煩悩ゴミモンスター討伐後、家に帰って昼飯食ってダラダラして、午後四時すぎ。
今日が終業式であろうが、金曜日は金曜日。
よってキレピカ会神職チーム蓮見中班の俺は、煩悩ゴミ拾いボランティアをしなくてはならない。
本日の掃除場所は、蓮見駅の駅前。
「僕は生徒会で旧校舎裏のゴミの片づけがあるから、今日はそっちのボランティアには参加できないから。時東先輩によろしく」
ということで、今回はノアがいないのが唯一の救いか。
「旧校舎の裏に煩悩ゴミモンスター出たん?! どんなのやった?」
「汚ない蛍光ピンクのゾウリムシ型。デカかったけど、オレと聖で瞬殺っスよ」
数メートル離れた場所で、ドヤ顔の占部が旧校舎裏での戦闘を、身ぶり手ぶりをまじえながらテキトー先輩に話している。
暑いのに二人とも元気だな。俺は今すぐにでも家へ帰りたい。
駅前はエアコンや車の排熱、アスファルトにたまった太陽光熱などで、河川敷よりたぶん気温が高い。
道のところどころに落ちている、黒いモヤをまとった煩悩ゴミを、俺は無言で拾い集めてゴミ袋へ入れていく。
早く終われ、早く終われ、早く終われ……。
俺が心の中でくり返しとなえていると、マイ火バサミにぽつんと水の粒が落ちた。
「夕立か?」
俺が疑問を口にして間もなく、激しくザアザアと雨が降ってきた。
俺たちは商店街のアーケード下へ逃げ込み、雨宿りをする。
「後少し待ってやまんかったら、今日はもう終わりにしよか」
テキトー先輩がアーケードの下から、大量の水を地上へ落とす灰色の空を見上げて言う。
やった! いつもより早くボランティア終われるかも!
俺がついニヤッとした時、後ろから右肩にドンと何かがぶつかってきた。
「あ、スミマセン!――て、ガキかよ。ボランティアか? ガキはヒマでいいなぁー」
ふり返ると若いサラリーマンがいて、謝罪よりグチだか嫌味だかが多めな言葉を吐き、傘をさして商店街から出ていく。
「ぶつかっといて何だァ、アイツ! おい、待てよ!」
とっさに反応できなかった俺にかわり、占部がサラリーマンを追いかけようとする。
雨音の激しさからか、占部の声は聞こえなかったようで、サラリーマンはふり返らない。
「やめや、占部!」
テキトー先輩が、アーケードの下から出ていこうとする占部の腕をつかみ、引き止める。
「軽くぶつかられただけだし、ぬれるからやめとけ」
俺も占部のTシャツを引っぱり、行くなと左右に首をふる。
今日もボランティアのことで、嫌なことがいっぱいだ。
*
俺がサラリーマンにぶつかられた後、少ししてから雨はやんだ。
でもゴミが雨でビチョビチョだし……ということで、今日のボランティア活動はおしまいになった。
俺は家に帰り、また少しダラダラして、一家そろっての夕飯の時間になった。
メインのおかずはピーマンの肉詰めで、俺はあまりピーマンが好きじゃないから、うれしくない。
「清正がキレピカ会へ復帰して、もう一ヶ月ちょっとくらいか? 再開してみてどうだ?」
俺の正面に座る親父が、ビール片手に聞いてきた。
「今すぐやめたい。今日学校で、煩悩ゴミモンスターでたし」
「モンスターでたの?! 危ないじゃん! 大丈夫だった?!」
俺の隣に座る刹が目をかっぴらき、超早口で聞いてきた。
「ノアと占部が一緒にいて、あいつらは武器が使えるからモンスターは倒せたし、ケガもしてない」
「そっかぁ。よかった、にーちゃんが無事で」
「武器を持たない俺は役立たずの足手まといだから、キレピカ会やめたい」
俺は親父の様子を、上目遣いでうかがう。
「神職チームの四割くらいは、武器持ちじゃないと聞いている。だから、そんな理由でやめることは許さん」
予想通り、親父はムスッとした顔で、俺の要望を即却下した。
「班長の時東先輩も武器持ちだって聞いてるし、班の中で俺だけ武器持ってないの、カッコ悪いし肩身がせまいんだよ! やめるなというなら、俺の武器何とかしてよ!」
俺は箸を置いて、親父をにらむ。
「お前の武器はお前にしか作れないと知っているくせに、無理なことを言うな。さっさと飯を食え」
「親父が話をふってきたんだろ! 明日、本部に脱退の手続きしに行くから!」
「……つまり清正は、丸坊主になる覚悟があるということだな?」
親父もビールグラスを置いて俺をにらみ――ギュイイイインッ! と、テーブルの下から聞いたことがある嫌な音がした。
こ、これはバリカンのモーター音?!
親父はいつでも俺の髪を刈れるように、常にバリカンを持ち歩いているのか?!
