前半がぶりっこで後半がデスボイスという落差の激しい大声に、俺の悩みは強制的に一時停止させられ、俺は無意識に声がした方へ顔を向けた。
駐車場の入り口から、小走りでこちらへ向かってくるのは、ひまわり柄の浴衣を着てわたあめを持った、同い年くらいの女子だった。
茶髪のセミロングをハーフツインに結い、結構かわいい顔で……ああーっ! 宮井川火恋だ!
二年前、ノアと仲良しな俺が気に食わなくて、『清正くんて、ほめられるためにボランティアしてるよね。それってボランティアとしてヤバくない? ドウキがフジュンすぎるよねー』と言った女子だ!
「ノアきゅんのこと、アタシすっごく探してたのぉ〜。よかったらぁ、これから一緒にお祭り回らない?」
宮井川火恋は、隣の桃丘中学に通っているはずの同級生で、桃丘寺の娘。
確か『視える』側の人間なので、宮井川も今年から、キレピカ会神職チーム桃丘中班所属だと思う。
「僕はもう屋台回り終わったから、行かない」
屋台飯を置いている長机から、約二メートル手前で立ち止まった宮井川へ、ノアがはっきり断る。
「えぇ〜そんなぁ〜。じゃあアタシの買い物につきあって欲しいなっ」
身体をくねくねさせながら、食い下がる宮井川。
落差の激しい第一声から察してはいるけど、宮井川はいまだにノアへ片思い中ぽいな。
「これ食べ終えたらすぐに清正と帰るから、つきあえない」
俺はそんな約束をした覚えはないぞ、ノア。
というか、ノアの声つめてー。
これ絶対、恋愛成就確率は一ケタかマイナスだろ。
「ノアきゅん、清正くんはこれからボランティアに行くんだよ。だって清正くんはいっぱいほめられたいもんね♡――そうだよなァ、清正ァ!」
俺へ話しかける時だけ、ドスが効いた声に変えるなんて器用だなぁ。
宮井川は昔も俺とノアで態度が違ったけど、より極端な方向へ進化してるな。
しかし……好きな人の前でも嫌いな相手への態度は変えない、というのは、ある意味裏表なくて誠実なのかも?
「俺はボランティアしに行かないけど、ノアはもう一回屋台回ってきたら?」
二人のデートのお膳立てをするつもりはない。
だけど単純に、『ノアと仲良くする人間は誰でも敵』みたいな宮井川のことが俺は苦手で、彼女から物理的に離れたい。
誤解しないで欲しいから一応言っておくと、俺は宮井川のことは嫌いじゃないし、うらんでもいない。
でも過去に宮井川が俺の図星をさした言葉は、いまだ俺の心に暗い影を落とし続けているからさ。
また痛いところを突かれたらどうしよう……という恐れが、今俺の心にある。
「行かない」
ノアー! そこは俺を助けると思って、宮井川とデートしてきてくれよぉ!
「そんな誘い方で、僕がキミと一緒に行くと思えてしまえる、宮井川さんの考えが分からない」
あ、そこツッコむんだ。
そりゃ普通は、いくら恋敵(じゃないけど)が邪魔でも、片思い相手の前でデスボイス披露しないもんな。
「ぴえん☆ ノアきゅん怒らないでぇ。清正くんがほめられたくてボランティアしてるのは、本当のことなのにぃ〜!――そうだよなァ、清正ァ?」
宮井川、本職(?)の占部よりヤンキーレベルが高くね?
……キレピカ会をやめたのが答えだけど、宮井川の前で「うん」とは言いたくない。
「だまってないで何とか言えやァ、清正ァ!」
「宮井川さん、そういうのは良くない」
ノアはパイプイスから立ち上がって移動し、俺へ背を向ける形で、俺とオラついている宮井川の間に立った。
「僕は、ほめられたくてボランティアをすることは、ありだと思ってる」
え!?
