金曜日はオカルトボランティア

昼前に、一学期の終業式とホームルームが終わった。

「なぁ坊野内、マヨ♪の新しいゲーム実況動画見た?」
「マヨ♪新しいのアップしたんだ? まだ見てない」

担任が教室からいなくなったとたん、後ろ席の山田が俺の背中をつついて聞いてきたから、俺は動画を見るためにカバンからスマホを取り出す。

「ん?」

スマホのスリープモードを解除する前に、着信ランプが点滅していることに気づく。
【仕事があるから、ホームルームが終わったら、第二グラウンドの出入口まで来て】
という、ノアからのDMが届いていた。



「おせーぞ、坊野内!」

仕事って何だよ? と思いながら指定された場所へ行くと、ノア以外に占部もいた。
テキトー先輩がいないのが気になるけど、この面子ということは、たぶん煩悩ゴミ関係のことで呼び出されたんだろうな。

「ホームルーム終わるのが遅かったんだから、仕方ねーだろ。文句はうちの担任に言ってくれ」

俺が二人と合流してすぐに、占部が「これで全員そろったわけだけど、何の用だよ?」と、ノアへ尋ねた。

「集まった顔ぶれ見て分かる通り、煩悩ゴミ関係のことだよ」
「まぁそうだろうとは思ってたけどよ、こんなとこに呼び出した理由は? アチィんだけど」

占部が首に薄くふきだした汗を、手のひらでぬぐう。
体育館の裏にある第二グラウンドは、野球部専用グラウンドなせいもあり、影を作る建物がほぼない。
真夏かつ真昼間の太陽光線は、ようしゃなく俺の肌をこがし、痛いくらい暑い。

「生徒会が設置してる、ご意見ボックスに手紙が届いたんだ」
「そんなのあったっけ?」
「職員室の前にあるよ。清正は占部くんと違って転校生じゃないのに、知らないの?――で、投書には『去年の文化祭のゴミが旧校舎裏に放置されている。片づけて下さい』と、書いてあってね」
「旧校舎?」
「あれだよ、あれ」

俺は、三塁側の奥にひっそりと建つ二階建ての木造校舎を指差し、占部に教える。

「へー、オレ木造校舎なんてはじめて見るわ」
「旧校舎裏にあるそのゴミは今日の夕方、生徒会と有志で片づける予定になってる。だけどその前に、煩悩ゴミがないかの事前チェックを手伝って欲しいんだ」
「だる……。そんくらい聖一人でやれよ。坊野内もそう思うだろ?」
「俺もめっちゃ同意したいけど、煩悩ゴミへの対応は二人以上でやるのがルールだから、呼ばれたんだと思うぞ」
「そういやそうだった……。いや待て! 二人でいいなら、聖と坊野内でいいじゃねーか!」
「僕と占部くんでもいいんだよ?」
「え?」
「一人だけつきあわせるのは、不公平かなと思って」
「なるほど。しゃあねぇなァ……」

ノアは微笑み、占部は大きくため息をついた。



「なぁ聖、テキトー班長は?」

旧校舎へ向かって移動をはじめてすぐ、俺の後ろを歩いていた占部が今さらな質問をした。

「三年生は現在、進路指導を受けてるから来られないよ」
「終業式が終わった直後に、三年生受け持ってる先生が、マイク通して言ってたじゃん」
「アホのくせに、坊野内よくそんなこと覚えてんな」
「占部が右から左に聞き流しすぎなんだよ」

俺が教室を出る時、クラスメイトの野球部部員が「一学期が終わっても、今日も午後から部活だよ」と、ボヤいていた。
しかし今野球部は昼飯中なのか、第二グラウンドには俺たち以外誰もおらず、近くを走る車の走行音が聞こえるくらい静かだ。

「あぁそうだ、清正」

前を歩いていたノアが後ろ歩きで下がってきて、俺の横に並ぶ。

「何だよ?」

『清正くん次第ではあるけど、弟とまた仲良くしてくれたら、姉としてうれしく思うわ』と、今朝ナオミさんに言われたけど……今俺はノアとあまりしゃべりたくない。
おじいさんにほめられ事件in河川敷以降、ノアと俺との間には細いヒビが入ってしまっている。
百パーセント俺の自業自得でできたそのヒビから、俺は全力で目をそらしている。
あの時のことを蒸し返したくないから。
一週間後か一年後か分からないけど、ヒビがくっつくのは無理でも、割れ目に砂でも詰まり、隙間が埋まるのを待ちたい。

「今月末にある、煩悩払い祭りのことなんだけど」

『煩悩払い祭り』とは、毎年七月最後の土曜日に、蓮見神社で行われる夏祭りのこと。
屋台がたくさん出て、花火も上がって、結構大きなお祭りなんだ。

「祭りの当日、僕らキレピカ会神職チーム蓮見中班も、手伝うことになったから」
「手伝うって何を?」
「もちろん、ゴミ処理をだよ」
「――あー、なるほど……」

煩悩ゴミは人から生まれる。
だから人がたくさん集まるお祭りは、否が応でも煩悩ゴミが大量発生する。
さらに神社は、神様がいる聖域だ。
バイキンが殺菌されるみたいに、聖域に入ると煩悩は人からはがれ落ちやすい。
例えば、神社やお寺へお参りに行っただけでも、「心が軽くなった気がする」みたいなことを言う人がいるだろ?
これは聖域効果で、煩悩がはがれ落ちたってこと。
それに屋台から出るゴミで、普通のゴミもたくさん出る。
ゴミ箱がいっぱいになったら回収したり、ポイ捨てされたゴミを拾ったりする人員が必要になる。
よって、「視える奴が煩悩ゴミ拾うついでに、普通ゴミ処理もヨロシク!」――ということかぁー面倒くさぁー。

「ちなみに蓮見神社の跡取りである占部くんは、神事ですごく忙しいから、手伝いの面子には含まれないから」
「オレは舞の奉納とかあって、当日マジ忙しくて掃除まで手が回らないから、お前らよろしく頼む」

占部が拝むように手をあわせ、眉を下げて笑う。

「面倒な手伝いナシで、普通に屋台回りたかったなぁ……」
「手伝ったら、屋台のタダ券が何枚かもらえるらしいから、元気だして」

ノアが俺の背中を、ポンと軽くたたく。
ナオミさんは、河川敷ほめられ事件をいまだノアも気にしているようだ、と言っていたけど……ノアの中で今俺はどういう位置にいて、どういう存在なんだろう?

「タダ券もらえるなら、少しくらいはがんばるかぁ」

聞けない疑問を、俺は手伝いをダルがる言葉でごまかした。