その声を聞いた瞬間、ようやく輪郭がはっきりしてしまって、余計に混乱する。
なんで東がここにいるの?
なんでこんなことするの?
心臓が壊れそうなくらい暴れているのに、体は動かない。
「…っ、」
必死に何か言おうとしても、喉の奥で言葉が潰れる。距離が近すぎて、東の気配だけで呼吸が乱れるのが悔しいのに止められない。
「すぐりー?あれ?どこ行った?」
廊下の向こうで三木の声が響く。
数秒か数分かも分からない時間のあと、東の腕の力がふっと緩んで、ようやく口から手が離れる。遅れて体も離れていく距離に、少しだけ寂しさみたいなものが混ざってしまったことには、気づきたくなかったのに。
「ごめん、急に」
振り返ると、そこにいたのは朝と同じ顔なのに、全然違う人みたいに見えた。
なんでこんなにも、私の中をぐちゃぐちゃにするの?
「驚かせたよな、ごめん。どうしても話したいことあって」
どうしても話したいこと?そんなの、私にあるわけない。私たちの間に、そんな大事そうなものなんて残ってないはずなのに。