「だから、キミがそれを理由に清正を攻撃するのが、とても許せない」
静かだけど、確実に怒りをふくんだノアの声。
俺は数秒ノアの背中を見つめた後、身体を右にかたむけてノアを視界から外し、宮井川を見た。
「……ノアきゅんは、どうしてそんなにも清正をひいきするの?」
宮井川は唇をかみ、傷ついたという表情をしたが、すぐにキラキラぶりっこモードへ戻して尋ねた。
「ひいきしてないよ。キミが誰に言っても、僕は同じ反論をする」
「神様にちかって、絶対にひいきじゃないって言える?」
「……四十五パーセントくらいは、ひいきしてるかも」
半分近くひいきじゃんか!
「やっぱりひいきしてるんじゃない! もー、ノアきゅんじゃなきゃ許さないんだからね☆」
「別に許してくれなくていい。清正は僕の親友だもん。だからひいきする」
親友って……!
ノア、まだ俺のことを、そんな……。
おどろきと申し訳なさとうれしさが、俺の心の中でぐちゃぐちゃにまざりあう。
「前から思ってたけど、ノアきゅんなら清正ァなんかよりもっと、親友としてつりあう人がいると思うのぉ」
「つりあうとかつりあわないとか、意味が分からないな。キミの頭の中は、身分制があった戦前なの?」
ハァとノアが大きなため息をつく。
「僕は幼稚園に入ったころ弱虫で泣き虫で、『女男』とからかわれていてね。そんな僕の最初の味方になってくれた一番の友達が、清正だったんだよ」
そ、そんなことあったっけ?
俺の頭が悪いせいで、思い出せない……。
「それに清正とは小一の時に、煩悩ゴミモンスターを一緒に倒すバディになろうと約束したし」
この約束は、覚えてる。
煩悩ゴミ拾いは二人以上で行うのがルールだから、その規則を理由に、バディを組んでる人たちは結構多い。
当時はノアとずっと一番仲良しだと思ってたし、バディという言葉の響きも意味もカッコ良くて、俺から言い出したことなんだよな……。
「宮井川さん、すまないがはっきり言わせてもらう」
「キャッ☆ そんな急に愛の告白って――」
「僕はキミのことが嫌いだ。親友に嫌なことを言う人なんて、好きになれるわけがない」
あー! ノアってば絶対ワンチャン考えられないほど、はっきりきっぱりフッちゃった!
「ひ、ひどい……嫌いだなんて……」
宮井川が持っていたわたあめで顔を隠し、しゃがみこんでうつ向く。
うーん……俺のことがなかったとしても、宮井川はフラれてたんじゃないかなぁ? 性格の裏表が激しすぎて……。
「ふ、ふふ……でも、いい」
な、何だ?! 宮井川が不気味に笑っているんだが?!
「だってそれってノアきゅんの中で、アタシはモブじゃないってことだもんね!」
宮井川はジャンプして立ち上がるとウィンクし、ピースまでした。
「好かれも嫌われもせず、その他大勢になるくらいなら、ノアきゅんから唯一嫌われてる、特別な女の子の方がいいよねっ♡」
「ちょ、宮井川さん?!」
ヒェッ!
宮井川がダッシュし、間に立つノアをひらりとかわして、俺の目の前に来たんですけど!
「だから清正ヨォ、アタシはテメーに謝らねぇからなァ! 今回は引いてやるけど、次会った時は覚えてろォ!」
宮井川は腰をかがめ、俺と宮井川の鼻がくっつきそうなほど顔を近づけてメンチを切ると、デスボイスで捨て台詞を吐いた。
「じゃあねノアきゅん♡ バイバーイ♡」
どう返事をしていいか分からず固まる俺を無視し、宮井川はくるっとふり返ってノアへぶりっ子した後、スキップしながら駐車場から出ていった。
恋する乙女は強いって、こういうこと? 怖すぎない……?
