「……はぁ」
ため息がこぼれる。考えないようにしても無駄だった。頭の中は東でいっぱいだ。
『切り替え早いし。もう東のことなんとも思ってないから』
昼休みに自分で言った言葉を思い出して、思わず乾いた笑いが出る。
どこが切り替え早いの。どこがなんとも思ってないの。今もこんなに考えてるのに。顔を見るだけで心臓が跳ねるのに。声を思い出すだけで苦しくなるのに。そんなの全部嘘に決まってる。
私こそ、どの口が言ってるんだろう。
『……私、切り替え早いし』
言い切った瞬間の東の顔を思い出す。あの表情が胸に残って離れない。驚いたような、傷ついたような顔。
なんでそんな顔をするのか分からない。
「……なんで」
ぽつりと声が漏れる。
なんであんな顔をしたの。なんでそんなに苦しそうだったの。振られたのは私なのに。傷ついたのも私なのに。どうして東のほうがそんな顔をするの。
意味が分からないから忘れられない。考えないようにすればするほど頭にこびりつく。
告白した日の東の困った顔も、全部鮮明に残っている。
ズキッと胸が痛む。足が止まる。
夕方の廊下は静かで、窓から差し込む光だけが長く伸びている。
その中で一人立ち尽くしながら思う。東を好きにならなければよかったのかもしれない。
でも次の瞬間には、こんなに苦しくても好きになったことは後悔したくないと思ってしまう。
……結局私はどうしようもないくらい東が好きなんだ。



