金曜日はオカルトボランティア

六月十二日、金曜日。天気はくもり。
俺が所属することになった神職チーム・蓮見中班は、毎週金曜日が活動日なので、今日が会へ再加入後初のボランティア日だ。
部活に入っていない俺は学校から帰宅後、制服からジャージに着がえる。
これから俺が向かうのは、近所にある聖カトレア教会。
本部の人の説明によると、そこが今年の蓮見中班の拠点なんだって。

「清正、ようやく戻ってきたね。待ってたよ」

教会まであともうちょいというところで、教会の門の前に立っていた(ひじり)ノアが俺に気づき、声をかけてきた。
ノアは、肩甲骨下まである金髪を後ろで一つに結んでいる長髪男子で、俺の幼なじみ。
同級生だけど、俺は一年A組で、ノアは一年B組。
背が高く、微笑めば気絶する奴がでるくらいの超イケメンだから、お年寄りから赤ちゃん、はては犬猫鳥魚……とにかく女子にめちゃくちゃモテる。

「新しいスマホ買ってもらうために仕方なくだから、待たなくていいし」

ノアの親父さんがここの牧師なので、聖カトレア教会はノアの家でもある。

「つれないこと言わないでよ。たった三人で学区全部守るの、大変だったんだよ」

ノアが首からかけた金のロザリオのネックレスを揺らし、不満げに緑色の目を細める。
こいつは美形で、勉強も運動もできて、品があって優しい。
だからみんなからあこがれと尊敬の眼差しを送られ、一部のファンからは『天使様』と呼ばれていたりもする。
けど俺はノアを幼稚園のころから知っているせいで、このあだ名を聞くと笑いそうになる。
だってノアは、繊細でキレイな見た目にそぐわず大食いで、遠足の弁当は毎回三段がさねのお重なんだぞ。

「俺一人増えたところで、焼け石に水だろ」
「そんなことない、大助かりだよ!――と言わせて欲しい。期待してる」

今は余裕があるから大人ぶってるけど、忙しいとわりとすぐグチるし、敵対した相手には容赦ない。
実はノアは、周りが思ってるほど聖人君子じゃない。
でもコイツ、俺以外の前ではあまりそういう面を見せないんだよな。
幼稚園からの、お互いによく知る仲だから、俺の前では今さら取りつくろっても意味ないと思ってるからか?

「やる気ないから期待裏切るわ。すまんな」

あ、『非モテがねたんでイケメンの悪口言ってる』と思われたくないから、幼なじみのいいところも教えとくわ。
ノアが文武両道なのは、負けず嫌いで、影で努力してるから。
そこは本当に、ノアってスゴイと尊敬してる。

「ウソでも最初くらいやる気だしてよ。――班長が中で待ってるから、ついてきて」

二人で教会の門をくぐって敷地内を進み、礼拝堂へ入る。

「お! 来たな、清正くん。二年ぶりくらいか? おひさー。元気やった?」

礼拝堂に入ってろう下を少し進むと左側に、十字架をかかげた祭壇まで一直線に伸びる通路がある。
その通路をはさみ、左右に長イスが何脚もずらりと並んでいるんだけど、その一番後ろの長イスに座る人物が話しかけてきた。

「お久しぶりです、時東先輩」
「昔みたく、『テキトー先輩』でええで」

中三の時東直人(ときとうなおと)先輩が、糸目をさらに細めて笑う。
明るく人懐っこいけど適当な性格なので、あだ名が『テキトー』なんだ。
しゃべり方がこう(・・)なのは、テキトー先輩のお母さんが関西出身だから、らしい。

「久しぶりで緊張しとるかもしれんけど、メンバー全員知った仲やし、テキトーでええからね」

学年が違うのに、何故俺がテキトー先輩を知っているかというと、小学校一年から四年の夏まで一緒にボランティアをしていたから。
親がキレピカ会会員の子供は、幼少期から親に連れられて、一般人チームでボランティア活動をしていることがほとんど。
俺の両親も、先輩の両親も、キレピカ会会員。だから先輩と俺は、昔からの知りあいってワケ。

「時東先輩は班長なんですから、あまり適当すぎるのは困ります」
「そう固いこと言わんといて、副班長さん」
「ノア、学校でも生徒会副会長やってんのに、ここでも副班長なんてやってんのかよ。中二の林先輩が副班長じゃないんだ?」
「『キングオブネガティブな自分では迷惑をかけてしまうから』と、土下座で副班長を拒否されてしまってね……」

ノアがハァとため息をつく。
そういや林先輩って、そんな感じの人だったっけな……。

「その林やけど、ボランティアはしばらく欠席やから。あいつ今、骨折して入院しとるんよ」
「えっ、大変じゃないスか! 大丈夫なんです?」
「昨日見舞いに行ったら、『神も仏もありませぬぅ』と言いながら、小魚アーモンドを口いっぱいに頬張ってむせてたから、平気やろ」
「……なら、大丈夫か?」
「うん、ヘーキヘーキ。――てことで、全員そろったから、煩悩ゴミ拾いに行こか」

テキトー先輩が勢いよく長イスから立ち上がる。

「ノア、ゴミ拾うための火バサミ貸してくれよ」
「いいけど、清正は自前の持ってたよね?」
「あー……昨日探したんだけど、どこにしまったか、見つからなくて」

俺がそう言うと、ノアは「分かった。持ってくるから、外出て待ってて」と、礼拝堂を出ていった。
……ウソをついてしまった。



ボランティア復帰一発目の清掃場所は、蓮見駅の裏だった。
表ほどじゃないけど、人が多く行き来するから、道のはしに点々とゴミが落ちている。

「袋にシールはったな?」
「はりましたー」

テキトー先輩の言葉に俺は、燃えるゴミ用と燃えないゴミ用の二枚の大きなビニル袋を高くかかげ、答えた。
二枚のビニル袋には、赤文字で『封』と書かれた五センチ四方の紫色のシールをはってある。
このシールをはったゴミ袋へ入れておけば、一ヶ月くらいは煩悩ゴミは孵化(ふか)しないんだ。
そういやまだ、煩悩ゴミが具体的にどんな風に存在してるかの説明、してなかったな。
人から落ちた煩悩はゴミと一体化するんだけど、その合体ゴミは霊感がある人間が視ると、黒色の嫌なモヤをまとって見えるんだ。

「うわ、ノア見て。これ結構ヤバくね」
「あと二個か三個合体したら、『卵』になるだろうね」

そして厄介なことに、煩悩ゴミ同士がくっついたゴミは、霊感がない人には視えなくなるんだよなぁ。
合体前なら霊感ない人にも、普通のゴミとして見えて、拾えるんだけど。
以上の理由により、煩悩ゴミ同士が合体したゴミは、霊感ある視える人が拾うしかない、ということ。
前に『最終的に煩悩ゴミはモンスターになって、人間へ害を及ぼす』と説明したけど、モンスターは一定数以上合体した煩悩ゴミが黒色の卵になって、そこから生まれてくるんだ。
だからほぼ無害かつ、処理が簡単な小さな煩悩ゴミの間に拾い集めて処分しましょう! ってわけ。