「清正」
宮井川が去っていった方向を呆然と見ていると、シリアスな声でノアに名前を呼ばれた。
「いい機会だから、ずっと話したかったこと、話していい?」
駐車場の入り口から、小走りでこちらへ向かってくるのは、ひまわり柄の浴衣を着てわたあめを持った、同い年くらいの女子だった。
茶髪のセミロングをハーフツインに結い、結構かわいい顔で……ああーっ! 宮井川火恋だ!
二年前、ノアと仲良しな俺が気に食わなくて、『清正くんて、ほめられるためにボランティアしてるよね。それってボランティアとしてヤバくない? ドウキがフジュンすぎるよねー』と言った女子だ!
「ノアきゅんのこと、アタシすっごく探してたのぉ〜。よかったらぁ、これから一緒にお祭り回らない?」
宮井川火恋は、隣の桃丘中学に通っているはずの同級生で、桃丘寺の娘。
確か『視える』側の人間なので、宮井川も今年から、キレピカ会神職チーム桃丘中班所属だと思う。
「僕はもう屋台回り終わったから、行かない」
屋台飯を置いている長机から、約二メートル手前で立ち止まった宮井川へ、ノアがはっきり断る。
「えぇ〜そんなぁ〜。じゃあアタシの買い物につきあって欲しいなっ」
身体をくねくねさせながら、食い下がる宮井川。
落差の激しい第一声から察してはいるけど、宮井川はいまだにノアへ片思い中ぽいな。
「これ食べ終えたらすぐに清正と帰るから、つきあえない」
俺はそんな約束をした覚えはないぞ、ノア。
というか、ノアの声つめてー。
これ絶対、恋愛成就確率は一ケタかマイナスだろ。
「ノアきゅん、清正くんはこれからボランティアに行くんだよ。だって清正くんはいっぱいほめられたいもんね♡――そうだよなァ、清正ァ!」
俺へ話しかける時だけ、ドスが効いた声に変えるなんて器用だなぁ。
宮井川は昔も俺とノアで態度が違ったけど、より極端な方向へ進化してるな。
しかし……好きな人の前でも嫌いな相手への態度は変えない、というのは、ある意味裏表なくて誠実なのかも?
「俺はボランティアしに行かないけど、ノアはもう一回屋台回ってきたら?」
二人のデートのお膳立てをするつもりはない。
だけど単純に、『ノアと仲良くする人間は誰でも敵』みたいな宮井川のことが俺は苦手で、彼女から物理的に離れたい。
誤解しないで欲しいから一応言っておくと、俺は宮井川のことは嫌いじゃないし、うらんでもいない。
でも過去に宮井川が俺の図星をさした言葉は、いまだ俺の心に暗い影を落とし続けているからさ。
また痛いところを突かれたらどうしよう……という恐れが、今俺の心にある。
「行かない」
ノアー! そこは俺を助けると思って、宮井川とデートしてきてくれよぉ!
「そんな誘い方で、僕がキミと一緒に行くと思えてしまえる、宮井川さんの考えが分からない」
あ、そこツッコむんだ。
そりゃ普通は、いくら恋敵(じゃないけど)が邪魔でも、片思い相手の前でデスボイス披露しないもんな。
「ぴえん☆ ノアきゅん怒らないでぇ。清正くんがほめられたくてボランティアしてるのは、本当のことなのにぃ〜!――そうだよなァ、清正ァ?」
宮井川、本職(?)の占部よりヤンキーレベルが高くね?
……キレピカ会をやめたのが答えだけど、宮井川の前で「うん」とは言いたくない。
「だまってないで何とか言えやァ、清正ァ!」
「宮井川さん、そういうのは良くない」
ノアはパイプイスから立ち上がって移動し、俺へ背を向ける形で、俺とオラついている宮井川の間に立った。
「僕は、ほめられたくてボランティアをすることは、ありだと思ってる」
え!?