「お父さん、食事中ですよ」
母さんが箸を持っていない方の手をテーブルの下へ入れると、不愉快な音が止まった。
「母さん止めるな! これはしつけだ!」
「私、それはしつけではないと思うわぁ。――清正、画面バキバキのスマホのままでいいの?」
母さんがおだやかに聞いてくる。
うっ……新しいスマホは、ノドから手が出るほど欲しいけど……。
「お母さん、それはズルいよ。これは男のプライドに関わる問題なんだから」
俺が返事をできないでいると、刹がナイスアシストしてくれた。
「それにスマホは、今どきの学生にはなくてはならない、生活必需品だよ」
「そーだそーだ! 刹の言う通りだ!」
「武器持ってないにーちゃんが、モンスターと出会う率高い仕事をするのはハイリスクだから、神職チームは抜けさせてもらった方がいいと思う」
刹はいったんここで言葉を切り、ウンウンとうなずく俺の手を、ガシッと強くにぎってきた。
「だからにーちゃん、ボクと一緒に一般人チームでボランティアしよ。これならキレピカ会へ入ったままだから、スマホを買ってもらえる条件も満たせると思うんだ!」
フォローしてくれて、キラキラの笑顔で俺を見てくる刹には悪いけど、俺はもう普通のボランティアもしたくないんだよなぁ。
あぁでも前に刹が部屋へ煩悩ゴミを持ちこんだ時、刹がボランティア行く時は、俺も一緒に行くって言ったんだっけ……。
「刹! もう小六なんだから、いい加減兄離れしろ!」
「お父さん、大声ださないで。――清正」
母さんは親父をいさめた後、俺の名前を真面目な声で呼んだ。
「何?」
「やめたいって話、班のみんなにはしたの?」
「……してない」
「じゃあまずそっちに話をしなきゃ。清正が抜けることで一番影響を受けるのが、班のみんななんだから」
「それはそうだけど……」
「特に班をまとめてる班長さんには、話さなきゃよ」
母さんが言うことはもっともだと、俺も思う。
だけど「やめます」は、すげー言いにくいよ。
「お母さん、こないだ班長の時東くんと連絡先交換したから、話しあいのアポとってあげるわね!」
「へ?!」
母さんがスマホを取りだし、操作する。
『アポ』とはアポイントメントの略で、面会や打ちあわせの約束を取ること、だったよな?!
「もしもーし、時東くーん? 坊野内清正の母でーす。今ちょっといいかなー?」
「ちょちょちょちょちょ、待って!!」
俺の必死の制止もむなしく、母さんはあっという間に、俺がテキトー先輩と会う約束を取りつけてしまった。
「明日の朝十時に中学の正門前で、時東くんと落ちあうことになったわよ。寝坊して遅れないようにね!」
俺がキレピカ会をやめるための最大の難関は、母さんかもしれない……。
今日が終業式であろうが、金曜日は金曜日。
よってキレピカ会神職チーム蓮見中班の俺は、煩悩ゴミ拾いボランティアをしなくてはならない。
本日の掃除場所は、蓮見駅の駅前。
「僕は生徒会で旧校舎裏のゴミの片づけがあるから、今日はそっちのボランティアには参加できないから。時東先輩によろしく」
ということで、今回はノアがいないのが唯一の救いか。
「旧校舎の裏に煩悩ゴミモンスター出たん?! どんなのやった?」
「汚ない蛍光ピンクのゾウリムシ型。デカかったけど、オレと聖で瞬殺っスよ」
数メートル離れた場所で、ドヤ顔の占部が旧校舎裏での戦闘を、身ぶり手ぶりをまじえながらテキトー先輩に話している。
暑いのに二人とも元気だな。俺は今すぐにでも家へ帰りたい。
駅前はエアコンや車の排熱、アスファルトにたまった太陽光熱などで、河川敷よりたぶん気温が高い。
道のところどころに落ちている、黒いモヤをまとった煩悩ゴミを、俺は無言で拾い集めてゴミ袋へ入れていく。
早く終われ、早く終われ、早く終われ……。
俺が心の中でくり返しとなえていると、マイ火バサミにぽつんと水の粒が落ちた。
「夕立か?」
俺が疑問を口にして間もなく、激しくザアザアと雨が降ってきた。
俺たちは商店街のアーケード下へ逃げ込み、雨宿りをする。
「後少し待ってやまんかったら、今日はもう終わりにしよか」
テキトー先輩がアーケードの下から、大量の水を地上へ落とす灰色の空を見上げて言う。
やった! いつもより早くボランティア終われるかも!
