だって西宮は天馬が好きで。天馬みたいな人に惹かれていて。俺じゃ届かないと思ったから。
だから少しでも近づきたかった。そのままの俺じゃ足りないと思った。西宮に振り向いてもらうには、このままじゃ駄目なんだって。ずっとそう思っていた。
なのに西宮は簡単に言う。そのままでいい、と。そのままがいい、と。
『ねえ、結局どっちが先に――』
西宮が何か言いかけた瞬間、俺はわざと財布を取り出した。そして先にお金を入れる。
『あっ』
西宮が目を見開く。そのまま水のボタンを押した。ガコン、とペットボトルが落ちる音が響く。
『あー!!どっちが先に買うか話し合おうって言ったのに!』
『話し合ってたら昼休み終わるだろ』
『ひどい!』
『ごめんごめん』
『全然反省してない!』
頬を膨らませる西宮。その顔を見た瞬間、胸がきゅっと締め付けられた。
こんな顔、初めて見た。少なくとも俺には。今まで見せたことのない表情だった。
拗ねた顔。少し子どもっぽい顔。いつも天馬に向けていたような顔。そんな顔を今、俺に向けている。
その事実だけで、不思議なくらい心が軽くなった。
さっきまで苦しくて仕方なかったのに。泣きそうだったのに。ほんの少しのことで全部吹き飛んでしまう。我ながら単純だと思う。