「だから、キミがそれを理由に清正を攻撃するのが、とても許せない」
静かだけど、確実に怒りをふくんだノアの声。
俺は数秒ノアの背中を見つめた後、身体を右にかたむけてノアを視界から外し、宮井川を見た。
「……ノアきゅんは、どうしてそんなにも清正をひいきするの?」
宮井川は唇をかみ、傷ついたという表情をしたが、すぐにキラキラぶりっこモードへ戻して尋ねた。
「ひいきしてないよ。キミが誰に言っても、僕は同じ反論をする」
「神様にちかって、絶対にひいきじゃないって言える?」
「……四十五パーセントくらいは、ひいきしてるかも」
半分近くひいきじゃんか!
「やっぱりひいきしてるんじゃない! もー、ノアきゅんじゃなきゃ許さないんだからね☆」
「別に許してくれなくていい。清正は僕の親友だもん。だからひいきする」
親友って……!
ノア、まだ俺のことを、そんな……。
おどろきと申し訳なさとうれしさが、俺の心の中でぐちゃぐちゃにまざりあう。
「前から思ってたけど、ノアきゅんなら清正ァなんかよりもっと、親友としてつりあう人がいると思うのぉ」
「つりあうとかつりあわないとか、意味が分からないな。キミの頭の中は、身分制があった戦前なの?」
ハァとノアが大きなため息をつく。
「僕は幼稚園に入ったころ弱虫で泣き虫で、『女男』とからかわれていてね。そんな僕の最初の味方になってくれた一番の友達が、清正だったんだよ」
そ、そんなことあったっけ?
俺の頭が悪いせいで、思い出せない……。
「それに清正とは小一の時に、煩悩ゴミモンスターを一緒に倒すバディになろうと約束したし」
この約束は、覚えてる。
煩悩ゴミ拾いは二人以上で行うのがルールだから、その規則を理由に、バディを組んでる人たちは結構多い。
当時はノアとずっと一番仲良しだと思ってたし、バディという言葉の響きも意味もカッコ良くて、俺から言い出したことなんだよな……。
「宮井川さん、すまないがはっきり言わせてもらう」
「キャッ☆ そんな急に愛の告白って――」
「僕はキミのことが嫌いだ。親友に嫌なことを言う人なんて、好きになれるわけがない」
あー! ノアってば絶対ワンチャン考えられないほど、はっきりきっぱりフッちゃった!
「ひ、ひどい……嫌いだなんて……」
宮井川が持っていたわたあめで顔を隠し、しゃがみこんでうつ向く。
うーん……俺のことがなかったとしても、宮井川はフラれてたんじゃないかなぁ? 性格の裏表が激しすぎて……。
「ふ、ふふ……でも、いい」
な、何だ?! 宮井川が不気味に笑っているんだが?!
「だってそれってノアきゅんの中で、アタシはモブじゃないってことだもんね!」
宮井川はジャンプして立ち上がるとウィンクし、ピースまでした。
「好かれも嫌われもせず、その他大勢になるくらいなら、ノアきゅんから唯一嫌われてる、特別な女の子の方がいいよねっ♡」
「ちょ、宮井川さん?!」
ヒェッ!
宮井川がダッシュし、間に立つノアをひらりとかわして、俺の目の前に来たんですけど!
「だから清正ヨォ、アタシはテメーに謝らねぇからなァ! 今回は引いてやるけど、次会った時は覚えてろォ!」
宮井川は腰をかがめ、俺と宮井川の鼻がくっつきそうなほど顔を近づけてメンチを切ると、デスボイスで捨て台詞を吐いた。
「じゃあねノアきゅん♡ バイバーイ♡」
どう返事をしていいか分からず固まる俺を無視し、宮井川はくるっとふり返ってノアへぶりっ子した後、スキップしながら駐車場から出ていった。
恋する乙女は強いって、こういうこと? 怖すぎない……?
「清正」
宮井川が去っていった方向を呆然と見ていると、シリアスな声でノアに名前を呼ばれた。
「いい機会だから、ずっと話したかったこと、話していい?」