俺がついニヤッとした時、後ろから右肩にドンと何かがぶつかってきた。
「あ、スミマセン!――て、ガキかよ。ボランティアか? ガキはヒマでいいなぁー」
ふり返ると若いサラリーマンがいて、謝罪よりグチだか嫌味だかが多めな言葉を吐き、傘をさして商店街から出ていく。
「ぶつかっといて何だァ、アイツ! おい、待てよ!」
とっさに反応できなかった俺にかわり、占部がサラリーマンを追いかけようとする。
雨音の激しさからか、占部の声は聞こえなかったようで、サラリーマンはふり返らない。
「やめや、占部!」
テキトー先輩が、アーケードの下から出ていこうとする占部の腕をつかみ、引き止める。
「軽くぶつかられただけだし、ぬれるからやめとけ」
俺も占部のTシャツを引っぱり、行くなと左右に首をふる。
今日もボランティアのことで、嫌なことがいっぱいだ。
*
俺がサラリーマンにぶつかられた後、少ししてから雨はやんだ。
でもゴミが雨でビチョビチョだし……ということで、今日のボランティア活動はおしまいになった。
俺は家に帰り、また少しダラダラして、一家そろっての夕飯の時間になった。
メインのおかずはピーマンの肉詰めで、俺はあまりピーマンが好きじゃないから、うれしくない。
「清正がキレピカ会へ復帰して、もう一ヶ月ちょっとくらいか? 再開してみてどうだ?」
俺の正面に座る親父が、ビール片手に聞いてきた。
「今すぐやめたい。今日学校で、煩悩ゴミモンスターでたし」
「モンスターでたの?! 危ないじゃん! 大丈夫だった?!」
俺の隣に座る刹が目をかっぴらき、超早口で聞いてきた。
「ノアと占部が一緒にいて、あいつらは武器が使えるからモンスターは倒せたし、ケガもしてない」
「そっかぁ。よかった、にーちゃんが無事で」
「武器を持たない俺は役立たずの足手まといだから、キレピカ会やめたい」
俺は親父の様子を、上目遣いでうかがう。
「神職チームの四割くらいは、武器持ちじゃないと聞いている。だから、そんな理由でやめることは許さん」
予想通り、親父はムスッとした顔で、俺の要望を即却下した。
「班長の時東先輩も武器持ちだって聞いてるし、班の中で俺だけ武器持ってないの、カッコ悪いし肩身がせまいんだよ! やめるなというなら、俺の武器何とかしてよ!」
俺は箸を置いて、親父をにらむ。
「お前の武器はお前にしか作れないと知っているくせに、無理なことを言うな。さっさと飯を食え」
「親父が話をふってきたんだろ! 明日、本部に脱退の手続きしに行くから!」
「……つまり清正は、丸坊主になる覚悟があるということだな?」
親父もビールグラスを置いて俺をにらみ――ギュイイイインッ! と、テーブルの下から聞いたことがある嫌な音がした。
こ、これはバリカンのモーター音?!
親父はいつでも俺の髪を刈れるように、常にバリカンを持ち歩いているのか?!
「お父さん、食事中ですよ」
母さんが箸を持っていない方の手をテーブルの下へ入れると、不愉快な音が止まった。
「母さん止めるな! これはしつけだ!」
「私、それはしつけではないと思うわぁ。――清正、画面バキバキのスマホのままでいいの?」
母さんがおだやかに聞いてくる。
うっ……新しいスマホは、ノドから手が出るほど欲しいけど……。
「お母さん、それはズルいよ。これは男のプライドに関わる問題なんだから」
俺が返事をできないでいると、刹がナイスアシストしてくれた。
「それにスマホは、今どきの学生にはなくてはならない、生活必需品だよ」
「そーだそーだ! 刹の言う通りだ!」
「武器持ってないにーちゃんが、モンスターと出会う率高い仕事をするのはハイリスクだから、神職チームは抜けさせてもらった方がいいと思う」
刹はいったんここで言葉を切り、ウンウンとうなずく俺の手を、ガシッと強くにぎってきた。
「だからにーちゃん、ボクと一緒に一般人チームでボランティアしよ。これならキレピカ会へ入ったままだから、スマホを買ってもらえる条件も満たせると思うんだ!」
フォローしてくれて、キラキラの笑顔で俺を見てくる刹には悪いけど、俺はもう普通のボランティアもしたくないんだよなぁ。
あぁでも前に刹が部屋へ煩悩ゴミを持ちこんだ時、刹がボランティア行く時は、俺も一緒に行くって言ったんだっけ……。
「刹! もう小六なんだから、いい加減兄離れしろ!」
「お父さん、大声ださないで。――清正」
母さんは親父をいさめた後、俺の名前を真面目な声で呼んだ。
「何?」
「やめたいって話、班のみんなにはしたの?」
「……してない」
「じゃあまずそっちに話をしなきゃ。清正が抜けることで一番影響を受けるのが、班のみんななんだから」
「それはそうだけど……」
「特に班をまとめてる班長さんには、話さなきゃよ」
母さんが言うことはもっともだと、俺も思う。
だけど「やめます」は、すげー言いにくいよ。
「お母さん、こないだ班長の時東くんと連絡先交換したから、話しあいのアポとってあげるわね!」
「へ?!」
母さんがスマホを取りだし、操作する。
『アポ』とはアポイントメントの略で、面会や打ちあわせの約束を取ること、だったよな?!
「もしもーし、時東くーん? 坊野内清正の母でーす。今ちょっといいかなー?」
「ちょちょちょちょちょ、待って!!」
俺の必死の制止もむなしく、母さんはあっという間に、俺がテキトー先輩と会う約束を取りつけてしまった。
「明日の朝十時に中学の正門前で、時東くんと落ちあうことになったわよ。寝坊して遅れないようにね!」
俺がキレピカ会をやめるための最大の難関は、母さんかもしれない……。


