野いちご源氏物語 四九 宿木(やどりき)

(かおる)(きみ)が建物にお入りになると、(べん)(あま)はお部屋へ女房(にょうぼう)を行かせてご挨拶(あいさつ)を申し上げた。
でも実は、薫の君はお部屋にいらっしゃらない。
姫君(ひめぎみ)のお部屋のそばへ行って(のぞ)()なさっているのだもの。
気を()かせた家来が、
「お疲れになったようで、今はお休みになっています」
とお返事する。

<お探しになっていた姫君に(めぐ)り会われたのだ。今のうちに少し休んで、暗くなってからお声をかけようとお思いなのだろう>
弁の尼は納得して、まさか覗き見なさっているとは思わない。
ちょうどそこへ、近くの薫の君のご領地(りょうち)からお食事が届いた。
弁の尼の分も持ってきてくれたので、姫君たちにも出してさしあげる。
それからお化粧(けしょう)をすると、姫君たちのお部屋へご挨拶(あいさつ)に向かった。
さっき女房たちがほめていた着物は、薫の君がお与えになったものでしょうね。
尼らしい清潔(せいけつ)感があって、こうして見るとたしなみ深い顔立ちをしている。

「昨日のうちに戻られるだろうと思ってお待ちしておりましたけれど」
弁の尼が心配して尋ねる。
「その予定だったのですが、姫様がひどくお疲れで、昨日は木津(きづ)(がわ)のあたりで泊まることにしたのです。今朝になってもご気分がすぐれず、なかなか出発できませんでした」
(ろう)女房(にょうぼう)が答えて姫君を起こす。
やっとお目覚めになったみたい。

弁の尼を恥ずかしがって顔を(そむ)けると、その横顔が薫の君からよく見える。
気品ある目元や髪の具合が、大君(おおいぎみ)に似ているような気がなさるの。
とはいえ、お元気だったころの大君をまじまじとご覧になったことはないから、あくまで想像なのだけれど。
薫の君はつい涙をこぼされる。
尼君に何か返事をする声は、中君(なかのきみ)にもよく似ているようにお感じになる。