金曜日はオカルトボランティア

夏休みがはじまってから、約一週間後。
今日は、蓮見神社の煩悩払い夏祭り!
今年も祭りは大盛況で、朝から人がたくさん集まり、神社もその周辺も活気に満ちていた。
予告されていた通り、俺とノアとテキトー先輩は、朝早くから祭りの手伝いにかり出された。
雲一つないクソ暑い青空の下、煩悩ゴミ掃除を頼まれたり、おっさんたちにまじって飲み物や弁当を運ぶのをお願いされたり、町内会が出店している屋台の手伝いに巻きこまれるなどなど、俺(だけじゃないけど)はこき使われまくった。
仕事は煩悩ゴミ対応だけ、と聞いてたんだけど……。
途中、水風船の屋台を手伝っていたテキトー先輩が、水風船に水を入れすぎて割り、服をびしょびしょにしている姿を目撃したりもした。
(ちなみに祭りの主催者の一人である占部は、白の着物にあさぎ色の袴という神主スタイルで、俺たち以上に忙しく走り回っている姿を、遠くから何回か見かけた)

「清正くーん、本部で東海林(しょうじ)のおじさんが呼んでるわ」

上空のスカイブルーがようやくオレンジ色に染まってきた、午後七時ちょっと前。
射的の屋台の裏で俺が一休みしていると、俺たちと同じく祭りの手伝いをしているナオミさんが来て、教えてくれた。

「了解です! 行ってきます!」

普段なら、あこがれのナオミさんに話しかけられたことを喜び、これ幸いと色々話すんだけど。
今日は返事をしてすぐ、俺は本部へ向かって走り出した。
終業式の日の朝にナオミさんに言われた、『弟とまた仲良くしてくれたら、姉としてうれしく思うわ』という話をまたされたら、困ってしまうからだ。
ノアのことは決して嫌いじゃない。今も……友達だと、俺は思っているし。
だけど今俺はノアに対して気まずさがあって、姉であるナオミさんにも、申し訳なさみたいな感情があって。
逃げている場合じゃないのは、分かってる。
俺がキレピカ会をやめるためには、ノアと占部に「会をやめたい」と話して、OKをもらわないといけないから。
くそっ、テキトー先輩が出したキレピカ会をやめるための条件、クリア難易度高すぎ! ものすげー話しづらいっての!



「あ、清正」

祭りに集まった人の波をくぐり抜け、祭り運営本部のテント下へいる東海林のおじさんまで後少し、というところで、俺は右から来たノアと出会ってしまった。

「おう、ノアじゃん。どしたの?」

話さなきゃいけないことあるけど話したくねぇー! という気持ちを隠し、俺は普段通りにふるまう。

「東海林のおじさんに呼ばれて。清正は?」
「俺も同じ。東海林のおっさん、俺らに何の用だろうな?」
「たぶん、手伝い上がっていいよ、という話じゃないかな? もう七時になるし」

二人で東海林のおっさんの元へ行けば、ノアが予想した通りだった。

「ノアくんも清正くんも、たくさん手伝ってくれてありがとうな。お疲れ様。――これ、手伝ってくれたお礼。町内会がだしてる屋台で使えるから」

東海林のおっさんは腰につけていたウエストポーチを開け、屋台のタダ券を三枚ずつ、俺とノアにくれた。

「ありがとうございます。清正、一緒に屋台回ろう!」
「……そうだな。夕飯は屋台飯にするか」

このタイミングで誘われたら、断われないよなぁ。



ということで、俺は気まずく思う心を隠して、ノアと屋台めぐりをしたんだけど。

「おい、もうそれくらいにしとけよ」

俺は小四まではノアと祭りに参加していたから、知らないわけでも忘れていたわけでもなかったけど――中学生になったノアの大食いは、進化していた。

「えー? まだ足りなくない?」
「十分足りてるよ。爆買いしすぎだろ」

キラキラした瞳で半歩先を進むノアの右腕には、三人前の焼きそばが入った袋、左腕には四人前のたこ焼きが入った袋が、ぶら下がっている。
更に左手の指の間に、チョコバナナとりんご飴(小)と冷やしパインの棒をはさみ、右手にはさっき買ったイチゴ味のかき氷を持っている。

「この日のためにお小遣いためてたんだから、いいんだよ!」

ちなみに俺は、左手にお好み焼きと唐揚げを入れた袋、右手にブルーハワイ味のかき氷を持っている。

「でもそれ以上持てないだろ。今持ってるの食ってから、また買いに行けよ」
「それはそうだね。じゃあ町内会のテントへ行こう。あそこならイスあるし、落ち着いて食べられるから」
「あ、ちょっと待って」

方向転換しようとするノアを俺が呼びとめると、ノアは一瞬けげんな顔をしたが、すぐに「分かった」と言った。
俺とノアの視線の先には、俺が祭りに行った時に絶対に買う、ベビーカステラを売る屋台があった。



