金曜日はオカルトボランティア

今日は七月十七日の金曜日で、一学期の終業式!
明日から寝坊し放題の夏休み!
――と、うれしくなりすぎちゃったせいか、俺は普段よりかなり早く目がさめた。
思い切り伸びをした後ベッドから下り、換気のために窓を開けると、セミがもう鳴いていることに気がついた。
俺は制服に着がえ、母さんに頼まれて刹を起こし、朝食のトーストと目玉焼きをよくかんで腹へ入れ、歯磨きまですませた。
いつも家を出る時間よりだいぶ早いけど、今日はもう出発するか。
早起きは三文の得、という言葉もあるし、何かいいことがあるといいな。

「いってきまーす」

玄関扉を開けて外へ出ると、もう暑い。
でも明日から夏休みだしな! と、俺はるんるん気分で通学路を歩く。
俺の家より学校に近い聖カトレア教会の前を通りすぎ、十字路にさしかかったあたりで、「清正くん!」と後ろから声をかけられた。
よく知っている柔らかな声に、俺は足を止めてふり返る。

「ナオミさん、おはようございます!」
「おはよう。今日は早いのね」

ナオミさんが小走りでかけてきて、俺の隣に並ぶ。
おお、これが三文の得ってやつだな!
いや違うな。あこがれの人に会えたんだから、百万円くらいの得!

「今日は何故か、早く目が覚めちゃいました」
「明日から待望の夏休みだものね」

メガネの奥の目を細め、ナオミさんがくすっと笑う――が、すぐにナオミさんは笑顔を消して言った。

「ねえ、少しお話ししてもいいかしら?」

突然の真面目なトーンに、俺は何事か?! と身がまえる。

「は、はい。何でしょう?」

俺がごくりと生ツバを飲みこめば、ナオミさんは言葉を選ぶようにして話しだした。

「えっと、二週間くらい前――期末テストが終わったころくらいに、弟に何かあったか知ってる?」
「期末テストが終わったころのノアに何か、ですか?」

俺は首をかしげたが、厄日か? と思った日の午前中のことを、すぐに思い出した。
ボランティア活動を通りすがりのおじいさんにほめられ、俺は過去を忘れてうっかり喜んだ。
そんな俺をノアは遠回しに注意してくれたし、フォローもしてくれた。
だけどこの日以降、俺とノアは微妙にギクシャクしている。

「うーん、分からないです」

俺とノアの間に発生している、引っかかると痛いツメのささくれみたいな問題を知られたくなくて、俺はすっとぼけた。

「そう……。ノア、それくらいから微妙に元気がないというか、時々一点を見つめて考えこんでいるの。『悩んでいるなら相談にのるわよ』と声をかけたんだけど、『言わない方がよかったことを言ってしまった自業自得だから、気にしないで』と、言われてしまって……」

言わない方がよかったことを言ってしまったのも、自業自得なのも、ノアじゃなくて俺なんです。と、俺は心の中で謝る。

「それ以上は何も教えてくれないの」

ナオミさんは白い頬に手をあて、ふぅと息を吐く。

「そうなんですね」

知らないふりをする俺を、ナオミさんは数秒見つめた後、何故か優しく微笑んだ。

「清正くんは正直者ね」
「え?」
「顔に書いてあるから」
「へっ?! 何て?!」

朝、洗面所で顔を洗った時に文字なんて書かれてなかったし、それ以降だって誰かから顔に文字を書かれるタイミングなんて、なかったはずだぞ?!

「文字ではないから、詳しくは分からないわ。けど、何となくは分かったって感じかしら」

顔をぺたぺたさわる俺を見て、ナオミさんがくすくす笑う。

「だからこれ以上は聞かないわ。二人の問題だものね。でも、もしノアが清正くんを傷つけるようなことを言ったのなら、ごめんなさい」

あれは、傷つけるようなこと、ではないと思う。
のど元すぎれば熱さを忘れかけていた、俺が悪い。

「別に、そんな……大丈夫です」
「本当に? あの子、表面は完璧ぶってるけど、内心では清正くんに甘えてる部分も結構あるのよ。だから、もしノアが失礼なことを言ったりやったりしたら、教えてちょうだい」

ナオミさんがキリッと表情を引きしめて言う。

「アイツが俺に甘えてる部分なんて、ありますかね?」

大抵のことはできちゃう、あのノアが? ちょっと信じられない。

「あるわね。――清正くん次第ではあるけど、弟とまた仲良くしてくれたら、姉としてうれしく思うわ」
「昔ほどじゃないですけど、今も普通に俺ら仲いいっスよ」

ボランティア仲間として、問題ないくらいには。
ナオミさんは、弟と俺が小四の夏以前の関係に戻って欲しい、と思っているのだろうが。
折を見て、ノアとつっこんだ話しなきゃなのか?
今よりもっとギクシャクしそうだから、できる限りしたくないなぁ……。