野いちご源氏物語 四九 宿木(やどりき)

賀茂(かも)神社のお祭りがすんだころ、(かおる)(きみ)宇治(うじ)へお行きになった。
お堂の工事の進み具合を確認して、今後のことをご指示なさる。
以前の山荘(さんそう)はお堂にするために取り壊して運んでしまった。
でも、山荘のあった場所にはもう新しいお屋敷ができあがっている。

<ここまで来たのだから、(べん)(あま)に会いにいってやらなければ気の毒だ>
薫の君は建ったばかりのお屋敷にいらっしゃった。
すると、宇治(うじ)(ばし)を渡ってこちらへやって来る行列がある。
質素(しっそ)な乗り物がひとつ。
(とも)は荒々しい警護(けいご)の男と、下働きの人がたくさん。
田舎(いなか)(もの)のようだが>
ちらりとご覧になると、弁の尼がいる建物にお入りになった。

薫の君のお供はまだお庭にいる。
その向こうから、先ほどの行列が近づいてくる。
どうやらこの山荘のお客みたい。
「何者か聞いてまいれ」
と家来にお命じになってしばらくすると、関東(なま)りの返事が聞こえた。
常陸(ひたち)の国の元長官の姫君(ひめぎみ)です。長谷(はせ)(でら)でのお参りをすませ、今お戻りになったのです」

薫の君ははっとなさる。
<もしかしたら中君(なかのきみ)がおっしゃっていた異母妹(いぼまい)の姫君では>
ご自分のお供を目立たないところに(かく)すと、もう一度家来を行かせなさる。
「どうぞ乗り物をお入れください。実は私の主人も来ているのですが、姫君のお部屋からは遠いところにおりますので」
と、姫君一行が安心するように言わせなさった。