「後ろにいる背ぇ高い彼女の分、オマケしとくな!」

野球帽をかぶったおっさんが、ベビーカステラを入れた紙袋を俺へ手渡しながら、下手くそなウィンクをして言った。

「へっ?!――あー、はい……。ありがとうございます」

「俺、幽霊の恋人つれてんのか?!」と一瞬目を見開いたが、『背ぇ高い彼女』が誰であるかをすぐに理解し、俺はおっさんにお礼を言って離れた。

「清正、オマケしてもらえてよかったね。僕のおかげなんだから、後で僕にも一つちょうだい?」

ベビーカステラ屋から十分に離れてから、ノアが言う。
はいそうです。この顔面がキレイすぎる長髪男を、野球帽おっさんは俺の彼女だと勘違いしたみたいです。

「昔、ノアと屋台回った時、何度も似たようなことあったな……」
「そうだね」

普段なら、女子と間違われると不機嫌になるノアだけど、食べ物がからむ時だけは寛容になる。教会の跡取りとして、いいのかそれで。

「こんばんは、ノアくんと清正くん。それ夕ご飯?」

神社近くの駐車場に設置された町内会のテントの下は、思っていたより人が少なかった。
テント下にある長机の上に屋台飯を置いていると、我が家から四軒先に住むおばさんに声をかけられた。
「はい」と俺が答えると、おばさんは笑顔でノアを見ながら「飲み物がないじゃない。これあげるわ」と、お茶のペットボトルを二本くれた。

「「ありがとうございます」」

二人で声を重ねてお礼を言ったんだけど、相変わらずおばさんはノアだけを見つめたまま「いいのよぉ」と言い、微笑みながら去っていった。
ノアを女子と勘違いしたベビーカステラ屋はともかく、美形の威力ってやっぱすげーな。
焼きそば屋とたこ焼き屋でも、オマケしてもらってたし。

「テキトー先輩も手伝い終わったかな?」
「さすがに終わってると思うよ」

俺たちは、近くにあったパイプイスを持ってきて座る。

「連絡してみる?」
「してもいいけど、僕は今すぐ食事がしたい」

お腹が空いているせいか、ノアが優等生らしからぬイラついたジト目を、俺へ向けてくる。

「分かった。俺もこき使われて腹減ったから、連絡は後回しにする」

空腹の獣は怖いからな……と思いつつ、俺はペットボトルのフタをパキッと開けた。

「うん、そうしよう。――時東先輩呼ばなくても、僕と二人だって別によくない? 清正は最近、占部くんと遊んでばっかりだったし。今日は久しぶりに僕と遊んでよ」

ノアがホクホク顔で、焼きそばのパックにかけられていた輪ゴムを外す。

「友達や知りあいもたくさん来てると思うから、絶対そいつらと会うし、合流することになると思うぞ」

屋台めぐり中は、「次どこの屋台行く?」「何味にする?」などの話題でごまかせたけど――やっぱり今俺、ノアと二人きりは気まずい。
だから俺はノアの誘いに対し、あいまいで遠回しな返事をした。

「今日ノアは、何を手伝ってたんだ?」
「先輩や清正たちと煩悩ゴミ拾いした後は、婦人会の人たちと一緒に裏でおにぎりにぎったり、くじの景品用意したり、こまごまとした作業が多かったかな。――いただきます!」

ノアは割り箸を割ると、焼きそばをガバっとすくい、大口を開けてもしゃもしゃ食べる。
相変わらず、おいしそうに食う奴だな。
腹減ったから、俺もお好み焼きを食べよう。

「焼きそばもたこ焼きも、コンビニやスーパーで買えるし、家でも作れるけど、お祭りの屋台のは特別だよね」
「たまに『こんなの売るな』みたいな、ハズレのもあるけどな」
「そういうのもふくめて『特別』なんだよ」

今食べてるお好み焼きの味がイマイチに感じるのは、屋台が悪いのか、俺の心の問題なのか。
最初にやった煩悩ゴミ拾い以降の手伝いは、ノアとは一度も一緒じゃなくてラッキー! と、思っていたのになぁ。
さっきもいったけど、俺がこうしてノアと一緒にすごす祭りは、小四の夏以来の二年ぶり。
『ほめられたくてボランティアをやっている』と指摘された俺は、薄汚い自分に気がつかなかったのが恥ずかしすぎて、ノアとボランティアから逃げたからな。
ごめんなさい、ナオミさん。
『弟とまた仲良くしてくれたら、姉としてうれしく思うわ』というお願いは、叶えてあげられなさそうです。

「清正が今もベビーカステラが好きだって知って、ほっこりしちゃったよ」
「何だそれ。ま、ベビーカステラはあったかくても、冷たくなってもうまいからな」

ノアに、「俺がキレピカ会やめるの認めて」と言わなきゃ。
うー……昔親友なみに仲良かったぶん、他の誰に言うよりも、言いづらい。
テキトー先輩ひどいよ。事情知ってんだし、鬼畜な条件ださずに、さっさと俺を逃がしてよ。
ダメだ、今日は言えそうにない。次会った時に言うことにしよう――と、俺がひよった時だった。

「あー! ノアきゅん♡ みーつけた!――ってゲェェェー! 清正がいるじゃねーか!」