「汀は、西宮さんのことが好きだよね。私が入る余地、ひとつもないかな」
凛音の言葉に、心臓が大きく跳ねた。
まるで誰にも見つからないように胸の奥深くに隠していた秘密を、いとも簡単に引っ張り出されたような気分だった。
言葉を返せないまま視線を落とす。そんな俺を見て、凛音は少しだけ寂しそうに笑った。
1年以上。
そう、もう1年以上になる。
去年の6月頃だったと思う。
同じクラスだった西宮に、恋愛感情を抱くようになったのは。
雨の多い季節で、窓の外には曇り空が広がっていた。
特別な出来事があったわけじゃない。本当に些細なことだった。
その日、日直だった西宮は放課後になっても帰れずにいた。担任に頼まれた雑用をひとりで片付けていたのだ。
教室に忘れ物を取りに戻った俺は、その姿を偶然見かけた。
机の上には大量の資料。ホッチキス。配布プリントの束。教室には西宮ひとりしかいなかった。カチャン、カチャン、と規則正しくホッチキスを打つ音だけが静かに響いている。
見て見ぬふりをして帰ることもできた。でも、なぜか足が止まった。
帰宅部の俺には予定なんてない。急ぐ理由もなかった。それに、一人であの量をやるのは大変そうだったから。ただ、それだけだった。
本当に、それだけだったはずなのに。



