットしたってことは、キレピカ会やめんてことで、ええよな?」
「それは、はい。やめないです」
忘れてたわけじゃないけど、テキトー先輩に「武器がないから、会をやめたい」的な話をしたんだよな。
キレピカ会を続けることにした理由は、武器を持てたことだけじゃないけども。
俺が納得できる理由つきで、『ほめられたくてボランティアしたっていいじゃない』と、ノアが言ってくれたからだ。
(ちなみに俺のピンチにノアがかけつけられたのは、スマホで位置を追える紛失防止用の小型タグが、ノアのリュックに入れてあったから。俺がノアのリュックを背負ってたから、助けが間にあったってワケ)
「そかそか! よかったー!」
テキトー先輩は俺の肩をつかんでいた手を離すと、今度はその手でバシバシと俺の上腕をたたいてきた。ちょっと痛いんですけど……。
「あの、テキトー先輩」
「何や?」
「俺が会をやめようとしてたの……ノアと占部には、内緒にしといてくれませんか?」
上目遣いで俺が小声で言うと、テキトー先輩は唇をニイッと三日月型に歪めた。
「えー? どないしよー?」
「意地悪言わないで下さい」
「ほな、貸しイチな」
「貸しって……。こういうことこそ、適当であって下さいよぉ」
「ダメー」
「テキトー先輩のケチ!」
テキトー先輩のことを少しだけ見直したり、頼れる人かも? と思いかけてたけど、そんなことはなかったぜ!
*
ゴミ拾い開始から、約一時間半後。
野球部は練習試合があるとかで、今日の第二グラウンドは無人。
そんな場所のはしっこにある、用具入れの建物の裏で、俺とテキトー先輩はノア&占部組と合流した。
「班長、今日はもう終わっていいだろ?」
「もちろんや。お疲れさん、占部くん。今日のボランティアはこれにておしまーい!」
俺たちは拾ったゴミを入れたゴミ袋を持ち、蓮見中班の拠点である聖カトレア教会へと歩く。
「結構ゴミ、落ちてたね」
俺の右横にいるノアが、ゴミ袋を見ながら言う。
「今夏休みやから、俺ら生徒が掃除してないせいやね」
ノアの前を歩いていたテキトー先輩が、返事をする。
「いっぱい拾ってきれいになって、清々しいな。クソ暑いけど!」
ハハハと俺が笑えば、俺の後ろにいる暑さに元気を吸い取られた占部が、「うるせー……」と力のない声で反応した。
俺が今歩いている歩道に落ちていたゴミは、俺が拾って俺が持つゴミ袋の中にある。
うん、前より絶対こっちの方がいい。
変かもだけど、清潔できれいって、テンション上がる。
――ん?
この、きれいになって気持ちが高揚する感じ、少し前にもあったな。
えっと……母さんに頼まれて、こげたフライパンをみがいた時だ。
あっ!
ノアが「思い出せ」と言ってた、『幼稚園児だった清正は、何故ボランティア活動が好きだったのか?』の答えはコレだ!
掃除し終えた時、清々しさや達成感で気分がブチ上がるから、俺は清掃ボランティアが好きだったんだ。
だけど次第に、ほめられる方がうれしい、に比重がかたむいていって。
うん、そうだ。すっかり忘れてた。
「清正? 急にだまって、どうしたの?」
「別に。何でもねーよ」
ここにいるのがノアだけなら、「原初の動機を思い出した! 聞いて!」と、話していたかも。
だけど今はテキトー先輩も占部もいて、笑われるかもしれないから、言わない。
「ふーん?――そういえば前に清正、隣町の塾に通いたいと言ってたよね。いつから通うの?」
「まだ親に話してないから、全然決まってない。けど、それがどうかしたか?」
「高校受験にそなえて、僕も同じとこ行こうかなって」
「は?! ダメダメ、絶対ノアは同じ塾にくんな! 女子のハートを根こそぎうばう、爆モテノア様回避のために行くんだから!」
女子にモテたい! なんて、ぜいたくは言わない。
一人の女の子と真剣交際してみたいんだ、俺は!
「嫌だ、絶対行く」
「くんな!――何なの、ノアマジで何なの? 俺にうらみでもあんの?!」
「ノアくんは、どうして清正くんと同じ塾行きたいん?」
テキトー先輩がふり返り、ノアへ尋ねる。
「僕を邪魔者扱いする清正の、邪魔をするためです」
「はぁー?! ふざけんな?!」
「塾かぁ。オレも行った方がいいよなぁ」
後ろから俺の左隣へ移動してきた占部が、にやにや顔で言う。
「占部まで?!――まぁ占部は障害になりそうにないから、別にどうでもいいか」
「坊野内、ちょっとツラかせや」
『うっふ~ん♡』
ドスをきかせた占部の声より、さらに低い声がした。
俺たち四人は全員示しあわせたように立ち止まり、声がした方向を見る。
俺たちの視線の先にはまず、第二グラウンドのフェンス。
次にフェンスの内側にはえてる木々。
最後に木々の隙間から『視える』、蛍光ピンクの巨大ゾウリムシ。
「……ノアくんと占部くんが、倒したんちゃうの?」
「終業式の日にでたのは、確実に倒しましたよ。ね、占部くん」
「おう。だから今視えてんのは、アレの双子とか、か?」
占部が首をかしげるけど、正解を知る者は俺たちの中にいない。
「ええ機会というのは変やけど、清正くんの武器、俺と占部くんにおひろめしてくれへん?」
テキトー先輩が挑発的な目で、俺と俺が持つ火バサミの『エクスカリバー』を見る。
「俺の武器、超カッコいいんで、ビビらないで下さいよ?」
俺は『エクスカリバー』を開いたり閉じたりして、カチカチ鳴らす。
「坊野内の武器より、オレの武器の方がカッコいいし。誰がビビるかよ」
占部がズボンのポケットから指抜きを取り出し、指にはめる。
「全員でかかれば秒で倒せるだろうから、さっさと倒して、事務所で冷たい麦茶飲もうよ」
ノアも服の下へ入れていたロザリオを、外へ引っぱりだす。
「誰が一番にアイツんとこ行けるか競争や!」
テキトー先輩が、言い終わらないうちに走りだす。
俺たち後輩三人も、「ずりぃぞ!」だの「余裕です」だの「待って!」だのさわぎながら、ダッシュで先輩の後を追いかけた。
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