野いちご源氏物語 四九 宿木(やどりき)

(かおる)(きみ)のお(とも)質素(しっそ)な格好をしているけれど、身分の高い人のお供だと気づかれたみたい。
姫君(ひめぎみ)のお供たちは遠慮(えんりょ)がちにかしこまっている。
乗り物だけを建物に近づけて、姫君が下りられるようにする。
薫の君はその様子を戸の穴から(のぞ)いていらっしゃった。

新しい建物だから、まだ内部が整っていない。
とりあえず外からは見えないようにしてあるけれど、中は戸で簡単に仕切ってあるだけなの。
動くと音がするお着物は脱いで、上着だけを()()ったお姿で、薫の君はその戸の穴からご覧になっている。

乗り物からはなかなか人が下りてこない。
どうやら同乗(どうじょう)している女房(にょうぼう)が、「他のお客様とはどのような方ですか」と(べん)(あま)に尋ねているみたい。
でも弁の尼は、
「早く姫君を下ろしてさしあげなさい。たしかにお客様はお越しだけれど、遠いお部屋にいらっしゃいますから」
としか答えない。
異母妹(いぼまい)の姫君と気づいてすぐに、薫の君は「まだ私の名前は出さないでおくれ」と口止めなさったの。

まず若い女房が下りて、姫君のために乗り物の(すだれ)を上げた。
意外と洗練(せんれん)されたよい女房よ。
もうひとり年配(ねんぱい)の女房も下りて、乗り物のなかに、
「姫様もお早く」
と声をかける。
「なんだか人に見られているような気がするのだけれど」
という姫君のお声が、かすかだけれど上品に聞こえた。